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踏み込んだ理由

本作は『優しいだけの俺は捨てられた。』の裏側を描く、沙里奈視点の物語です。


見てしまったものは、もう見なかったことにはできません。


彼女が踏み込んだ理由を、ぜひ見届けてください。

あの後、私はどうやって家に帰ったのか覚えていない。


気づけば、自分の部屋のベッドに座っていた。


「……なに、あれ」


言葉にした瞬間、吐き気がこみ上げる。


見間違いなんかじゃない。


聞き間違いでもない。


――現実だった。


りえこは、あそこにいた。


あんな風に。


「……っ」


思い出したくないのに、頭から離れない。


あの表情。


あの声。


あの空気。


全部が、壊れていた。



「……どうするの、私」


ぽつりと呟く。


分かってる。


これは、普通じゃない。


見過ごしていいことじゃない。


――それでも。


足が、動かない。


関われば、全部が壊れる。


(……いや、もう壊れてるか)


自嘲気味に、小さく笑った。



りえこの顔が、どうしても頭から離れなかった。


最初に会った時のことを思い出す。


優しくて、少し控えめで。


それでも、笑うとすごく柔らかくて。


――あの時のままなら、よかったのに。


「……なんで、あんなことに」


私が知らない間に。


何があったのか。


いや。


知らなかっただけで、ずっと前から始まっていたのかもしれない。


気づけたはずなのに。


見て見ぬふりをしていたのかもしれない。


「……最低」


今度は、自分に向けて呟いた。


――それでも。


あのままには、しておけない。


あの二人が、タケシを裏切るなんて。


そんなの、許せるはずがない。



リョウマの顔が浮かぶ。


あの笑み。


――あれは、知っている顔じゃない。


「……怖い」


初めて、はっきりそう思った。


今まで見てきたリョウマじゃない。


何か、違うものになっている。



それでも。


頭のどこかで、別の声がする。


(これで……終われるかもしれない)


「……は?」


思わず、声が出た。


何を考えてるの、私。


でも。


止まらない。


(リョウマと、別れられる)


(このままじゃ、どうせ壊れる)


(だったら――)


「……ほんと、最低ね」


自分で分かっている。


これは、誰かを助けたい気持ちなんかじゃない。


ただの――自分のため。



それでも。


あのままには、しておけなかった。


りえこの顔が、頭から離れない。


あんな顔、する子じゃなかった。


……少なくとも、前は。


「……調べよう」


ぽつりと呟く。


逃げるためでもいい。


自分のためでもいい。


何でもいい。


――もう一度、あの部屋に行こう。



その決断が、


どこに繋がるのかも知らずに。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


沙里奈の選択は、決して綺麗なものではありません。


それでも彼女は、目を逸らさずに進むことを選びました。


次話で、この物語は結末を迎えます。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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