7歳編・第47話:村人たちの疑念と期待 ― リオン、力を隠すか示すか
翌朝。
村はまだ薄い霧に包まれていたが、リオンが森の奥で“何か”を撃退したという噂は、すでに子どもから大人まで広まっていた。
「リオン、昨日の森で……本当に魔獣を追い払ったのか?」
畑仕事を終えた青年が、少し怖がるような表情で尋ねてくる。
「うん……ちょっとだけね」
リオンは肩をすくめるように笑ってみせたが、その返答は曖昧にしていた。
なぜなら――
昨夜のあれは魔獣ではなく、“何か”だと確信しているからだ。
(あんな霧みたいなの、この世界の魔獣じゃない…… 現世のシステムが消えた影響か……?)
胸の奥で創造核が微かに反応する。
“異物”を感知しているかのように。
■ 村に広がるささやき
家の前を歩いていると、村人たちのひそひそ声が耳に入る。
「リオンのあの光……普通の魔法じゃないだろう」
「7歳であれは異常だ。まるで……貴族の坊ちゃんみたいな……」
「いや、貴族でもあれほどの魔法は……」
「もしかして、危険なんじゃ……?」
(やっぱり……こうなるよね)
リオンは苦笑するしかなかった。
この村は、優しい村だ。
だけど、まったく未知の力に対しては、誰だって不安や恐怖を抱く。
そこへ、
「リオーンッ!」
妹のリリィが両手を広げて走ってきた。
朝から相変わらず元気だ。
「おはよっ! きのう森に行ったんだって? 怪我してない?」
「大丈夫。ほら、元気でしょ?」
リオンは妹の頭を撫でた。
リリィの無邪気な笑顔は、村人がどう思おうと――
「守りたい」と思わせてくれる。
■ アリシアの来訪
昼過ぎ。
村外れの道で、アリシアが馬車を降りて歩いてくる姿が見えた。
今日は珍しく鎧は着ておらず、軽装の旅人のような服装だ。
「リオン、少し話せる?」
「うん。どうしたの?」
アリシアは人目につかない農地の横までリオンを連れていく。
風が穏やかに吹き、畑の若い麦が揺れている。
「昨日のこと……村の人たち、少し不安がっているわ」
「……うん、知ってる」
アリシアは膝を折り、リオンと視線を合わせた。
「あなたの力は、人を安心させることもできるし、怖がらせることもできる。 だから、これからの行動は慎重にね」
「……気をつけるよ」
アリシアは優しく微笑む。
「でもね、リオン。私はあなたを信じてるわ。 あなたの力は、誰かを傷つけるためじゃなく、守るための力よ」
その言葉は、胸の奥に温かく響いた。
(守る力……か)
■ 力を隠すべきか、示すべきか
その日の午後。
リオンは森の手前に一人で座り、膝を抱えて考えていた。
隠せば村の生活は今までどおり続く。
でも、あの黒い霧が増えたら……?
(俺が力を隠してたら……誰が守るんだ?)
胸の奥に“前世の記憶の破片”が浮かぶ。
ブラック企業で、人知れず膨大な仕事を背負っていたあの頃。
誰も気づいていなかったが――
「自分がやらなければ」という感覚が、いつも心を押しつぶしていた。
(今度こそ……間違えたくない)
創造核が共鳴し、手のひらが温かく光る。
――【使用者の精神安定を確認】
――【創造帯域:安定】
――【未承認帯域:活動抑制】
「ありがと……」
リオンはぽつりとつぶやき、胸に手を当てた。
(俺は……守るために、この力を使う)
そう決めた瞬間だった。
――ガサッ。
森の中で何かが動いた。
リオンは即座に立ち上がる。
空気の流れが変わり、魔素の濃度が一瞬高くなる。
補助AIが警告を発する。
――【反応検知】
――【中型魔獣3体、接近】
「やっぱ来たか……!」
リオンは両手を構える。
光が生まれ、空間が歪む。
だが――
村の方から叫び声。
「魔獣だー!!」
大人たちが農具を持って走り出す。
しかし、それは鉄ではなく、脆い青銅製。
とても魔獣相手に戦える装備ではない。
(間に合わない……!)
リオンは走った。
創造核が反応し、足の動きが異様に軽くなる。
――【身体能力補助:軽度発動】
――【使用者の意思により優先度変更】
村の入り口で、魔獣が牙をむく。
大人たちの顔が青ざめる。
「う……うわぁぁぁ!!」
その瞬間――
「やめろ!!」
リオンの叫びと同時に、光が村の入り口全体に広がり、透明な壁となって魔獣を押し返した。
バンッ――!!
魔獣は弾き飛ばされ地面を転がる。
村人たちは呆然とした。
「リ、リオン……?」
「これ……魔法……なのか?」
リオンは深呼吸し、魔獣たちをじっと見据えた。
(俺は……逃げない)
光が再び手のひらに収束し、リオンはゆっくりと前へ出る。
――【創造帯域:完全制御】
魔獣たちは圧に耐え切れず、一目散に森へ逃げていった。
静寂。
村人たちは、リオンを見つめる。
「……助けてくれて、ありがとう」
最初に声を上げたのは鍛冶屋の老人だった。
それがきっかけとなり、他の村人も次々に声をあげる。
「すごい……」
「リオンがいなかったら……」
「本当に、ありがとう……!」
リオンは顔を赤らめた。
(よかった……怖がられなかった……)
ただ、最後列にいた一人だけ、じっとリオンの力を観察するような“鋭い目”をしていた。
(……誰?)
その目は、ただの村人ではない。
リオンはそう感じた。
『村に来た“監視する者” ― リオンの力を観察する影』
村を救ったリオンの力は、
村人たちの信頼を得た。
しかしその裏で、村の外から来た一人の男が
リオンの力を鋭く観察していた。
彼は何者なのか?
そして、その視線が意味するものとは――。




