2-5.クリストファールート「イーサン殿下とリチャード王太子の訪問(リチャード王太子視点)」
自殺未遂をしたセルヴィア嬢をダルヴァール家へ送り届けてからも、セルヴィア嬢が心配でたまらなかった。
毎日、夕方頃に弟とダルヴァール家に行き、セルヴィア嬢の様子を聞いた。
セルヴィア嬢が落ち着くまで、会うのは控えて欲しいと言われていたが、ダルヴァール公爵からセルヴィア嬢の様子を聞く度に安堵した。
ダルヴァール公爵夫妻が常にセルヴィア嬢に寄り添い、自殺未遂から2日後にはセルヴィア嬢の親友のフローラ嬢もお見舞いに来て、セルヴィア嬢の様子も大分落ち着いてきたようだ。
クリストファー王太子がどのように動くか分からないが、何があっても僕はセルヴィア嬢を守り抜こう。
セルヴィア嬢が自殺未遂をして4日後、ダルヴァール家を訪れると、ダルヴァール公爵から驚くべきことを聞いた。
クリストファー王太子がダルヴァール家に来て、セルヴィア嬢にプロポーズをし、今はセルヴィア嬢と話をしているらしい。
書簡を送ってたった4日で、ダルヴァール家に来るだなんて、彼の行動力に驚いた。
王族では考えられないような事だ。
彼には敵わないと悟った。
セルヴィア嬢はクリストファー王太子のプロポーズを受け入れたらしく、長年の恋心に胸が痛んだ。
セルヴィア嬢を守り抜こうと思っている僕の心配は無用だったようだ。
今度ばかりはセルヴィア嬢を諦めるしか無い。
9年間、自分の想いを一方的に彼女に押し続けて、彼女が自殺未遂をするまで追い込んだのだ。
クリストファー王太子に謝罪をする為に、弟と一緒に少し待たせてもらった。
しばらくすると、セルヴィア嬢と話が終わったクリストファー王太子がやって来た。
僕と弟はクリストファー王太子に頭を下げた。
「この度は本当に申し訳ございませんでした。私達は自分たちの気持ちを一方的にセルヴィア嬢に押し付けて、彼女が自殺未遂をするまで追い込んでしまいました。責任は全て、私とイーサンにあります。」
「頭を上げてください。それを言うのなら私も同罪です。セルヴィア嬢の婚約者でありながら、自分の気持ちを押し付けるばかりで、彼女の気持ちを考えた事が無かった。周りの誰もが彼女に完璧な女性を求めて、彼女の気持ちを考える事ができていなかったのです。ただ、一つだけよろしいでしょうか?」
「何でございましょうか?」
「イーサン殿下はセルヴィア嬢とキスをしたとか。」
イーサン殿下が即座に
「セルヴィア嬢にキスをしたのは事実です。言い訳のしようもございません。セルヴィア嬢、並びにクリストファー王太子殿下には謝っても謝りきれません。」
と謝罪をしたが、クリストファー王太子が怒っているのは恐ろしい程に伝わって来た。
常に余裕たっぷりの絶対的王者の風格を漂わせている彼の初めて見る姿に驚き、これ以上に恐ろしいものは無いと思った。
「今回の件はイーサン殿下だけのせいではなく、僕にも責任があるので、謝罪を受け入れます。しかし、2度目は絶対にありません。」
そして、クリストファー王太子は僕に向けて頭を下げて
「セルヴィア嬢の命を救ってくださり、ありがとうございました。リチャード王太子殿下がいなければ、セルヴィア嬢は今頃…と思うと、本当に感謝してもしきれません。」
と言うので、慌てて
「頭をお上げください。たまたまセルヴィア嬢が飛び降りる瞬間に居合わせたものですから。もとはと言えば、セルヴィア嬢を追い詰めた私たちの責任です。感謝など不要です。」
「それでも、セルヴィア嬢が命を助けられ、リチャード王太子殿下に誰にも言えなかった気持ちを話して全てを受け入れてもらえたことで、救われたと言っています。セルヴィア嬢もリチャード王太子殿下にお礼を言いたいと言っていました。」
と言われ、自分がセルヴィア嬢を救えた事が嬉しくなった。
彼が頭を下げて来たのには驚かされた。
非公式だとしても世界一位と世界三位大国の次期国王同士が頭を下げ合うことなど、前代未聞だろう。
「ありがとうございます。私はセルヴィア嬢の幸せを…これからはクリストファー王太子殿下とセルヴィア嬢のお二人の幸せが末永く続くようにお祈りいたします。」
「私も、クリストファー王太子殿下とセルヴィア嬢のお二人の末永い幸せをお祈りいたします。これからも兄共々良き友人として、よろしくお願いいたします。」
セルヴィア嬢への8歳から9年間の恋心は叶わなかったけど、僕はこれからも彼女の幸せを願い続けよう。
「私は明日にはエンドラ王国へ帰らなければいけないので、あと2ヶ月間、どうかセルヴィア嬢をよろしくお願いします。」
彼が本当に今回無理をしてセルシア王国に来て、本当はセルヴィア嬢の側にいたいのが伝わって来て、
「必ずや私とイーサンがセルヴィア嬢が春に笑ってエンドラ王国に嫁げるように、尽力致しましょう。」
と伝えた。
あと2ヶ月でセルヴィア嬢に会えなくなってしまう事はどこか非現実的な事のように思えて、自分の中のセルヴィア嬢の存在を思い知らされた。
僕の青春の全てがもう少しで終わってしまう。
ずっとセルヴィア嬢の側にいたかった。
自分が王族でなければ、エンドラ王国へ移住して、セルヴィア嬢の友人としてずっと側にいられたかもしれない。
たまに会いに行くのは許されるだろうか。




