7歳編・第59話:森の怪異 ― 初めての魔力暴走の予兆
森の奥に、冷えた風が吹き抜けた。
陽光は穏やかでも、空気だけが妙にざわついている。
リオンは村防衛演習を終え、レストと共に森の出口へ歩いていた。
しかし——
胸の奥で小さな“違和感”が生まれていた。
(……なんだろう? 身体がちょっと熱い……?)
魔力を大量に使った後、疲労を感じること自体はいつもだった。
だが今日は違う。
身体の奥で、なにか“うずき”のような感覚がある。
レストがちらりと振り返る。
「リオン、少し顔が赤いよ。大丈夫?」
「だ、大丈夫です……ちょっと疲れただけで……」
「ふむ……」
レストは眉を寄せたが、深追いはしなかった。
その代わり、森の奥へ視線を向ける。
「今日は風の流れが妙だ。森の魔力がざわついてる……」
リオンも森を見る。
その瞬間——
胸の奥の“うずき”が、まるで森のざわめきと共鳴するように強まった。
(……なに、これ……?)
■ 魔力の共鳴
森の奥から、風が吹いた。
それはただの風ではなかった。
魔力の粒子が混じっており、リオンの肌に触れた瞬間、身体の奥で何かが跳ねた。
「う……っ」
リオンは思わず胸を押さえる。
レストが駆け寄る。
「リオン!? どうした!」
「わ、分からない……なんか、魔力が……勝手に、動いて……!」
身体の奥で魔力がざわつき、まるで外から呼ばれているように暴れ始める。
レストの顔色が変わる。
「……まずい。これは“魔力共鳴”かもしれない」
「魔力共鳴……?」
「森の奥に、通常ではあり得ない魔力源がある。 リオンの魔力量は桁外れだから、外の魔力に強く反応してしまうんだ」
風が強まり、木々がざわざわと揺れる。
それはまるで“呼び声”のようだった。
リオンの身体は、その声に引っ張られるように前へ進もうとする。
「いけない!」
レストが腕を掴むが、リオンの魔力が暴れ、抵抗は強い。
(やばい……このままだと俺……勝手に魔力が……!)
■ 魔力暴走の前兆
突然、足元の落ち葉が舞い上がり、リオンの周囲だけ風が渦を巻いた。
「リオン、深呼吸して! 魔力の流れを止めるんだ、いいね!?」
「で、できないっ……勝手に、魔力が……!」
視界の端で、光が漏れ始めた。
リオンの手のひらから、意図せず“創造魔法の光”が溢れる。
——作るつもりのない光が、勝手に。
「まずい……! このままだと身体が魔力を暴発させる!」
レストはリオンの肩に手を置き、魔力で押さえ込もうとする。
だが、リオンの魔力量は桁違いだ。
レストの魔力では抑えきれない。
「っく……! リオンの魔力、強すぎる……!」
リオンは歯を食いしばる。
(駄目だ…… 止めないと…… 暴走したら……みんなを傷つける……!)
■ 森の奥からの異変
そのとき——
森の奥から、不気味な光が溢れた。
青白い光が木々の奥で脈を打つように点滅し、風よりも強い“魔力の波”が何度も押し寄せる。
レストはその気配だけで戦慄した。
「あれは……影魔獣じゃない。 もっと古い……森の魔力源だ……!」
リオンの魔力は、その光に反応してさらに激しく暴れた。
「や……やだ…… 勝手に……魔法が……!」
手のひらから、光が獰猛に膨れ上がる。
創造魔法が制御を失い、形を得ないまま空気を震わせる。
このままだと暴発は避けられない。
レストはぎゅっと歯を食いしばり、
「リオン! 俺の声を聞けッ!!」
森が揺れるほどの声量だった。
「魔力は君の一部だけど、主導権は“君”だ!
外の魔力はただの雑音だ!
君の魔力は、本来“守るため”の力だろう!」
リオンの瞳が揺れ、わずかに意識が引き戻される。
「ま、守る…… 俺は……守るために……!」
胸の奥で魔力が暴れ、それでもリオンは必死に自分の魔力に手を伸ばす。
(暴走するな……! 俺は……俺は……!)
両手を胸に押し当て、魔力を強引に押し留める。
光が一瞬、爆ぜるように強くなったが——
次の瞬間、リオンの全身が震え、光がしゅん……と小さくなる。
呼吸が荒く、涙がにじむ。
「……止まった……?」
レストの肩が震えた。
「……止めたんだよ、リオン。 自分の力で、暴走を……」
リオンは息を吸い込み、膝をついた。
「う……うん…… でも、まだ……森の奥が……呼んでる……」
森の奥ではまだ青白い光が脈打ち、不気味な“呼び声”が続いている。
レストは険しい表情で森を見つめる。
「……行かないといけないね。 君の魔力を狂わせる原因が、あそこにある」
リオンも震える足を立てる。
「……行きます。 これ以上……勝手に暴れられたら困るから……!」
森の奥で光がまた脈打つ。
二人はゆっくり、暗い森のさらに奥へと歩みを進めた——。
『森の中心 ― 古代の魔力核との接触』
暴走の原因を探るため、リオンとレストは森の最奥へ。
そこには“古代の魔力核”と呼ばれる、
普通の人間では近づくことすらできない魔力源が眠っていた。
リオンの魔力は核に強く反応し、
ついに“初めての接触”が起きる——。




