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7歳編・第63話:第一撃 ― 森から来る“異常個体”

森の木々が大きく揺れ、鳥たちの悲鳴にも似た飛び立つ音が空を裂いた。


——ドンッ……ドンッ……ドンッ……!


重い足音が地面を震わせながら近づいてくる。

まるで大地そのものを殴りつけるような規則的な振動。

それはゆっくり、しかし確実に村へ向かっていた。


リオンは息を呑んだ。


(くる……!)


隣のレストは剣の柄に手を置き、指先だけで静かに緊張を伝えている。


「リオン——絶対に俺の後ろから離れるな」

「……はい」


レストはリオンを見ることもせず、しかし声の調子だけでリオンを落ち着かせるように言った。


「怖がるのはいい。逃げようとするな。 “見て、感じて、考えろ” それが魔法師の最低限の戦い方だ」


リオンはこくりと頷いた。


(逃げない……絶対に……)


胸の奥の魔力が、小さく脈打つ。


その瞬間——

森の奥から異様な“息吹”が溢れ出した。


ゴォォォォ……!


いや、それは風ではない。

まるで森全体が、何か巨大なものの呼吸で一斉に押されるような……


(なんだよ……これ……)


体が自然と震えた。

レストが低く呟く。


「……出てくるぞ」


■ ■ 異常個体《アースバイソン・変種》


森の暗がりから、最初に現れたのは“角”だった。

黒鉄のように濁り、刃物のような輝きをまとった二本の巨大な角が木々の間を割って進む。


次に現れたのは“肩”。

岩の塊を思わせる筋肉の隆起。

そして、体全体を包む濃密な魔力の霧。


——ズンッ!!


魔獣は木を一本叩き折り、そのまま姿を現した。


「……でっ……!?」


リオンの足が一瞬すくむ。

レストが小さく息を呑む。


「アースバイソン……のはずだが……」


大地色の毛皮は黒く変色しており、目は血走って赤く輝いている。

そして体を包む魔力は、通常のアースバイソンより明らかに“濃い”。


「完全に……変質してるな」


レストは呟いた。


「魔力核の沈黙の影響が……ここまでひどいとは」


リオンは喉の奥がひりついた。


(これ……俺が……? いや、違う……違うけど……でも……)


胸の中の魔力が、不規則に揺れる。

バイソンがこちらに気付いた。


——グルルルルル……


重く、低い唸りが空気を震わせる。

レストが素早く剣を抜く。


「リオン、絶対に下がるな。 でも俺の前に出るな。 いいな?」

「はい……!」


怖い。

でも、逃げたらもっと怖くなる。

それを昨日、森で嫌というほど知った。


レストの足がわずかに動くと同時に——

アースバイソンが突進した。


——ドオオオオォォォン!!!


地面が割れるほどの勢いで。


■ レスト vs 異常アースバイソン


「リオン、しゃがめッ!!」


レストの怒号に合わせ、リオンは反射で身を伏せる。


——ギャッ!


直後、レストの身体が風のように動いた。

剣が大きく振り抜かれ、アースバイソンの角を“弾く”。


ガァァンッ!!


火花が散り、衝撃が空気を裂く。


(すご……! レストさん、一撃であんな巨体を……!)


だが——


「……っ、この硬さ……!」


レストの剣が、ほんの僅かにしなる。

角の硬度が異常すぎる。


バイソンは怯まない。

むしろ逆に——


——怒った。


「グゥオオオオアアアッ!!」


魔力が爆ぜ、バイソンの体が黒いオーラに包まれる。


(こんなの……村に入られたら……!)


リオンの胸が熱くなる。

レストが叫ぶ。


「リオン! 絶対に近づくな!! 今の君の魔力は不安定すぎる! 迂闊に使えば——」


その時だった。

アースバイソンの目が、リオンに向けられた。


(——え?)


次の瞬間。


「グルルルル……!」


巨体が爆発するように跳ね、一直線にリオンへ突進してきた。


「まずいッ!!」


レストが叫ぶ。


(やばい……! 避けられない……!)


体が恐怖で固まる。


(動け……動けよ……! 俺……また、守れないのか……!?)


胸の奥の魔力が震えた。


——ズキンッ!!


「っ……!」


視界の端が白くなる。

身体が熱く、脈打つ。

レストが必死の形相でリオンへ飛び込む。


「リオン——!」


しかし、

バイソンの突進がレストより早い。


(だめだ……間に合わない……!)


そして——

リオンの胸が“開いた”。


■ リオン、初めての“新魔力”


——ドクンッ!!


脈動。

それは心臓の鼓動ではない。

胸の奥の魔力が、一気に解き放たれた。


「……あ——」


リオンの視界が白く染まる。

魔力は、命令も儀式もなしに外へ溢れ——


——バシュウウウウッ!!!


“風”が生まれた。

否——

風などではない。

大気そのものが、リオンの前で“弾け飛んだ”。

アースバイソンの目が驚愕に見開かれる。


「グッ……!?」


巨体がそれだけで押し戻される。

大地がひび割れ、土が巻き上がり、空気が唸りをあげる。

レストが目を見開いて叫ぶ。


「り、リオン……!? 今の……魔法か……?」


リオン自身も信じられない。


(……俺……何もしてない……ただ……来るなって思っただけで……)


胸の奥で、魔力核の残響が低く鳴る。


——“器よ。それが、お前の“最初の一歩”だ”


幻聴のようにあの声がよぎる。


(これが……俺の……?)


アースバイソンは足を震わせ、怒りと恐怖が混じった咆哮を上げた。


「ギ……グオオオオアアア!!」


レストが叫ぶ。


「リオン! 次の一撃で来る!! さっきの魔力は……もう一度出せるか!?」

「わからない……でも……やってみる!」


リオンは拳を握り、胸の奥の魔力に意識を向けた。


(出ろ……! 俺の力……! 出てくれ……!)


バイソンが、地面を爆砕しながら突進する。


——ドオオオオォン!!


リオンは叫んだ。


「やめろおおおおおっ!!」


魔力が爆発する。


——バシュッ!!!


だが、さっきよりも弱い。


(ちょっとしか……出ない……!)


レストが瞬時に動いた。


「リオン、しゃがめッ!!」


ガキィィィンッ!!!


レストの剣が角をはじき、二撃目をなんとか防ぐ。

しかし、レストの腕が痺れているのが見てわかった。


「くっ……! このままじゃ……!」


バイソンは再びリオンを狙いはじめる。


(なんで……なんで俺ばっかり……!)


そのとき、リオンは気づく。


(……バイソンの目……変だ……)


黒い霧が、バイソンの体から漏れ出している。


(あれ……魔力核の残滓……? 俺の魔力と……反応してる……!?)


リオンは震える声で叫んだ。


「レストさん!! あいつ……俺の魔力に反応してる!!」


レストが目を見開く。


「……なんだと!?」


アースバイソンの視線はリオンだけに向けられている。

その眼には明らかな“執着”があった。


(まるで……魔力核を奪われたのを怒ってるみたいだ……)


——グオォオオアア!!


バイソンが最後の突進を始める。

レストが剣を構える。


「リオン! 下がれッ!! どんなことがあっても、絶対に前に出るな!!」


だがリオンは——


(前に出なきゃ…… 村が……家族が……!! 守れない……!)


足が、レストの隣へ踏み出された。

レストが驚愕する。


「り、リオン!? 何して——!」


リオンは叫んだ。


「俺も戦う!! これ以上……守られてばっかりなんて、嫌だ!!」


魔力が震える。

胸の奥で、核の残光が光る。


(出ろ……俺の魔力……! “守るための力”として……!)


アースバイソンが迫る。


——ドォォォォン!!!


リオンは両手を突き出した。

胃の底から叫ぶ。


「止まれぇぇぇぇぇッ!!!!!」


世界が——

光に包まれた。

『崩壊の光 ― リオンの魔力暴走』


アースバイソンの突進に対抗しようと、

初めて“自分の意志で”魔力を解き放とうとしたリオン。

だが新しい魔力はまだ幼い身体に扱えるものではなく、

魔力は暴走し始める。


レストが止めようとするも間に合わず、

リオンの魔力は大地と空を震わせる“光の奔流”となり、

魔獣を包み込む——。


その代償は、あまりにも大きかった。

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