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見てはいけないもの

本作は『優しいだけの俺は捨てられた。』の裏側を描く、沙里奈視点の物語です。


少しずつ見えてきた違和感が、形を持ち始めます。


前話から続けてお読みください。

リョウマの様子がおかしいと気づいたのは、いつからだっただろう。


最初は、ほんの些細な違和感だった。


笑い方が、少しだけ変わった。


前みたいに、無神経で明るい笑いじゃない。


――どこか、粘つくような笑い。


「……気のせいよね」


そう思おうとした。


でも、その違和感は何度も目に入るようになった。


ふとした瞬間に見せる、


――下卑た笑み。


背筋が、ぞくりとした。



ある日の帰り道。


私は、少しだけ距離を取って歩いていた。


……後をつけている。


(何やってるの、私)


そう思いながらも、足は止まらなかった。


リョウマは、迷いなく歩いていく。


そして――


見慣れたマンションの前で足を止めた。


「……え?」


そこは、タケシの部屋だった。


タケシは、もうここにはいないのに。


リョウマは当たり前のように鍵を取り出して、


中へ入っていく。



鼓動が、やけにうるさい。


行くべきじゃない。


分かってる。


でも。


気づいた時には、私はその扉の前に立っていた。


――少しだけ、開いている。


中から、声が漏れていた。


「……っ」


聞き覚えのある声。


でも。


聞きたくない。


聞いてはいけない。


そう思うのに、耳が離れない。


震える手で、扉の隙間を押した。


――見てしまった。


そこにあったのは。


見たことのない、りえこの姿だった。


いつも優しくて、清楚で。


あんな風に笑っていたはずなのに。


「……なに、これ」


声が、震える。


頭が、理解を拒否する。


でも。


分かってしまった。


これは――


普通じゃない。



その時。


リョウマが、ふとこちらを向いた。


目が合う。


一瞬。


時間が止まったような感覚。


そして。


ゆっくりと、口角が上がる。


――あの時と、同じ笑み。


背筋が、凍りついた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


沙里奈が見てしまったものは、決して“日常”の延長ではありませんでした。


ここから先、彼女がどこまで踏み込むのか。


引き続き見届けていただけると嬉しいです。

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