32.4年生のとあるパーティー
クリス様が帰国して、私は4年生になった。
クリス様がいない事以外は、今までと何も変わらない日常なのに、全てが色褪せて感じるくらい寂しい。
1年間ずっと一緒にいたのに、夏休みまで4ヶ月間クリス様に会えない。
クリス様がいない日常ってどうやって過ごしていたのか忘れてしまった。
クリス様も私を想ってくれているだろうか。
クリス様は私に片想いしている間も、私に会えないことをこんな風に寂しいと思っていてくれていたのだろうか。
友達としての寂しいと全然違いすぎて戸惑う。
今までは気にならなかったけど、クリス様は物凄くご令嬢から人気で、会えない間に私以外のご令嬢をクリス様が好きになってしまったらどうしようと不安になる。
イーサン殿下とリチャード王太子殿下は変わらず友人の距離感で一緒にいてくれるけど、一緒にダンスを踊った時の告白が頭を離れない。
2人も私と会えない時にこんな寂しい気持ちになったりするの?
私がクリス様と一緒にいた時はどう思っていたんだろう。
私なんて、クリス様が他のご令嬢を好きになったらと想像するだけで嫌なのに。
とにかく、今はクリス様の妃になれるように精一杯頑張らないと。
クリス様が帰国してもできるだけ普段通りに振る舞っているはずなのに、友達には私が落ち込んでいるのが分かるようで、お茶会、パーティーに誘われることも増えた。
パーティーに参加するとしてもクリス様と一緒だったけど、今のパートナーは弟のカイル。
まだ7歳だけど、私の自慢の弟で、優秀だ。
イーサン殿下とリチャード王太子殿下もパートナーになりたがっているけど、私はクリス様の婚約者だからと断っている。
もちろん、2人きりにならないようにしているけど、パーティーでダンスを踊っている時だけは、リチャード王太子殿下から諦めきれないなど愛を囁かれるから、ドキドキしてしまう。
私はクリス様の婚約者なのに、そんな自分が嫌だ。
でも、優秀で美しい王太子に愛を囁かれて、ドキドキしない女性はいないだろう。
イーサン殿下もダンスでとても嬉しそうに微笑むものだから、ドキドキしてしまう。
だから尚更、2人っきりになると困るので、学園でもお茶会でも常に誰かしらのご令嬢といるようにしているし、パーティーでは弟のカイルから離れないようにしている。
そんなある日、パーティーの当日の朝にカイルが熱を出してしまって、パートナー無しで参加することになってしまった。
友人である令嬢にはそれぞれパートナーがいて、ずっとご一緒する訳にはいかない。
私が初めてパートナーを伴わずに、パーティーに参加したので、たくさんの令息に声をかけられていて、困ってしまった。
私が令息とお話する機会は極力作らないようにしていたし、クリストファー王太子殿下、イーサン殿下、リチャード王太子殿下、カイルの誰かしらが常にそばにいた私に、話しかけようとする令息なんてほとんどいないだろう。
話しかけようとしただけでも牽制されていたし、今まで令息に囲まれて困ったという事がないのだけれど…、今はどうしたらいいのか分からない。
令嬢も、これ程たくさんの令息に囲まれてる輪の中には流石に入ってこない。
私が困っている様子でも、周りにいる令息達は必死に話しかけてくる。
「セルヴィア嬢、今日はパートナーがいらっしゃらないのですか?」
「カイル様の体調が優れないのですか?ご心配ですよね。」
「ずっとお話ししてみたかったのですが、機会がなくて。」
「いつも遠目で可愛らしいと思っていましたが、近くで見ると更に可愛らしいのですね。」
「お話出来るだけで天にも昇る気分です。」
困りながら令息達とお話をしていると、同級生の令息が私の手を取って
「ずっとセルヴィア嬢が好きだったのです」
と皆の前で告白をした。
「私はクリストファー王太子殿下の婚約者です。」
「それでも、僕はセルヴィア嬢のことが好き」
と言い募るので、私は逃げるようにしてその場を後にして、人気の少ないところへ行った。
それが良くなかったのか、同級生の令息が私の後をついて来て、また手を掴まれて抱き寄せられた。
彼とはほとんど話をしたことも無いはずなのに。。
「離して下さい。」
離れようとしても相手の力の方が大きくて、離れられない。
怖い。。
「セルヴィア嬢、どうか僕と…」
と彼が言いかけたところで、突然彼から体を引き離された。
「嫌がる女性にいったい何をしているのですか?」
と怒った様子でイーサン殿下に睨まれた令息は
「憧れのセルヴィア嬢とお話ができて、つい気持ちが昂ってしまい申し訳ございませんでした。セルヴィア嬢、無理矢理抱きついてしまい、申し訳ございませんでした。どんな罰も受け入れます。」
と言ったが、私が怖がっている様子を見たイーサン殿下が
「立ち去りなさい。この事は他言無用です。2度目は無いと思うように。」
と言ったので、去って行った。
私が人気のないところで男性に抱き締められただなんて周りに知られたら、困るのは私だと判断してくれたようだ。
「ありがとうございます。イーサン殿下。助かりました。」
「いえいえ、むしろ助けに入るのが遅くなり、すみませんでした。もっと早くに気づくべきだった。まさかセルヴィア嬢にパートナーがいないとは思わなくて。。」
「そんな事ないですわ。とても助かりましたもの。実は弟のカイルが今朝、熱を出してしまって。。」
「早く風邪がよくなるといいですね。今日のセルヴィア嬢にパートナーがいなくて、令息達に囲まれて困っている様子だったと、令嬢が僕に知らせてくれたのです。セルヴィア嬢を見つけ出せて良かったです。」
「私の事を心配して探してくれたのですね。ありがとうございます。」
イーサン殿下が汗をかいて息を切らせて私を探してくれていたのが分かる。
「怖かったのでは無いですか?何か変な事はされていませんか?」
「怖かったですが、抱きつかれてすぐにイーサン殿下が来てくれたので大丈夫ですわ。」
「もし良かったら、今日は僕のパートナーになってくれませんか?」
「喜んで、イーサン殿下。」
私が微笑むと、イーサン殿下が凄く嬉しそうに笑ってくれるから、ドキドキしてしまった。
イーサン殿下とリチャード王太子殿下はいつもパートナーを伴わずにパーティーに参加している。
特定のパートナーを作ると政治にも影響するからと言っていたけど、私がパートナーになってしまって大丈夫なのだろうかと思ったが、そもそもクリス様の婚約者である私がパーティーでパートナーになったからと言って政治には影響しないだろうと思い直した。
私がパートナーを伴わずに参加して、今回みたいなことがあったらと思うと、素直にイーサン殿下のご厚意に甘える事にした。
「実は、パーティーで誰かとパートナーになるのな初めてなのです。今日は精一杯、エスコートさせていただきますね。」
少し照れたように離すイーサン殿下、こちらまで照れてしまう
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
イーサン殿下と2人で並んで歩いていると、周りから
「クリストファー王太子殿下とセルヴィア嬢も素敵でしたけど、イーサン殿下とセルヴィア嬢も素敵ですわね。」
「まるで絵画みたいに美しい。」
囁き声と見惚れている視線が送られてくる。
イーサン殿下を覗き見ると、近い距離で目が合って微笑まれるから、ドキドキそわそわ落ち着かない。
色々な貴族に話しかけられ、会談をしていると、リチャード王太子殿下と会った。
こちらを見た瞬間に驚いた様子で、相手との会話をすぐに切り替えてこちらに来た。
「ごきげんよう。珍しいね、セルヴィア嬢が弟にエスコートされてパーティーに参加しているだなんて。弟が誰かをエスコートしてるのも、初めて見たから驚いたよ。」
「ごきげんよう、リチャード王太子殿下。実は弟が今朝熱を出してしまいまして…」
経緯を説明すると、
「僕の方が早く気が付きたかったな」
と、とても悔しそうにしていた。
その後は3人でたくさんお話をして、なんとなくクリス様が留学に来る前に戻ったみたいだった。
私がダンスの告白の後から一方的に2人を避けていたからかな。
クリス様の婚約者としてと肩に力が入りすぎていたのかもしれない。
2人はクリス様が帰国して落ち込んでる私がずっと心配だったと言っていた。
友人なのだから頼って欲しいと。
異性だから距離感は難しいけれど、今回みたいに何かあれば頼らせてもらおうと思ったし、2人にも私を頼って欲しいと伝えたら、2人とも驚いた顔をして「何かあったら頼むね。」と言ってくれた。
クリス様がいない寂しさを忘れられた時だった。
私はクリス様に会えない寂しさを、イーサン殿下とリチャード王太子殿下といることで忘れるようになった。
2人といれば私は寂しく無い。
2人はいつも、私と一緒にいてくれる。




