踏み込んだ理由
本作は『優しいだけの俺は捨てられた。』の裏側を描く、沙里奈視点の物語です。
見てしまったものは、もう見なかったことにはできません。
彼女が踏み込んだ理由を、ぜひ見届けてください。
あの後、私はどうやって家に帰ったのか覚えていない。
気づけば、自分の部屋のベッドに座っていた。
「……なに、あれ」
言葉にした瞬間、吐き気がこみ上げる。
見間違いなんかじゃない。
聞き間違いでもない。
――現実だった。
りえこは、あそこにいた。
あんな風に。
「……っ」
思い出したくないのに、頭から離れない。
あの表情。
あの声。
あの空気。
全部が、壊れていた。
◇
「……どうするの、私」
ぽつりと呟く。
分かってる。
これは、普通じゃない。
見過ごしていいことじゃない。
――それでも。
足が、動かない。
関われば、全部が壊れる。
(……いや、もう壊れてるか)
自嘲気味に、小さく笑った。
◇
りえこの顔が、どうしても頭から離れなかった。
最初に会った時のことを思い出す。
優しくて、少し控えめで。
それでも、笑うとすごく柔らかくて。
――あの時のままなら、よかったのに。
「……なんで、あんなことに」
私が知らない間に。
何があったのか。
いや。
知らなかっただけで、ずっと前から始まっていたのかもしれない。
気づけたはずなのに。
見て見ぬふりをしていたのかもしれない。
「……最低」
今度は、自分に向けて呟いた。
――それでも。
あのままには、しておけない。
あの二人が、タケシを裏切るなんて。
そんなの、許せるはずがない。
◇
リョウマの顔が浮かぶ。
あの笑み。
――あれは、知っている顔じゃない。
「……怖い」
初めて、はっきりそう思った。
今まで見てきたリョウマじゃない。
何か、違うものになっている。
◇
それでも。
頭のどこかで、別の声がする。
(これで……終われるかもしれない)
「……は?」
思わず、声が出た。
何を考えてるの、私。
でも。
止まらない。
(リョウマと、別れられる)
(このままじゃ、どうせ壊れる)
(だったら――)
「……ほんと、最低ね」
自分で分かっている。
これは、誰かを助けたい気持ちなんかじゃない。
ただの――自分のため。
◇
それでも。
あのままには、しておけなかった。
りえこの顔が、頭から離れない。
あんな顔、する子じゃなかった。
……少なくとも、前は。
「……調べよう」
ぽつりと呟く。
逃げるためでもいい。
自分のためでもいい。
何でもいい。
――もう一度、あの部屋に行こう。
◇
その決断が、
どこに繋がるのかも知らずに。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
沙里奈の選択は、決して綺麗なものではありません。
それでも彼女は、目を逸らさずに進むことを選びました。
次話で、この物語は結末を迎えます。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




