2-10.クリストファールート「セルヴィア嬢の旅立ち(リチャード王太子視点)」
セルヴィが学園を卒業し、明後日にはエンドラ王国へ旅立つ時が来た。
9年間ずっと一緒にいたのに、セルヴィア嬢がいなくなってしまうだなんて嘘のように感じる。
僕の願望を打ち砕くように、今日はセルヴィア嬢の旅立ちを祝うパーティーが始まった。
美しいセルヴィア嬢を見ると、いつも胸が高鳴る。
クリストファー王太子とセルヴィア嬢のファーストダンス。
いつ見ても2人はとてもお似合いで、完璧な婚約者同士だ。
幸せそうな2人の姿を見て、安堵した。
セルヴィア嬢の自殺未遂を2人が乗り越えられて良かった。
僕が彼女を幸せにしたかったけど、彼女の辛そうな姿を見ている事が僕は一番辛い。
だから、幸せな姿が見れて嬉しかった。
ファーストダンスが終わると、イーサンが跪いてセルヴィア嬢の手の甲にキスをして、ダンスに誘った。
辺りは黄色い悲鳴が響き渡る。
僕は他の令嬢のダンスの誘いをやんわりと断り、セルヴィア嬢を見続けた。
もう今までのように会えなくなるセルヴィア嬢を、ずっと見て目に焼き付けたかった。
イーサンとセルヴィア嬢のダンスも皆が見惚れている。
クリストファー王太子とセルヴィア嬢もお似合いだが、イーサンとセルヴィア嬢のペアも、僕とセルヴィア嬢のペアも、それぞれのペアで令嬢達が推しを作っているくらい人気だ。
パーティーでセルヴィア嬢が僕たち3人の王子と踊ると、皆が見惚れる。
イーサンとセルヴィア嬢のダンスが終わって、僕も跪きセルヴィア嬢の手の甲にキスをしてダンスに誘った。
響く黄色い悲鳴。
セルヴィア嬢とのダンスは幸せだけど、切なかった。
恋人になることは叶わないから、僕はこれからも友人として彼女を支えたい。
「さようなら、僕の愛する人。」
「さようなら、私の恋しい人。」
2日後、彼女と交わした最後の言葉は「お元気で」と当たり障りの無い言葉。
クリストファー王太子には「セルヴィア嬢を頼みます。」と声をかけると、「必ず幸せにする。」と言っていた。
2人ならきっと大丈夫だろう。
悔しいがクリストファー王太子以上の男なんていない。
幸せそうな笑顔で皆にお元気でと言っている姿を、じっと見ていた。
なぜ彼女の笑顔はこんなに可愛いのだろう。
誰もが一目で恋においてしまうのでは無いかと思うくらい、可愛い。
僕は彼女程可愛い笑顔を他に知らない。
もう滅多に会えなくなると思うと泣きそうになったが、僕も皆と同じ笑顔で彼女を見つめる。
クリストファー王太子殿下とセルヴィア嬢はパレード用の馬車に乗りこみ、皆の歓声を受けながら2人は去っていく。
「女神様」と国民から声援が響くと、少し照れくさそうに笑う彼女。
本当に彼女は女神のようだ。
2人は大歓声に包まれて、幸せそうに手を振っていた。
僕と弟は、彼女が去って行った後もその場を動けずに、ずっとその場に立ち尽くしていた。
あまり似ていると言われないが、僕と弟は似たもの兄弟だ。
さようなら、愛する初恋の人。
セルヴィア嬢との楽しかった思い出が次々と蘇ってきて、その晩僕は1人で泣いた。




