7歳編・第61話:帰還 ― 村での異変と“核の影響”
森の出口が見え始めた頃、リオンはようやく目を覚ました。
「……ん……あれ……?」
背中の揺れに気づき、半分眠った顔で呟く。
「やっと起きたかい」
「レストさん……俺……なにして……」
「後で説明するよ。まずは村に帰ろう」
レストの声は柔らかいが、その奥に緊張がにじんでいる。
リオンはゆっくりと背中から降り、地面に足をつけた。
だが——すぐに違和感が走る。
(……身体が……軽い? いや……軽すぎる……?)
まるで全身の魔力が“流れ直された”ような奇妙な感覚。
創造魔法を使う前みたいに、全身がクリアになっている。
「レストさん……俺、なんか変です」
「変なのは昨日からだろう?」
レストは冗談めかして笑ったが、目は笑っていない。
「でも……ひとつ言える。君の魔力はさっき、明らかに“変質”した」
「変質……?」
「帰ったら落ち着いて話すよ。 今は、村が心配だ」
リオンは目を瞬かせた。
森は妙に静かで、風の流れすら変わっているように感じる。
そして村が見えてきた瞬間——
リオンは息を呑んだ。
「え……なに、これ……?」
■ 村全体の“異変”
畑の作物が、不自然なほど生き生きとしている。
見慣れた野菜の葉は普段の倍近く広がり、まだ成長途中だったはずの麦が、すでに穂を伸ばしている。
レストも驚きの声を漏らした。
「たった半日で……ここまで成長するなんて……」
村人たちも騒然としていた。
水を汲みにきた人々が井戸を覗くと、ざわめきが起きる。
「井戸の水が……澄みすぎてる……!」
「気のせいじゃない! 昨日より冷たい!」
「魔獣除けの結界石も、光が強すぎるぞ!」
村全体に広がる“底知れない豊かさ”。
だがそれは自然ではなく、不気味さを伴っている。
リオンは喉を鳴らす。
(これ……まさか……)
レストがリオンに視線を向け、
言いにくそうに口を開く。
「……リオン。 多分、これは“魔力核の沈黙”の影響だ」
「俺の……せい?」
「正確には、君を通して魔力核が吸収された影響だろう」
レストは村のあちこちを指差す。
「魔力核は森全体の魔力を調整していたんだ。 その核が突然消えたことで、魔力の流れが一気に変わった。 森だけじゃない……村の水脈や土壌も影響を受けている」
「つまり……俺が触ったせいで……?」
レストは首を振る。
「責めているんじゃない。 あれは核の方から“君を選んだ”んだ。 君が触れなくてもいずれ暴走していた」
それでもリオンの胸はざわつく。
魔力核の光が胸の奥でまだ微かに残響している気がする。
(俺……何を背負わされたんだろう……)
■ 家族の反応
村の騒動の中、リオンの家へ到着した。
戸を開けた瞬間——
「リオン!!」
母エルナが涙目で抱きついてきた。
「もう……もう……! 昨日の魔獣で怪我したって聞いて……! 森でも倒れたって……!!」
昨日の戦闘訓練での傷もあったせいで、母は心配で眠れなかったらしい。
父ダリウスも腕組みしながら、わざと怒ったような顔をしている。
「無茶ばかりしおって……! だが……帰ってきてよかった」
そして——
妹リリィが駆けてくる。
「にーたん……おかえり……!」
その声だけで胸が少し軽くなる。
リオンはしゃがみ込み、リリィを抱き上げた。
「ただいま、リリィ。心配かけてごめん」
「ん……いいこいいこ、してあげる……!」
ちっちゃな手がリオンの頭をぽんぽんと叩く。
(……ああ……俺、この子たちを守らなきゃなんだ……)
魔力核の呼び声も、不安も、この瞬間だけは遠くなる。
だが家族の温もりの裏で、リオンの身体には確かな“違和感”があった。
■ ■ 身体に起きた“変化”
家族が落ち着いた頃、レストが真顔で言った。
「リオン……少し魔力を見せてくれ」
「え? …………こう?」
リオンは掌に意識を集中し、少しだけ魔力を放つ。
——ぽ。
それだけで部屋の空気が震えた。
まるで空間そのものが押されるような圧力。
母と父が一歩下がり、レストが息を呑む。
「……やっぱりだ」
「レストさん……?」
レストは深く息を吸い、告げた。
「リオン。 君の魔力は“魔力核と融合”したんだ」
部屋の空気が一瞬止まる。
「融合……?」
「核が君の中に一部入り込んで、君の魔力の循環そのものが“再構築”されたんだ」
レストは掌を出し、リオンの魔力を感じ取る。
「魔力の質が……完全に別物になってる。 普通の魔法師どころか、高位貴族の魔力とも違う…… “自然魔力に限りなく近い魔力”だ」
リオンは息を呑んだ。
(自然……魔力……?)
レストは言葉を続ける。
「だからこそ村に影響が出ている。 君の魔力が、自然の魔力を再配置してしまっているんだ」
「俺の……せいだ……」
「違う」
レストがきっぱりと言う。
「魔力核が“君に寄りかかった”んだ。 君の魔力と同調しないと崩壊したから」
リオンは胸の前で拳を握る。
(俺が……この村の魔力の流れを変えてしまった…… でも……それなら、俺は責任を取らないと……!)
リオンは顔を上げる。
「レストさん…… どうすれば元に戻せますか?」
レストは目を細めた。
「……戻す方法は分からない。 だけど、ひとつだけ確実なことがある」
「……なんですか?」
「君の“新しい魔力”は、 これから——間違いなく“力”になる」
その言葉は、森の奥で聞いた謎の声と重なるようだった。
——“ようやく戻ったか、器よ”
リオンは唇を引き結んだ。
(この力……ちゃんと使いこなさないと…… 村のためにも、家族のためにも……)
だがこの時のリオンはまだ知らなかった。
“魔力核との融合”が
後に王都を巻き込む事件の引き金になることを——。
『揺れる村 ― 魔獣の活性化と新たな脅威』
魔力核の沈黙により、森だけではなく魔獣たちの動きにも異変が生じていた。
これまで村に近づかなかった凶暴な魔獣が、
餌を求めて徐々に村へ迫ってくる。
リオンの新しい魔力の影響で、魔獣まで“変質”し始めていた。
そしてついに、村の外れに“異常な個体”が現れる——。




