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7歳編・第55話:レストの過去 ― 異端の天才が王都を捨てた理由

影魔獣との戦闘を終え、二人は森の奥、小川のそばに腰を下ろしていた。


レストが魔獣の残滓を浄化するために張った結界が、暖かな光を放っている。

リオンは膝を抱えて座り、肩で息をしながらレストを見上げた。


「レストさん……さっきの、すごかったです」

「ん? どれ? 僕の華麗なるステップ? それとも影魔獣たちの撤退ショー?」

「全部です……。 レストさんは、なんでそんなに強いんですか?」


レストは笑ったように見えたが、その目は笑っていなかった。


「……強い、ね」


リオンは黙ってその横顔を見る。

レストはしばらく黙ったまま、小川の水面を指で弾いた。

水が静かに揺れ、光を散らす。


「リオン。 君は一度、こんな質問をしたよね」


レストはゆっくり言葉を続ける。


『どうして僕を守るの?』


リオンは息を呑む。


「……はい。聞きました」


レストは視線を空へ向けた。


深い青。

枝葉の隙間から差す光。


その中で、彼の声はわずかに震えていた。


「僕は昔、王都〈クロウズ〉にいた。 “天才魔術師”って呼ばれてたよ。 ……まあ、よくある話だ」


リオンは聞き逃すまいと息を潜める。


「僕は生まれつき魔力が大きくてね。 制御も簡単にできた。 才能だけは……誰にも負けなかったと思う」


淡々と言っているようで、どこか苦みがある声。


「王立学院に入って、いろんな魔法を学んだ。 新しい術式も作った。 “瞬刻歩法”だってその頃に完成したんだよ」

「じゃあ、すごく……褒められてたんじゃ……?」


レストはーー笑った。

けれど、それは“苦笑”だった。


「褒められてたさ。 でもね……それは僕が“便利な道具”だったからだ」


リオンの胸がちくりと痛んだ。


「彼らが求めてたのは、“一人の人間”じゃない。 国に献上する“成果”と、“力”だけ。 僕は褒められてたんじゃなくて、“利用されてただけ”なんだ」


風が冷たくなる。

レストは続けた。


「十二歳のとき、 僕は“ある研究”に協力させられた」

「研究?」

「王城の奥でね。 “魔力の暴走”を研究する部門があった。 危険だから普通の魔術師は近づいちゃいけない場所。 でも、僕はそこへ呼ばれた」


リオンは、無意識に息をのむ。


“魔力の暴走”。

自分の先ほどの状態を思い出し、手が震える。


レストはその震えに気づき、苦笑した。


「大丈夫。ただの昔話だよ。 怖がらなくていい」


そして――


「その研究で、僕の失敗で…… 一人、死んだ」


リオンは凍りついた。


「え……?」


「正確には、“僕に押しつけられた失敗”だ」


レストは淡々としていた。

あまりにも淡々と――

だから逆に痛々しかった。


「装置の魔力循環が壊れてね。 暴走した魔力が爆発した。 本来の責任者がミスをしたのに、全部僕のせいになった」


リオンは息を詰める。


「『あれはレストが暴走したせいだ』

 『危険な魔力を抑えきれなかったんだ』

 『危険だから閉じ込めろ』」


レストの目が細められる。


「僕はそのまま……王都の地下に“隔離”された」


リオンの目が大きく開く。


「そんな……なんで……!? レストさんは悪くないのに!!」

「理由なんて簡単。 “僕を切り捨てた方が都合が良かったから”」


レストは肩をすくめた。


「研究部門は責任を負いたくない。 王都は天才が暴走したことにしておけば面子が保てる。 僕ひとりが犠牲になれば、全部丸く収まる」


リオンは拳をぎゅっと握った。


「そんなの……そんなの……!! 間違ってる!!」


レストは静かに微笑む。


「ありがとう、リオン」


その一言に、どれほどの孤独が詰まっているのか。

リオンには痛いほどわかった。


「僕は……逃げたんだ。 ある夜、拘束を破って王都を出た。 追手は何十人も来たけど……全部振り切った」


淡々としていたが、

その過去はあまりに重い。


「だから今の僕は“国に追われてる身”。 表に出られないし、住む場所も決まってない。 彼らにとっての僕は、“失敗作の天才”だからね」


リオンの胸がぎゅっと締め付けられる。


「じゃあ……」

声が震える。

「じゃあ、なんで……そんなレストさんが……危険を冒してまで……俺を守るの……?」


レストは微笑む。

優しく、あたたかく、どこか寂しさを含んだ笑顔で。


「君が“昔の僕”に似てたから」


リオンは息を呑む。


「誰にも理解されない“異能”。

 制御しなければ誰かを傷つけてしまうかもしれない“恐怖”。

 それでも守りたい人がいる“優しさ”。

 ……全部、僕の子どもの頃にそっくりなんだよ」


「……レストさん……」

「放っておけなかった。 もし君が暴走して、誰かが傷つく未来を想像するだけで……僕は胸が痛くなる」


レストはそっとリオンの頭に手を置いた。


「だから君を守るんだよ。 君を“俺と同じ道”に行かせないために」


リオンの視界が滲む。

涙がこぼれる。

レストはそれを優しく拭いながら言った。


「大丈夫。君は独りじゃない。

 僕がついてる。

 君が世界に嫌われても、僕だけは……絶対に味方でいる」


胸が熱くて、苦しくて、でも温かかった。


「レストさん……俺……俺、もっと強くなりたい……!」

「うん。なれるさ」


レストは微笑む。


「なにせ君は――《化け物級》の天才だから」


リオンは泣き笑いした。


「レストさんも、十分化け物ですよ!」

「はは、よく言われるよ」


二人は笑った。


森の空気が静かに揺れ、影魔獣の気配は完全に消えていた。

こうしてリオンは、レストという“たったひとりの理解者”を心に刻む。


それは、

彼の未来を決定づける

大切な絆のはじまりだった。

『村に迫る“王都クロウズ”――騎士団の影』


レストが過去を語った翌日。

村の近くに、見知らぬ騎士たちの姿が現れる。

黒い外套をまとい、王都の紋章を胸に刻んだ精鋭たち。


彼らはある人物を探していた。


「王国特別魔術管理局より通達。

 異能児の魔力反応がこの近辺で確認された」


それは、

リオンにとって運命を変える“出会い”の予兆だった――。

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