青い星のキーホルダー
青い星のキーホルダー
「最悪」
有紀はハイヒールを脱いだ。
ヒールの部分がもげている。つなぎ目の部分が革一枚だけでつながり、その部位だけがむなしく揺れていた。悪夢だ。
今日は朝から散々な一日だった。明日は土曜日。今日乗り切れば、二日間の天国が待っている。そんな気持ちが先走ったのか、寝坊をしてしまう。ノーメイクのまま電車に駆け込み、気がついたらストッキングが破けていた。会社では上司に散々頭を下げた挙句、財布を忘れてスイカ(もちろん残金は入っていない)しかなかったのでご飯も我慢した。
それだけではなくここからが本番で、仕事終わりに彼氏とご飯を食べてるとき、喧嘩別れをしてしまった。理由は大したことではなかった。ただ、お互いがそろそろ限界が近づいていることがわかっていて、その「理由」が欲しかっただけだった。
有紀は近くのガードレールに寄りかかる。そして、ハイヒールを向かいの壁に投げつけた。
いつの間にか、有紀の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。彼氏の前では泣かなかった。自分がプライドが高くて甘えられないこと、自分が間違っていると分かっても、「でも」とつけてしまうこと。自分でもよくないことは分かっている。でも、自分の性格というのはそんなにすぐには変えられないものなのだ。
はだしで家まで帰り、ベッドに力なく倒れこむ。寝返りを打つと、足元にあった積み重ねていたCDラックを倒してしまう。まるで、空き缶が詰まったゴミ箱をひっくり返したかのような音が響きわたる。
「はぁ……」
有紀はその残骸を片付けようともせずにそのまま脱力していた。すると、その残骸の中にキーホルダーがあるのを見つけた。
「あ、懐かしいな」
そのキーホルダーは高校生のときに片思いをしていた男の子、悠馬がくれたものだった。そのキーホルダーは有紀にとってとても大切なもので、社会人になった今でも捨てられずにいた。
あれは高校二年生のとき。有紀はバレーボール部で、悠馬はバスケ部だった。通っていた高校は、日にちによって体育館を半分ずつに分けて室内運動部が使っていた。その時から有紀は悠馬のことが気になっていた。バレーボール部女子とバスケ部男子が被る水曜と土曜の午後は、有紀にとって楽しみなひとときであった。
普段は見せない彼の真剣な眼差し。汗を気にせず、大きな声でかけ声を言っている姿は有紀の心をくすぐった。
あれは当番でモップがけをしていたときのことだ。モップに何か金属のようなものが絡まっているのに気がついた。それは鍵だった。その鍵には青色に輝く星のキーホルダーがついていた。その鍵を手に持っていると、
「あ、よかった。さがしてたんだ。見つけてくれてありがとう」
と彼は言う。そう、悠馬であった。
有紀は好きな相手に、それも予期せぬ形で話しかけられてテンパっていた。でも、この話す機会を逃したくないと思った有紀は、焦った挙句どうでもよいキーホルダーの話をしてしまう。
「――このキーホルダー綺麗だね」
「ん? そうかな……。じゃあ、探してくれたお礼にやるよ」
悠馬は鍵からキーホルダーを取り外し、有紀の手の中に落とした。有紀はそれからずっと大切に持っていた。
有紀はあのころを思い出しながらため息をつく。
もちろん、みながみな好きな人と結ばれるほど世の中は甘くなく、甘酸っぱい恋は片思いのまま終わったのだった。
「悠馬くん、今何やっているんだろう」
そんなことを考えながらキーホルダーを指でもち、ゆらゆら揺らす。
「ホントに好きだったんだな、わたし」
一日が終わり、やっと天国の週末になる。
有紀はそのままの状態で寝てしまったらしい。
指には青い星のキーホルダーが握られたままだった。
恋愛の話が書きたくて載せました。
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marco8/満天 ノソラ/満月 ノヨル