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作者: 天窪 雪路

朝目覚めると雨が降っていた。僕の予想していた朝の景色はそこになく、太陽の温もりもなく、鳥のさえずりもなく、もちろん青空に浮かぶ真っ白な雲も存在していなかった。


僕はそれでも出かけなければならない。

期待した朝がそこになければそれはそれでいい。機械的に今日の日を過ごし、やがて訪れるだろう清々しき朝の目覚めを待てば良い。


バスルームに行き、いつものように電気シェーバーで髭を剃った。チューブを搾り歯みがき粉を2cmほど歯ブラシに乗せ、それをくわえてシャワーを浴びた。そこまでしてようやく朝の目覚め方がそれほど重要なことではなかったと思った。晴れの日があれば雨の日もある。


目覚めたばかりの朝には朝がすべてである。それだけのことだ。


ところで昼過ぎになって、僕は雨の中へと出かけた。


目の前の横断歩道を信号が赤になる前に渡れるかどうかと思っていたら、青信号が点滅し始めた。僕はそれに気付いて歩のスピードを緩めた。最近、そういう時にはいつもそうだ。僕の前を歩いていた三人組の若い女の子たちは青信号が点滅するやいなや奇抜な形をした靴の踵をコツコツと鳴らしながら走って行った。


僕と僕よりもひとまわりほど年上の男とが赤信号をぼんやりと眺めながら再び歩を進める時を待っていた。


いつの間にか僕の後ろで初老の男が傘を差していた。僕の右手では二人組の女子高生がずぶ濡れになって自転車に乗っていた。

皆、赤信号をぼんやりと眺めていた。


「私にも娘がいてね。大学生の娘たちなんだ」

初老の男が二人組の女子高生の頭の上に傘を差してやっていた。


信号は青に変わり、女子高生たちは初老の男に礼を言い、やはり降り続ける雨の中へと走り去って行った。

僕は僕よりもひとまわりほど年上の男と初老の男と共にゆっくりと横断歩道を渡った。

その中でやがて僕だけが先へと歩を進めていた。


雨はまだ降り続けている。

いつ止むとも知れぬそんな雨音を聞きながら、僕は長いとも短いとも思えた今日一日についてものを思う。

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