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7歳編・第69話:派遣 ― 三者合同調査隊、村へ

王都アールヴェントから伸びる西の街道。

その上を、三つの紋章旗を掲げた一団が進んでいた。


白金に輝く盾――白金騎士団。

蒼い魔導書――蒼天の塔。

聖光の十字――聖輝会。


国王の意向のもと、三大勢力が“共同任務”として同じ道を歩くのは、歴史上でも異例中の異例である。


しかし、その目的はたった一つ。


神性魔力を持つ少年――リオン・レインフォードと接触するためだ。



隊列の先頭には、白金騎士団の副団長ディルクが立っていた。

強面で、筋骨隆々の中年男。だが評判は良い。

戦場では鬼でも、子供には優しい――そんなタイプだ。


「……あまり乗り気ではないな、ディルク殿」


並ぶ馬上から、蒼天の塔の魔法使いアークが言う。


「当たり前だ。

 子ども一人を調べるために、こんな大げさな隊だぞ」


「あの子は“ただの子ども”ではないですよ。

 神性魔力を覚醒させた存在……いわば生きた奇跡です」


アークは口元をわずかに笑わせた。


「ああいう存在はね。

 放っておけば、世界の“仕様”そのものを変えかねない」


「仕様……?」


「はい。“世界のシステム”とでも言い換えましょうか。

 魔力という概念を作ったのは、世界という大きな機構そのものです」


ディルクは眉をひそめた。


「つまり……その子は神か?」


「いえ、神そのものではありません。ただ――」


アークの瞳がわずかに輝く。


「“神に近づく可能性を持つ存在”です」


ディルクは息を呑む。


その後ろから、白い法衣を揺らして教会代表のヘルムートが歩いてくる。


「アークよ。

 あの子を危険な存在として語るのはやめろ。

 神の力を宿す者を、不純な言葉で包むべきではない」


アークは肩をすくめた。


「心配しすぎでは? ぼくは事実を言ってるだけです」


ヘルムートは鋭い目で言う。


「教会はあの子を“神の声を聞く器”と見ている。

 研究材料でも兵器でもない」


「なら、保護するつもりですか?」


「当然だ。

 ただし――“導く”という形を取るがな」


アークは皮肉げに笑った。


「導く、ねぇ。

 それって結局、“教会の色に染める”ってことでしょう?」


「不謹慎だぞ、若造」


二人の議論が少し険悪になったところで、ディルクが割って入った。


「やめろ。

 あくまでこれは合同任務だ。

 目的は“少年と接触し、王都へ同行させる可能性を探る”こと」


三人は黙り込む。


リオンという少年は、

白金騎士団にとっては“潜在的脅威”であり、

教会にとっては“神の器”であり、

魔法学府にとっては“研究対象”だった。


まったく同じ存在を前に、三つの視線はすべて違う。


その矛盾を抱えたまま、隊は村へ向かって進んでいく。



その頃――辺境の小さな村。


「リリィ、こっちの砂山、もっと丸くしよ!」


「はぁーい! まほう、まほう……えいっ」


ふにゃっ、と砂の形が崩れた。


「わぁあ!? おにいちゃん、くずれちゃった!」


「大丈夫だよ、リリィ。やり直そっか」


リオンは手をかざし、魔力をそっと流す。

砂は光を帯びてふわりと浮き、自然な曲線を持つ山になった。


子どもたちの遊び場――

リオンが魔法で作った“土と光の公園”。


村中の子供が集まる人気スポットになっていた。


「リオンおにーちゃん、すべりだいもういっかい!」


「はいはい、順番ね!」


村の子どもたちに囲まれるリオンは、

相変わらず無邪気で、優しくて、少し照れ屋だった。


だが――ふと胸を押さえた。


(……また、光がざわざわしてる)


胸の奥で、神性魔力が脈動している。

まるで、遠くから誰かが近づいているのを“力”が感じているようだった。


(なんだろ……嫌な感じじゃないけど……)


リオンは視線を空へ向ける。


西の空に――ほこりを巻き上げる馬車の列が見えた。


(だれか、来る……?)


胸の光が、強く鼓動した。



村の入り口。


「ずいぶん静かな村だな。平和そのものだ」


ディルクはゆっくりと馬を降りる。


アークは目を細め、魔力感知の術式を展開した。


「……感じますね。

 異様な魔力の揺らぎ。間違いなくこの村です」


ヘルムートは胸に手を当て、祈りのポーズをとった。


「神よ……どうか我らに導きを」


“神性魔力”を宿す少年。


三つの勢力の重圧と思惑を乗せたまま、調査隊は村へ一歩踏み入れた。



同時刻。


裏庭で遊ぶ子どもたちに、焦った母親が走ってくる。


「リオン! リオン、ちょっと来なさい!」


「えっ? どうしたの?」


「大変よ……村に、王都の騎士団と教会と……魔法学府まで……!」


リオンは息を呑む。


(……やっぱり、来た)


胸の光が、激しく脈打つ。


怖いわけじゃない。

だが――


(何か……“運命”みたいなものが動いてる……)


子どもながらに直感していた。


村を出ることになるかもしれない。

家族や友達と離れるかもしれない。

それでも、自分の中の光は――


「行かなきゃ……」


リオンは立ち上がった。


「リオン!? 危ないから家にいなさい!」


「大丈夫。

 ……ぼく、逃げないよ」


母は驚いた顔をした。


それは――

前世にはなかった、少年の“勇気”だった。


ゆっくりと村の通りを歩く。


村の中央。

白金、蒼天、聖輝の旗が揺れる。


三つの勢力の代表が、同時に振り向いた。


そこにいたのは――


光を宿した瞳を持つ、小さな少年。


リリィが兄の手を握る。


「おにいちゃん、こわくない?」


「……うん。

 みんな、ぼくを見に来たんだ」


三人の大人が息を呑む。


アークは震えるほどの興奮を覚えた。


「……本物だ。

 こいつが――神性魔力の核心……!」


ヘルムートは涙を浮かべて十字を切った。


「この子が……神の器……!」


ディルクはただ、少年を静かに見つめた。


その瞬間。


リオンの胸の光が、ふわりと広がり――


三人の大人すべての魔力を“揺らした”。


「……っ……!?

 な……なんだ、この感覚……!」


「神の……祝福……?」


「魔力が……共鳴している……!?」


大地がかすかに震える。


空気が変わった。


世界が――

少年に呼応するように、揺れた。


リオンは一歩前へ進む。


そして言った。


「――はじめまして。

 ぼく、リオン・レインフォードです」


その声が響いた瞬間。


三つの勢力の代表たちは確信した。


――この子は“世界を変える”存在だ。


と。

『初接触 ― 三者の思惑とリオンの選択』


ついにリオンと三大勢力が対面。

白金騎士団は“保護と警戒”。

教会は“神の器としての導き”。

魔法学府は“未知の力への興味”。

三者はそれぞれ異なる “提案” をリオンへ向けて示しはじめる。

しかしリオンの胸の光は、誰の声とも違う“別の意志”に反応し──

少年は、自分で初めて“選択”を迫られることになる。

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