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彼は少年兵(仮)  作者: 村川未幸
1章目 起
7/21

小鬼と呼ばれた男の子7

それからしばらく彼は、部屋を出ることはなかった。



3ヶ月が過ぎた。外は木々が茂り、花が咲き、鳥が飛び回っている。春が来たんだ。


彼は、保護した時に比べて、だいぶ落ち着いていた。でも、夜になるとうなされているみたいで、いつも目の下にクマをつくっていた。


昼間は相変わらず、窓の外を見ていた。


少しずつ会話もできた。といっても、林にイタチがいた。とか、木の上にリスがいた。とか。そんなことばかり。


でも、僕以外の医者や看護師には何も喋らず、そっぽを向くばかりらしい。


春のある日、僕は彼の包帯とガーゼを全て取り外した。


「傷は全て治ったね。時間はかかったけど、無事に治って良かった」


僕は、取り外した包帯とガーゼを、ゴミ袋にいれた。


「……外……」


彼は口を開いた。


「……外……出たい」


僕は、彼を、子供たちに着せている真っ白なワンピースパジャマに着替えさせ、部屋の外に出た。日は眩しくて暑苦しかった。


「春にしては暑いねぇ」


僕は額に手をやった。


「……この部屋よりいいよ」


僕は笑った。彼はピクリともしなかった。


「林に行く?」


彼は首を縦に振った。


ゆっくりと林に向かった。施設を出て、僕はタバコに火をつけた。その途端、彼は僕のくわえていたタバコを奪って、自分の口にいれた。


「あ……」


彼は慣れた手つきでタバコをのんだ。


「これで最後にしなさい。タバコは子供の体に悪いよ」

「……ん」


口から煙を吐き出した。良い子のみんなは、タバコは20を過ぎてから吸いましょう。


風が吹いた。草花や木々が、さやさやと音を立てた。


彼は、その音に耳を傾け、目をゆっくりと閉じた。


今だから思うけど、彼にとっては、この時が自分の生を実感する時だったんだと思うよ。


彼はタバコを吸い終わった。僕はタバコを取り上げ、灰ケースにしまった。


「……思い出すかい?ここで自分が倒れていた時のこと」


彼は口を開かない。しばらく、草花たちの音が僕たちを包んでいた。


「まだ、ここにいる?」


彼は首を縦に振った。僕たちは、日が暮れるまでそこにいた。


施設に戻った僕は、怒られた。


「今までどこに行ってたの?」

「あの、彼と一緒に林へ……」

「それならそれで、きちんと言ってよ」

「すみません」

「このご時世、何があるか分からないのよ。心配かけないでよね」

「以後、気をつけます。すみません」


僕はペコリと頭を下げた。一連の会話を僕の後ろで聞いていた彼も、僕の真似をして頭を下げた。


彼を部屋に送った。彼はベッドに座った。そして口を開いた。


「……メン」

「ん?」

「……怒られた。悪かった」


そう言って彼はベッドに横になった。


「……楽しかった?久々の外」

「……ん」

「うん、僕は嬉しいよ。怒られたのは君のせいじゃないし、僕も楽しかった」


僕は部屋を出た。

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