41.誰にも言えない秘密
私は今まで誰にも言えない秘密など無かった。
それなのに15歳になり、あと一年でクリス様と結婚だと思った時に気づいてしまったのだ。
喜びよりも、イーサン殿下とリチャード王太子殿下に会えなくなるのが寂しいと思う自分の気持ちに。
自分自身に嘘だと言い聞かせて、夏休みの間はいつも以上にクリス様に甘えた。
嬉しそうにするクリス様に罪悪感でいっぱいだった。
いつも通りクリス様の婚約者として相応しい態度で、誰にも気づかれないように過ごしているつもりだった。
こんな事誰にも言えない。
それなのに、冬休みにクリス様に気づかれてしまった。
誰にも気づかれてはいけないはずだったのに、1番気づかれたく無いクリス様に。
いつも余裕のクリス様が、全く違う男性のようだった。
いつもの優しい触れるだけのキスではなくて強引で激しくて、押し倒されて…泣いてしまった私に気づいて優しく抱きしめてくれたクリス様。
謝らなければいけないのは私の方なのに、クリス様に謝られて、クリス様の切ない気持ちが痛いほどに伝わって来て。。
他の人にも自分の気持ちがバレてしまうのでは無いかと恐れた私は、イーサン殿下、リチャード王太子殿下を避けてしまった。
そのせいでイーサン殿下と強引に教室で2人きりになってしまった。
「セルヴィア嬢、帰国したからどうしたのですか?理由も分からず避けられているのは仲のいい友人として辛いです。」
イーサン殿下に心配をかけていた事に気づいて、ハッとしたけど、咄嗟に目を逸らしてしまった。
「ごめんなさい。」
「こちらを見てくれませんか?何か嫌われるような事をしてしまったのなら謝りますが、今のままでは分かりません。」
私は慌てて
「そんな嫌うだなんて!そんなはずはありません。イーサン殿下は何も悪くありません!私が…全て私が悪いのです。」
と言い、自分の気持ちに気付かれたくなくてまた目を逸らしてしまった。
「悩みがあるなら何でも言ってください。セルヴィア嬢が悩んでいると僕も辛いです。」
手を取られ必死に言われると、自分の感情を隠すのが無理だった。
こんな至近距離で見つめられて、私の気持ちに気づかれてしまうと思うのに、射抜かれたようにイーサン殿下から目が逸らせない。しばらく見つめ合ってしまったが、慌てて顔を逸らした。
私の顔は真っ赤だっただろうし、これで私の気持ちが分からないはずがない。
「どうしてそんな表情をするの?諦めなければいけないと分かっていても、諦めきれないよ。」
取った手はそのままに、イーサン殿下が歩み寄って来たので後ずさった瞬間に壁に当たった。
慌てて逃げようとしたけど、イーサン殿下と壁に挟まれ、抱きしめられた状態で、身動きが取れなくなってしまった。
必死に押し返そうとしても、イーサン殿下はびくともしない。
イーサン殿下の鍛えられた体と私では、力の差は圧倒的だ。
「愛してるんだ、9年間ずっと。」
イーサン殿下からキスをされて更に必死に抵抗した。
とても強引で激しいキス。
抵抗しながら、イーサン殿下のキスが嫌では無い自分の心に気づいてしまった。
むしろ心地よくて溺れてしまいそう。
「やっ…やめてください」
「愛してる、愛してるんだ、セルヴィ。」
イーサン殿下は愛を囁きながら、何度もキスをしてくる。
身体の芯が疼くような不思議な感覚。
私は、この感覚を一度経験している。
クリス様に冬休みにキスをされた時のような、自分が自分でいられないような感覚。
全てを捨てて、このまま流されてしまいたくなる。
このままではダメ、必死に抵抗しても、イーサン殿下はびくともしない。
行動と言葉でイーサン殿下を拒絶しながら、自分の感情を隠し切る事ができなかった。
遠くから他の生徒の足音と話し声が聞こえて来て、イーサン殿下の気が逸れた一瞬のうちに、その場から走って逃げ出した。
その後の事はよく覚えていない。
とにかく苦しくて悩んで、特にイーサン殿下とリチャード王太子殿下の事は、これまで以上に避けた。
あのキスを思い出しては、罪悪感と、イーサン殿下への恋心でおかしくなりそうだった。
食事も喉を通らなくて、夜もあまり眠れなくて、ふらふらした気分でいたら、突然リチャード王太子にと突き飛ばされて「何バカな事をやってるんだ!」と叫ばれて驚いた。
そして、自分が4階から飛び降りようとしていた事に気づき、凄く怖くなった。
訳がわからなくなり、泣きながら謝るとリチャード王太子殿下が優しく抱きしめてくれて、思わず縋るように抱きしめ返した。
凄く優しい声で
「大丈夫、大丈夫だから。生きていてくれて、ありがとう。僕こそ、君を追い詰めてしまった。ごめんね。」
と言われ、
「いいえ、いいえ、リチャード王太子殿下は何も悪くありません。」
と言うのが精一杯だった。
思わず「このまま泡になって消えてしまいたい」と小さく声に出てしまったら、強く抱きしめられて
「何でもするから、頼むから死なないでくれ。」と真剣な声で言われた。
長い事、そのまま私が泣き止むまでそっと抱きしめてくれていた、リチャード王太子殿下は
「セルヴィア嬢の悩んでいる事を僕に全部話してくれないか?」
と私に声をかけてくれて、私は今までの事、自分の気持ちを初めて人に話したのだ。
話していると気持ちが軽くなっていく気がした。
1人で抱え込まなくていいんだ。
リチャード王太子殿下は凄く真剣な眼差しで、私の言葉を焦らせたりもせずにゆっくりと聞いてくれる。
ずっと私は怖かったんだ。
「私の事を軽蔑しますか?」
「軽蔑なんてするはずがない。今まで1人きりで辛かったね。よく頑張ったよ。だから、今は気が済むまで泣いてごらん。僕は何があろうとセルヴィア嬢の味方だよ。」
私はまたリチャード王太子殿下の胸でたくさん泣いて泣いて泣いて、久しぶりに安心を手に入れる事ができた。
その日は王宮でリチャード王太子殿下がそばにいてくれる安心から眠くなってしまい、ぐっすり眠ってしまった。
翌朝、イーサン殿下から謝られ、クリス様に事実を書いた書簡を送った事を伝えられ、クリス様に対して罪悪感と、なんだかホッとしてしまった。
もう隠さなくていいんだ。
流石にクリス様には軽蔑され、婚約破棄をされるだろう。
クリス様と一緒にいる事を目標にずっと生きてきて、クリス様との思い出ばかり考えて涙が止まらない。
あんなに私を大切にしてくれているクリス様を私は傷つけた。
本当にクリス様とずっと一緒にいたかったんだ。
私が傷つく資格なんて無いのに、私は泣いてばかり。
でも、これで自分の気持ちに嘘をつく事なく生きる事ができる。
父にも私の気持ちを知られてしまったが、私の事を大切に思ってくれていて、何があっても私の味方とまでいってくれて、凄く嬉しい気持ちになった。
外交問題については、とても心配だけど、父なら出来るだけ穏便になるようにしてくれるのではないか。
本当に私のせいでセルシア王国にも、エンドラ王国にも迷惑をかけて申し訳ない。
無理して学園に行かなくてもいいと、父も言ってくれて、すぐに涙が出てしまう私は、家でしばらく休む事にした。
お父様も、リチャード王太子殿下も、イーサン殿下も私の事を大切に思ってくれているのを知る事ができたし、これからは1人で抱え込まなくていいと分かった。
もうこんなバカな事は二度としない。




