2-12.クリストファールート「ダンス(クリストファー視点)」
セルヴィが学園を卒業し、エンドラ王国へやってくる時が来た。
9年前からずっと待ち侘びていた日だ。
2ヶ月前のセルヴィの自殺未遂以来の再会で心配もしていたが、心配は杞憂に終わった。
「久しぶりだね。セルヴィ。会いたかった。」
「お久しぶりですわ。クリス様。私もお会いしかったです。」
幸せそうに微笑む彼女を見て、僕は安堵した。
あと3日でセルヴィの旅立ちの日だ。
前回の訪問のお礼を言われ、僕とセルヴィはセルシア王国最後の下町デートを楽しんだ。
翌日はセルヴィの旅立ちを祝うパーティー。
セルヴィは自身の功績と外見から、国民と貴族の間で本人は恥ずかしがっているが女神様と言われている。
本当に女神のように美しいセルヴィを皆が見ている。
僕だけを見つめて、嬉しそうに僕とダンスをするセルヴィ。
なんて幸せな時間なのだろう。
皆が僕たちのファーストダンスに見惚れている。
「これからはずっとセルヴィと一緒にいられるだなんて夢のようだ。」
「私もです、クリス様。とっても幸せですわ。」
「僕もとても幸せだ。」
楽しいダンスはあっという間に終わってしまった。
ファーストダンスが終わると、イーサン殿下が跪きセルヴィの手を取り手の甲にキスをして
「どうか私と一曲踊っていただけますか?」
と言い、辺りは黄色い歓声に包まれた。
頬を染めるセルヴィを一瞬見て、すぐに目を逸らした。
セルヴィには、「他の誰を想おうとも、全てひっくるめて君を愛している。」とプロポーズをした癖に、僕は嫉妬で気が狂いそうだ。
セルヴィは今も2人が好きなの?
「嫌がるセルヴィア嬢に無理矢理キスをした」とは聞いたけど、どんなキスだったの?
セルヴィはどう思ったの?
2人の姿を見たく無いのに、目では2人を追ってしまう。
切なそうに微笑みながら見つめ合う2人は周りから見てもお似合いだ。
ダンスが終わってからも、2人は見つめ合っていて、僕は心が痛んだ。
イーサン殿下が一瞬セルヴィを抱きしめて、微笑み合う2人。
イーサン殿下とのダンスが終わると、リチャード王太子も跪きセルヴィの手の甲にキスをして、ダンスに誘った。
頬を染めて微笑むセルヴィ。
リチャード王太子とセルヴィもお似合いの2人だから、皆が見惚れているのが分かる。
セルヴィを愛おしそうに見つめるリチャード王太子。
見つめ合う2人に嫉妬でどうにかなりそうだ。
ダンスが終わり、2人は泣きそうな表情をして、リチャード王太子がセルヴィを優しく抱きしめてから、彼は去って行った。
次の瞬間にはセルヴィはいつもの笑顔に戻り、パーティーは続く。
他の令息と踊っても、イーサン殿下とリチャード王太子の時のように切なそうな微笑みでは無い。
やはり、セルヴィにとって2人は特別な存在なのだろう。
僕にはセルヴィが泣きたいのに無理に笑っているように見えて、悲しくなった。
パーティーが終わり
「セルヴィは無理をしなくていいんだよ。」
と微笑んで、優しく抱き締めると、彼女は僕の腕の中で泣いた。
誰を想って泣いているのかが分かるから、胸が痛むけど、「他の誰を想おうとも、全てひっくるめて君を愛している。」と言った僕の心に嘘偽りはない。
泣いている彼女を、僕は何も言わずに抱きしめ続けた。




