7歳編・第69話:派遣 ― 三者合同調査隊、村へ
王都アールヴェントから伸びる西の街道。
その上を、三つの紋章旗を掲げた一団が進んでいた。
白金に輝く盾――白金騎士団。
蒼い魔導書――蒼天の塔。
聖光の十字――聖輝会。
国王の意向のもと、三大勢力が“共同任務”として同じ道を歩くのは、歴史上でも異例中の異例である。
しかし、その目的はたった一つ。
神性魔力を持つ少年――リオン・レインフォードと接触するためだ。
■
隊列の先頭には、白金騎士団の副団長ディルクが立っていた。
強面で、筋骨隆々の中年男。だが評判は良い。
戦場では鬼でも、子供には優しい――そんなタイプだ。
「……あまり乗り気ではないな、ディルク殿」
並ぶ馬上から、蒼天の塔の魔法使いアークが言う。
「当たり前だ。
子ども一人を調べるために、こんな大げさな隊だぞ」
「あの子は“ただの子ども”ではないですよ。
神性魔力を覚醒させた存在……いわば生きた奇跡です」
アークは口元をわずかに笑わせた。
「ああいう存在はね。
放っておけば、世界の“仕様”そのものを変えかねない」
「仕様……?」
「はい。“世界のシステム”とでも言い換えましょうか。
魔力という概念を作ったのは、世界という大きな機構そのものです」
ディルクは眉をひそめた。
「つまり……その子は神か?」
「いえ、神そのものではありません。ただ――」
アークの瞳がわずかに輝く。
「“神に近づく可能性を持つ存在”です」
ディルクは息を呑む。
その後ろから、白い法衣を揺らして教会代表のヘルムートが歩いてくる。
「アークよ。
あの子を危険な存在として語るのはやめろ。
神の力を宿す者を、不純な言葉で包むべきではない」
アークは肩をすくめた。
「心配しすぎでは? ぼくは事実を言ってるだけです」
ヘルムートは鋭い目で言う。
「教会はあの子を“神の声を聞く器”と見ている。
研究材料でも兵器でもない」
「なら、保護するつもりですか?」
「当然だ。
ただし――“導く”という形を取るがな」
アークは皮肉げに笑った。
「導く、ねぇ。
それって結局、“教会の色に染める”ってことでしょう?」
「不謹慎だぞ、若造」
二人の議論が少し険悪になったところで、ディルクが割って入った。
「やめろ。
あくまでこれは合同任務だ。
目的は“少年と接触し、王都へ同行させる可能性を探る”こと」
三人は黙り込む。
リオンという少年は、
白金騎士団にとっては“潜在的脅威”であり、
教会にとっては“神の器”であり、
魔法学府にとっては“研究対象”だった。
まったく同じ存在を前に、三つの視線はすべて違う。
その矛盾を抱えたまま、隊は村へ向かって進んでいく。
■
その頃――辺境の小さな村。
「リリィ、こっちの砂山、もっと丸くしよ!」
「はぁーい! まほう、まほう……えいっ」
ふにゃっ、と砂の形が崩れた。
「わぁあ!? おにいちゃん、くずれちゃった!」
「大丈夫だよ、リリィ。やり直そっか」
リオンは手をかざし、魔力をそっと流す。
砂は光を帯びてふわりと浮き、自然な曲線を持つ山になった。
子どもたちの遊び場――
リオンが魔法で作った“土と光の公園”。
村中の子供が集まる人気スポットになっていた。
「リオンおにーちゃん、すべりだいもういっかい!」
「はいはい、順番ね!」
村の子どもたちに囲まれるリオンは、
相変わらず無邪気で、優しくて、少し照れ屋だった。
だが――ふと胸を押さえた。
(……また、光がざわざわしてる)
胸の奥で、神性魔力が脈動している。
まるで、遠くから誰かが近づいているのを“力”が感じているようだった。
(なんだろ……嫌な感じじゃないけど……)
リオンは視線を空へ向ける。
西の空に――ほこりを巻き上げる馬車の列が見えた。
(だれか、来る……?)
胸の光が、強く鼓動した。
■
村の入り口。
「ずいぶん静かな村だな。平和そのものだ」
ディルクはゆっくりと馬を降りる。
アークは目を細め、魔力感知の術式を展開した。
「……感じますね。
異様な魔力の揺らぎ。間違いなくこの村です」
ヘルムートは胸に手を当て、祈りのポーズをとった。
「神よ……どうか我らに導きを」
“神性魔力”を宿す少年。
三つの勢力の重圧と思惑を乗せたまま、調査隊は村へ一歩踏み入れた。
■
同時刻。
裏庭で遊ぶ子どもたちに、焦った母親が走ってくる。
「リオン! リオン、ちょっと来なさい!」
「えっ? どうしたの?」
「大変よ……村に、王都の騎士団と教会と……魔法学府まで……!」
リオンは息を呑む。
(……やっぱり、来た)
胸の光が、激しく脈打つ。
怖いわけじゃない。
だが――
(何か……“運命”みたいなものが動いてる……)
子どもながらに直感していた。
村を出ることになるかもしれない。
家族や友達と離れるかもしれない。
それでも、自分の中の光は――
「行かなきゃ……」
リオンは立ち上がった。
「リオン!? 危ないから家にいなさい!」
「大丈夫。
……ぼく、逃げないよ」
母は驚いた顔をした。
それは――
前世にはなかった、少年の“勇気”だった。
ゆっくりと村の通りを歩く。
村の中央。
白金、蒼天、聖輝の旗が揺れる。
三つの勢力の代表が、同時に振り向いた。
そこにいたのは――
光を宿した瞳を持つ、小さな少年。
リリィが兄の手を握る。
「おにいちゃん、こわくない?」
「……うん。
みんな、ぼくを見に来たんだ」
三人の大人が息を呑む。
アークは震えるほどの興奮を覚えた。
「……本物だ。
こいつが――神性魔力の核心……!」
ヘルムートは涙を浮かべて十字を切った。
「この子が……神の器……!」
ディルクはただ、少年を静かに見つめた。
その瞬間。
リオンの胸の光が、ふわりと広がり――
三人の大人すべての魔力を“揺らした”。
「……っ……!?
な……なんだ、この感覚……!」
「神の……祝福……?」
「魔力が……共鳴している……!?」
大地がかすかに震える。
空気が変わった。
世界が――
少年に呼応するように、揺れた。
リオンは一歩前へ進む。
そして言った。
「――はじめまして。
ぼく、リオン・レインフォードです」
その声が響いた瞬間。
三つの勢力の代表たちは確信した。
――この子は“世界を変える”存在だ。
と。
『初接触 ― 三者の思惑とリオンの選択』
ついにリオンと三大勢力が対面。
白金騎士団は“保護と警戒”。
教会は“神の器としての導き”。
魔法学府は“未知の力への興味”。
三者はそれぞれ異なる “提案” をリオンへ向けて示しはじめる。
しかしリオンの胸の光は、誰の声とも違う“別の意志”に反応し──
少年は、自分で初めて“選択”を迫られることになる。




