小鬼と呼ばれた男の子6
朝、彼は目が覚めた。僕はちょうど部屋を離れ、朝ごはんを持ってきたところだった。
「おはよう」
「……」
返事はない。いつも通りだった。
「朝ごはん、持ってきたよ」
僕は彼の前にご飯を置いた。
「……なんで」
「ん?」
「なんでほっといてくれないんだよ」
悲しそうな目で彼は僕を見た。
僕はこう言ったよ。『僕は心配性だから』って。
「本当、奇跡だよ。3階から飛び降りて足を挫くだけで済んだんだ。君が生きているのも、奇跡なんだろうね」
彼は何も言わない。ご飯にも手をつけなかった。
僕はご飯を下げた。そして、反頭先生に相談した。
「先生、彼、禁断症状が出てるみたいですが」
「あぁ、話は聞いている。だがどうすることもできん。このまま部屋で、退薬症状に耐えてもらうしかない」
「食事もあまり取りません」
「うーん、無理してやる必要はないだろう。少し痩せているが、まだ大丈夫だろう。しかし、食べるように促すことは続けてくれ」
「わかりました」
僕は先生と話を終えて彼の部屋へいった。
彼は部屋の窓から外を見ていた。
この施設は、とある田舎にある。隣は林があり、少し歩くと木の実などの山の幸がある。反対側にはただの一本道。その周りは畑や田んぼがあるだけ。民家はほとんどない。その一本道を2kmほど行くと、数年前に戦場になった市街地だ。そこはまだ復興されておらず、焼け野原となっていた。
彼の部屋から見える景色は、林の木々ばかり。たまに、その木に鳥が止まったりしている。
「外に、出たい?」
「……」
「見てるだけでいいの?」
「……うん」
「……そっ」
僕は彼の包帯を取り替えた。頭と腕と脚と。
「だいぶよくなったね。もうすぐ自由に動けるよ」
彼の右目を、大きくガーゼで覆い、紙テープで固定した。
「はい、おしまい。もう横になっていいよ」
取り替えた包帯とガーゼ、ゴミを持って僕は立ち上がった。
「あんた」
「ん?なんだい?」
「……タバコ……持ってる?」
「よく僕がタバコを持ってるって分かったね⁈」
「あんたの胸ポケット。手に…匂い」
「アハハ、見えた?」
「……1本……くれよ」
「ダメだ。タバコは20歳から。君、いくつ?」
「……20」
「嘘はいけないよ。まだヒゲも生えてないじゃないか。」
「……14」
「ほらね、だからダメ」
彼は僕の胸ポケットを見つめた。僕は無視して部屋を出た。