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「同時に、正嗣が亡くなって、もう10年になるわけか…………」
「………………はい」
美姫は、きゅっ、と両手を握りしめながら頷く
「……………美姫よ」
「…………はい?」
名を呼ばれ、ゆっくり視線を大伯父様に向ける
「……………お前のせいではないよ」
「……………はい」
そう言われて、美姫は苦笑いをする
父が亡くなった時、美姫は自分の侵した過ちに気付いて、酷く取り乱した
その時、美姫を何度も慰めてくれたのは、大伯父様だった
何度も何度も、背中を撫でて落ち着かせてくれたのを思い出す
「いくらお前に“力”があるからと言って、正嗣がその力に倒れたわけではないのだ
たまたま偶然が重なっただけなのだから、そう抱え込むな」
大伯父様は、穏やかな声色でそう話す
「…………ありがとうございます」
美姫は苦笑いのまま、そうお礼する
因みに、この力の事は、大伯父様を含め、執事の鞍馬しか知らない
「………………まったく、
そういえば、お前、今学校は行っているのか。」
伯父さんは、軽くため息をつくと、そう言葉をつく
「学校…………ですか?
あれ以来、全く行っていません」
美姫は、首を傾げながら返す
「なに?そうか!」
「!?」
突然、大伯父様は声を荒げる
「ならば、私の薦める学校に通ってみないか?」
「……………………は?」
今言われた言葉が理解出来ずに、その場に固まってしまった
「…………丁度私の親友、いや、悪友と言うべきか…………
そいつが、1人生徒を募集していてな?
なんでも、そこは総合学科で、多彩な科目を組んでいるそうだ
その中に、今年新しく科を創設したらしいのだが、女子の枠が1人空いているらしくてな?
既に在校生らは各科に配属されていて、困っているそうだ」
大伯父様は、お茶をすすりながら話す
「……………左様で…………
ですが、それでしたら私などより、一般募集をかけて選ばれた方が、確実ではございませんか?」
美姫は、困った顔でそう薦める
出来れば、学校になど通いたくなかった
この力で、仲間を傷つけることをしたくなかったから……………
しかし、そう上手くはいかないらしい
「一般募集も考えたらしいが、1人の枠にそれほど多くの希望者はいらないそうで……………
知人の伝を使って、少人数に絞ることにしたそうだ
ただ、他の奴らはみんな大学やら社会人になっていてな?
どうしようかと頭を悩ませていたところだったのだ」
「……………はぁ~………」
美姫は、力なく頷く
出来れば、出来るだけ、行かなくてもすむ方法はないかと頭をめぐらせる
「……………ですが大伯父様?
私がここを離れては、依頼に来られたお客様にご迷惑がかかってしまいます」
美姫は、はっとしたようにそう付け加える
美姫の力は、知られてはいけない一種の禁忌事項だが、言霊を使っているところさえわからなければいいのだと、大ばばさまから授かった仕事があった
それは、相手の不安や悲しみを、言霊の力で軽くしたり、 身体の異変をいち早く知らせるために、身体に暗示をかけたり、好きな人と結ばれるよう願掛けしたりと、巫女のような生業であった
最初はちらほらだったお客様も、今では予約しなければならない程有名となった