7歳編・第48話:村に来た“監視する者” ― リオンの力を観察する影
魔獣が逃げ去ったあと、村には安堵の空気が広がった。
しかし、リオンの視線は一人の男に向けられていた。
村の人々の後ろ――
木陰に立つ、旅人風の男。
だが、衣服の下で揺れる魔力の質が“普通じゃない”。
(あの人……村の人じゃない。 でも、魔力の流れが一定で乱れがない…… 兵士か、魔導師か……)
男はリオンと目が合うと、ほんの一瞬だけ微笑んだ。
だがその目は笑っていない。
まるで――
「観察対象を見つけた」と言わんばかりだった。
■ 村長宅での相談
夕刻。
リオンはアリシアと村長に呼ばれ、村長の家へ向かった。
大きな樽に囲まれた部屋には、先ほどの旅人の男も座っていた。
(やっぱり村長のところにいる……)
村長がリオンを見て口を開く。
「リオン、この人は“ギルド”から来られた方じゃ。 名を――」
男は穏やかな笑みを浮かべ、胸に手を当てて軽く頭を下げた。
「私は ギルド監査官・レスト・カイル と申します」
(監査官……!)
冒険者ギルドは各地に支部を置き、魔物の動向、魔力異常の調査なども担っている。
そして監査官は――
“異常存在の調査”が主な仕事だ。
リオンは無意識に背中を固くした。
レストは続ける。
「本部に届いた魔力観測値の異常が、この近辺で確認されましてね。
調査を兼ねて、村を訪れたところ――
ちょうど魔獣騒ぎがあったようで」
(観測……? まさか、俺の……?)
アリシアがレストを睨む。
「子ども一人に“監察”なんて、やりすぎじゃない?」
「やりすぎ……ですかね?」
レストは淡く笑いながら、不可解な視線をリオンに向けた。
「その“子ども”が放った魔力は、小規模な魔法障壁を遥かに超えるものでしたよ」
村長が慌てて口を挟む。
「レスト殿、リオンは村の子どもに過ぎん。 村人たちを守ろうと……」
「ええ、もちろん見ていました。 立派な行動でしたよ」
レストの声は柔らかい。
だが、その裏にあるのは“完全な警戒”だ。
(やばい……この人、完全に疑ってる……)
レストはゆっくりとリオンに近づき、膝を折る。
「リオン君。 少し質問いいかな?」
「……はい」
「君の魔法はどこで学んだ?」
「……独学です」
「ふむ。なら――」
レストは手を伸ばし、リオンの手をそっと取った。
「この“魔力の質”はどこで得た?」
リオンの心臓が跳ねる。
触れた瞬間――
創造核が自動防衛のように微細な波動を発した。
ブンッ……
「……っ!?」
レストの肩がわずかに揺れた。
たった“接触しただけ”。
魔力量ではなく、魔力の“性質”に衝撃を受けたのだ。
(これは……人間の魔力じゃない……と気づいた?)
補助AIが内部で警告を発する。
――【警戒:対人類組織】
――【創造帯域の秘匿を推奨】
リオンは深呼吸し、苦笑でごまかす。
「えっと……自分でも、よく分かりません」
「……そうか」
レストは手を離し、目を細めた。
敵意はないが、強烈な興味と警戒がある。
■ レストの“提案”
「リオン君」
レストは立ち上がり、村長とアリシアをゆっくり見回した。
「私は敵ではありません。 君の力を曲げるつもりもない」
(嘘……)
「ただ―― 君ほどの力があるなら、 村に留まるより、もっと良い環境がある」
アリシアが身を乗り出す。
「レスト、まさか――」
「ええ、アリシア殿が思っておられるとおりです」
レストはリオンをまっすぐ見た。
「リオン。 君を 王都の魔導学院予備審査 に推薦したい」
村長が息を呑む。
アリシアの目が大きく開く。
予備審査――
それは地方の神童を早期に発掘するための制度で、受かった者は国家直属の教育機関へ入る。
つまり――
国の“管理下”に入る ということだ。
レストの声は穏やかだが、言葉の裏には重い意味がある。
「君の力は、村で扱いきれるものではない。
安心してほしい、君を武力として扱うつもりはない。
ただ――
その力の“正体”を、私たちにも理解させてほしい」
(正体…… つまり俺の“核”を見せろってことか)
リオンは拳をぎゅっと握る。
創造核が微かに脈打ち、「ここを離れるべきではない」と訴えている。
妹のリリィの顔、村の人たちの顔が浮かぶ。
(今、ここを離れたら……家族は? 村は? でも、このままここにいたら…… もっと大きな組織が来るかもしれない)
レストが微笑む。
「すぐに答えなくていい。 ただ――考えてみてほしい。 君の将来のためにも」
男の瞳は、優しげでありながら、その奥に“決して逃れられない運命”を感じさせた。
■ 家族の声
夜。
家に帰ったリオンを、母が心配そうに迎えた。
「リオン……本当に大丈夫なの?」
「うん……大丈夫だよ。
ちょっと、いろいろ聞かれただけ」
妹のリリィは無邪気に笑う。
「お兄ちゃん! 王都に行くの? すごい!」
「……まだ決めてないよ」
父は腕を組み、厳しい顔をしていた。
「王都に行けば、力を伸ばせるだろう。 だが――二度と戻れなくなるかもしれん」
“戻れない”。
その言葉は重かった。
家の温かさ。
家族の声。
妹の笑顔。
(全部捨てるのは……嫌だ)
リオンは自分の胸に手を当てた。
(俺の力は……誰かに管理されるためじゃない。 守るための力なんだ)
創造核が、静かに共鳴した。
まるでその思いに応えるように。
■ レストの“本当の目的”
深夜。
村長の家に泊まっているレストは、窓を開け、魔力測定器のような装置を取り出す。
その水晶板には――
リオンが魔獣を退けた瞬間の魔力波形が記録されていた。
「……やはり」
レストは小さくつぶやく。
「この“魔力の質”……
古代遺跡で観測される【創成帯域】に近い。
人間が扱える領域ではない。
やはり――君は“鍵”だ」
男の顔に、薄い影が落ちた。
「放っておくわけにはいかないな…… リオン君」
闇の中で、測定器の光が淡く揺れた。
『選択の時 ― リオン、村に残るか王都へ行くか』
レストから王都行きを提案されたリオン。
家族、村、そして自分の力の意味。
選ばなければならない“未来”が迫る。
しかしその夜、レストの正体を疑う“別の影”が動き出す――。




