とある世界
ある薄汚れた正午にて
男が一人、おりました
小さな管に口を当て
大きなシャボンを吹きました
虹色含むその珠は
ゆらりゆらりと浮かびます
男はなにか、切なくて
小さく泣いて、おりました
10月半ばの昼頃です
男が一人、おりました
小さな管に口を当て
大きなシャボンを吹きました
可愛い子供が無邪気にも
手を叩いてははしゃぎます
弾けた珠は霧散して
手を叩いてははしゃぎます
風邪を引くわと、妻君は
家から二人を呼びました
淡い気持ちのシャボン珠が
どうにも切なくさせるのです
胸を押さえた妻君が
家から二人を呼びました
木漏れ日、シャボン、揺れ惑い
どうにも切なくさせるのです
日も傾いた秋の日に
男が一人、おりました
小さな管に口を当て
大きなシャボンを吹きました
シャボンはじわりと膨らんで
青い空へと浮かびます
皆を捨てて、私を捨てて
青い空へと浮かびます