1ー1
初っ端のほうはプロローグと内容は似た感じやけど、視点が違うんよね
もう、題名なんとなくで決めるかな…
「今日、あいつがくるらしいぞ」
「まじか」
「ほんとに?」
「マジマジ。登校している姿を見たってだいぶでまわっているから」
廊下を歩いて教室の扉の前に立つと、中から同じクラスの生徒たちが騒いでいるのが聞こえてくる。音をたてながら扉を開けて教室に入ると、さっきまでの騒がしさはどこへいったのか、静かになる。自分の席に移動している間や席に座ってもなお、こちらを遠くから見ているだけで誰も話しかけてこず、ヒソヒソと近くの人と話している。
すぐにHRが始まるチャイムが鳴り、みんなが席に着いてしばらくしてから先生が入ってくると教壇の前に立って欠席者を確認するためにクラスを見回し、俺を見て一瞬驚いたあとすぐにいつも通り、今日の予定を簡単に説明して出て行った。
HRが終わり、授業が始まる前に俺は屋上へと向かう。
屋上に着き、周りに誰もいないことを確認してから手をたたく。
そこはすでに学校の屋上ではなく玄関だった。
履いていた上履きは靴に変わり、足元には机の横にかけてあったカバンもある。
「ただいまっと。誰もいないけど」
階段をのぼって自分の部屋に入り、着替えてベッドに横になる。
ベッドに横になってから五分とたたないうちに俺は眠りにつく。
「んっ…………んんっ……」
しかし、寝てからたぶん十分もたってないだろう。頬がチクチクと刺すような痛みがあるので、眠い目をこすりながら上体を起こす。
「んぁ。よく寝た?」
伸びをしながら周りを見回してみると知らない場所に立っていた。
足元を見てみると魔法陣があった。顔をあげると少女が立っていた。もう一度、魔法陣を見てから少女を見た。俺を呼んだのは目の前にいる少女だと思ったが一応聞いてみた。確認は大事だから。
「俺を呼んだのはキミ?」
少女は首をかしげている。言葉が通じないのだろうか、周りを見回して女の先生らしき人のもとに向かう。俺の後ろには少女もついてきている。
言葉は通じないためジェスチャーでなんとかならないか試してみた。
先生らしき人は首をかしげていたが、ついてきていた少女が理解してくれたのか、魔法をかけてもらった。
「私の言葉がわかりますか?」
言葉が通じるっていいよね。なんて思いながら首をたてに振る。
「いくつか聞きたいことがあるんだけどいい?」
「な、なに?」
「授業? それの続きはいいのかな? まだ、終わってないように見えるけど」
先ほどからみんなの注目を集め、作業が進んでないことを指摘するなんて、俺やさし。なんてことを考えていたら、周りがあわただしく動きはじめた。
女の先生が俺を召喚した少女に契約がなんたら言って、たぶん召喚の終わってない生徒のもとに向かったのだろう。そう言っていたし。そして、なんとなく少女のほうを見ていたら目が合った。すると少女はいきなり自分の頬をつねり始めた。
手を離した後もにやけている少女に一応確認をとってみることにした。
「それで――」
「俺を呼んだのはキミ?」
少女が何か言いかけていたけど、まあいいか。
「そ、そうだけど」
「ありがとう!」
質問の答えを聞いた直後、彼女を抱きしめた。142センチしかない俺の身長よりもだいたい10センチほど高いため、彼女の首の辺りに俺の顔がくる。髪は肩まで伸びた銀髪で前髪の一部を三編みにしている。雰囲気と見た感じは癒し系の部類に入る美少女だ。
「ちょ、ちょっと落ち着いて。一旦離して」
「ああ、ごめんね」
嬉しさのあまりに調子に乗りすぎたようだ。
彼女は深呼吸をして落ち着いてから真剣な顔で聞いてきた。
「これから、あなたを私の使い魔にする為の契約をするけれど、本当にいいの?」
「大丈夫。ぜんぜん問題ないよ」
すぐに答えを返す。だって面白そうだから。
それに、今回が初めてってわけでもないからね。
「本当に?」
「本当に」
信じてくれないのかもう一度聞いてくる少女。
不安そうな顔をしているので目を見る。
「私が呪文を唱え終えたら、手のひらを合わせて」
「わかった」
不安からなにか困ったような表情になっていたが、吹っ切れたようで詠唱をはじめる。
少女が詠唱をはじめると、俺と少女の足元に魔法陣が浮かび上がり、光りはじめる。
『我に忠誠を誓うものよ いまここに意志を示せ』
少女が詠唱を終えた後、手のひらを合わせた。見られている気がして閉じていた目を開けると、少女と目が合ったから笑ってみた。
すると、少女は顔を赤くして俺から目をそらす。
しばらくして魔法陣が消え、契約が終わった。
左手首に違和感があり、見てみると黒いリングがあった。少女の左手首にも同じ黒いリングがある。
「これで、俺はキミの使い魔だ。できるだけ役に立てるようにがんばるよ」
「う、うん」
さっきからうつむいたまま目を合わしてくれない。
そんなことより、いまさらだが自己紹介をしてないことを思い出した。
「自己紹介がまだだったね。俺の名前は三原優。優って呼んで。主の名前は?」
ようやく顔をあげて目を合わしてくれた。
「ノール・ディスニー。よろしく優」
「よろしく。主」
「主じゃなくて、ノールでいい」
「そう? それじゃよろしく、ノール」
簡単な自己紹介を終えて周りを見てみると、他の生徒たちも無事に使い魔を召喚し終えたようだ。
「みんな、三人でグループをつくっているみたいだけどなんで?」
「…………」
黙ってしまったけど、なにかまずいことでも聞いたかな?
「……明日、新しく入った一年生だけの模擬戦があるの。最大三人までのチームでね」
「ノールは組まないの?」
「……私なんかとチームを組む物好きはいないわ」
「ん~。じゃあさ、ちょっとここで待っていてくれる?」
「どこ行くの?」
「新しい二人組みに入れてもらえないか聞いてくる」
そう言って俺はノールをその場に置いてさきほどから誰にも気づかれないように魔法を使って立っている二人組みのもとに向かった。俺のほかにも何人……もいないか。三人くらい? 気づいているのは。先生を外してね。
「いまの時間はこんにちは、かな?」
俺が二人組みの女の子に声をかけると、その女の子たちは驚いた表情をしていた。
話しかけてから思ったけど、一人で誰もいない場所に向かって話しかけるって危ない人に見られるよね。
あ、……今の俺か。
話しかけた女の子は双子なのか顔立ちはよく似ていた。二人の背は見た感じでだいたい160センチくらい。あたり前だが、俺よりでかい。髪はきれいな金髪のストレートで、腰のあたりまで伸びている。というか、ほとんどの生徒は金髪だった。たまに、水色や緑色、赤色の生徒がいる。たぶん、他にも色々な髪の色をした生徒がいるだろう。黒髪はここにはいない。ちなみに白髪も。
……話が逸れた。
二人の見分けは、頭にのっている青いカチューシャと青い蝶の髪飾りだ。他には、分かる人と分からない人がいるが、片方は落ち着いていて、もう片方は強気な印象で見分けることもできないことはない。
二人は驚いたままなんの反応もしないため、いくつか質問してみる。
「キミたちって二人だけ?」
「えっ……ええ。二人だけよ」
強気な印象をもつ少女が答える。
「それじゃあ、あそこでこっちを見ている女の子と一緒にチームを組んでくれないかな?」
もう、二人は驚きから解放されて、落ち着きを取り戻している。
「いやよ」
「なんで?」
「私たちは二人で最強なの。あんなのがいたら邪魔だからね」
「どうして邪魔になると?」
「珍しいけど、あの子の使い魔が見当たらないし、光が見えないから」
「光っていうのは?」
二人に呆れた目で見られた。先ほどから答えてくれている強気な少女だけでなく、その少女の影に隠れてこちらを見ていた、落ち着いている少女にさえ、だ。
「その人の持つ魔力のことよ。その人の周りにただよって見えるの。ま、オーラが見えるのはそれなりの強さがなければ見えないけどね」
ため息をつきながらも答えてくれる。
「だけど、あの子からはなにも見えない。ちなみにあなたからもね」
「だからあの子とは組みません」
「わかったら、他をあたってちょうだい」
「ん~。わかった。面白いことも聞けたし――」
俺は一旦ここで区切り、少しだけ口の端を上げて。
「その選択に後悔しないでね」
「それはどういう――」
なにか言っていたが、最後まで聞かずにノールのもとへ戻る。一度だけ振り返ってみると何か言いたそうな表情だったが、追いかけては来なかった。
「さっきまで、誰と話していたの?」
「ん? 独り言?」
「どうして疑問系なの?」
「さあ?」
「はぁ……、もういいわ。結局は一人なのだし」
ため息をつきながら落ち込むノール。
「まだはやいと思うけど?」
「どういうこと?」
落ち込んでいるようだが、話は聞いてくれるようだった。
「あそこにも一人でキョロキョロしている子がいるけど」
水色のショートへアにウェーブがかかった少女を指差すと、ノールは少しだけ期待した目で俺の指の先を見て、また落ちこんだ表情へと戻った。
「ああ、あの子ね……」
「知っている子?」
「知っているもなにも、私と一緒に毎回下位にいるエフィー・フューラよ。そして幼馴染でずっと一緒にいるわ」
「一人より、二人のほうがいいよ。それに幼馴染でずっと一緒にいるなら、ね?」
エフィーに近づいていき、声をかける。
「こんにちは?」
「はっ、はうっ」
声をかけると驚いた後、距離をとられたうえ、怯えた目で見られた。なんだか周りからはいじめているみたいに見えそうだな。
「……なにか?」
「んっと、あそこにいる子とチーム組まない?」
俺の後ろのほうにいるノールを指差す。
「……ノールちゃん?」
知らない人──俺に声をかけられて不安だったのか、ノールを見ると走って言ってしまった。俺も後を追ってノールのもとに戻ると、エフィーはノールの後ろに隠れてしまった。
「エフィーは人見知りだから、あまり気にしないで」
「ん。それでチームは?」
「私とエフィーの二人よ」
「それはよかった」
そういえばまた、自己紹介をしていなかった。今日は自己紹介を忘れる日かな?
「三原優。優って呼んでくれるといいな」
右手を差し出す。
「……エフィー・フューラです。よろしくお願いします。ゆ、ゆう……さん」
すこし怯えているが、手は握ってくれた。
「エフィーの使い魔はどこにいるの?」
「……ここに」
エフィーが胸の前で両手のひらをうえに向けるとそこに小さな精霊が現れた。
「……この子、です」
「見た感じ、水の精霊かな?」
「……あっています」
「エフィー自身はどんな魔法が使える?」
「……なにも使えないです」
そう言ってエフィーはうつむいてしまった。
「それじゃあ、明日はノールと一緒に魔法の勉強だな」
「……? 明日は模擬戦じゃ……?」
「ま、詳しいことは明日になってからってことで。それに、そろそろ授業? も終わる頃だと思うし」
全員がチームも組み終えていた。
「さて。俺は今から明日の朝まであそこの木のうえで寝ているよ。また明日ね、二人とも」
木に向かおうとしたら、ノールに首根っこをつかまれた。痛い。
「使い魔の責任は主の責任になるの。だから、勝手な行動をして私に迷惑をかけないようにできるだけ近くにいてね?」
目が笑っていなかった。
「いや、でも、一緒に過ごすとか、いろいろと問題があると思うし……」
頬をかきながら答える。
「なんで? 女どうしなのに。それにあなたは使い魔で私は主なの。ほら、なにも問題ないじゃない」
「…………」
「黙ってどうしたの?」
「いや、やっぱり初対面だとそうなるよね、と」
「どういう意味?」
「俺、男」
「…………」
今度はノールが黙ってしまった。
「いやだから、俺は男だって」
もう一度言ってみたが、なんの反応もしてくれない。……いや、俺の顔を見ている。結構、恥ずかしいね。人に見つめられると。
ノールが固まっているのを不思議に思ったのか、周りのみんなから注目される。
注目している今ならと思い、みんなにも聞いてみた。
「俺って、女に見える?」
生徒だけでなく、先生まで一緒に首を縦に振ってくれた。嬉しいよ。こんちくしょう。
「男だよ?」
今度は全員固まった……と思っていたが、数名は普通にしていた。もともと分かっていたのかそれとも他の理由か。普通にしている人の内、女の子一人、男の子二人のチーム(多分)が俺を見て笑っている。あれは例外に入るな。
「あいつ、あれで男とか」
「オカマかよ」
「気持ち悪いから近づきたくないわ」
この世界にオカマという言葉があったのか。発見だわ。うん……そんなことより、俺を笑っている三人は、やっぱり例外だった。この場合、三人の大体の性格は他人を見下して悦にはいっているやつらだ。甘口ソースは俺。……なんでもないです。
「ふふっ。……くふっ」
そんなことよりも俺は先程の見事なまでに雑魚セリフを聞いて堪えきれず、体をくの字にして笑ってしまった。当然バカにしていた相手に笑われたら、誰だってイラッとするだろう。
「なに笑っている!」
「なにが面白い!」
「ケンカ売っているのかしら?」
「おお怖い、怖い」
この三人は、少しの挑発でいまにも魔法を使ってきそうなキレ具合。そして今の俺のセリフで、片方の男の子は杖を取り出して、こちらに向けて構えている。
「明日の模擬戦、無事でいられたらいいわね」
女の子と男の子が杖を構えている男の子を落ち着かせ、一言残してどこか行ってしまった。捨て台詞にすらなっていなかったが。
そこで、ようやく固まっていたみんなが動き始めた。
「ちょっと優! なにやっているのよ!」
「ん?」
「ん? じゃないわよ! さっきのケンカのことよ!」
なぜ、怒鳴られているのかわからなかったため、首を傾げたら、さらに怒られた。
「ケンカなんてしてないぞ?」
「そんなことどうでもいいのよ!」
理不尽だと思いました。はい。
「あの三人は成績でいつも上位にいるのよ! 明日の模擬戦は真っ先に狙われて終わりよ」
また、うつむくノール。
「なあ、ノール」
「なによ」
「あれの成績って上位であって、一位じゃないよな?」
「そうだけど、私たちよりもずっと――イタッ」
少しイラッときたのでノールにデコピンをして静かにしてもらう。
「まあ、それは問題ないけど。さっきから成績を気にしすぎだ」
人でも殺せそうな目で睨んでくるノールを無視して、少しだけ微笑みながら続ける。
「明日になれば面白いことがおきるよ」
「面白いことってなに?」
今度は、キョトンとした目で見てくる。よく見ると額のところが少し赤くなっている。
「明日まで秘密。この話は終わりにして、はやく寝たいよ」
「……私、納得してないけど?」
無視するとノールは以外にもはやく折れて、ため息をついている。
「明日はがんばりますか」
「……うん」
「……はい」
無理に押し通したため、二人は納得していない様子だったけど…………まあいいか。
「じゃ、案内して?」
ノールは一瞬わからなかったのか首をかしげていたが、すぐに理解してまた、ため息をつきながらも案内してくれる。俺とノールはその場でエフィーと別れ、先を歩くノールの後についていく。
ノールに授業はもういいのか聞いてみたが、今日は使い魔を召喚して契約したら終わりらしい。残っている生徒はチームを組むためと、他の生徒がどのような使い魔と契約したのか知っておくためらしい。
それからしばらくして、生徒たちが住む寮についた。二階建てで見た目は西洋の洋館にちかく、石で造られていた。男子が一階、女子が二階に住んでいるらしい。ノールの部屋は二階の一番奥だ。なんでも、成績順で上から出口に近いらしい。成績が一番低いノールは一番出口から遠いというわけだ。しかし、部屋の広さはどこも同じらしい。出口から近いか遠いかの違いだけだ。
ノールの部屋に入って中を見てみると、これが年頃の少女の部屋? と疑問に思うぐらいにほとんど何もなかった。どの部屋にも置いてあるベッドにタンス。本棚にはノールのものと思われる本で埋まっていて、後は丸いテーブルにランプ、イスといった感じだった。
「まぁ、なんとも殺風景な部屋で」
「ほっといて!」
冗談で言ったつもりだったが、真に受け止められてしまい、怒られた。
「そんなことより、俺が寝る場所は?」
部屋を見てもベッドは一つしかないし、他にはなにもない。ノールの性格からして一緒に寝るとかはないだろう。
「……床ならどこでもいいわ」
床に直接横になって寝ろと言われたよ。ありがたいことで。
「ん。あと、図書館みたいな場所ってある? 本がたくさんあるところでもいいや」
俺は正直、寝られるならどこでもいい。
「それなら、ここの寮を出て真っ直ぐ行った建物がそうだけど、ここの学園の関係者しかはいれないし、今は閉まっているわよ?」
「ん。あともう一ついい?」
「なに?」
質問ばかりされているため、少しイライラしている感じだ。
「せめてイスに座って寝ていい?」
すいません。さっきの嘘です。冷たく、硬い石の上では眠りたくなかった。というか、寝られないです。
「……いいわよ」
目を逸らしながら答えるノール。
「よかった」
俺はイスに座り、腕を組んだ状態で机の上にのせ、その上に頭をのせる。
「これから夕食だけどどうするの?」
「ん~。今日はいらないから俺は置いていっていいよ」
「そう」
心配なのか不安なのか部屋を出る前に一度こちらを見てきたが、手を振って見送った。
ノールが部屋から出て行ってからしばらくして、俺は眠りについた。