7歳編・第43話:ガルム討伐戦 ― リオンの中で目覚める“新たな感覚”
爆炎の余波が薄れていく中、アリシアは杖を構えたまま息を整えていた。
「……はぁっ、はぁっ……まだ来る……!」
大地が震える。
ガルムの咆哮が轟き、森の木々が揺れる。
中型魔獣たちも吠えながら隊列を組み直し、アリシアたちを取り囲むように配置を変えた。
リオンは胸を押さえ、必死に呼吸を整えていた。
(さっきの光……暴走しなかった…… AIが抑えてくれたおかげか……)
しかしその奥で、もう一つ異なる気配が蠢いていた。
――【異常:創造核の未承認帯域が活性化】
――【出力変動を検知】
(未承認……?)
――【はい。設定上“封印”されている帯域です】
――【あなたの魔力と精神状態が重なり、制限が一時的に緩んでいます】
(そんな……)
リオンは不安を覚えた。
(何か……怖い…… でも、なぜだろう…… 胸の奥がむずむずする……?)
不意に、ガルムが大地を蹴立てて跳躍した。
「まずいッ!」
アリシアが防御障壁を張るが、ガルムの巨体が叩きつけられた瞬間、バキィッと嫌な音が響いてひびが走る。
「くっ……! もたない……!」
村の大人たちも必死に弓や槍で応戦するが、大型魔獣にはほとんど通らない。
「アリシアさんっ……!」
リオンは飛び出そうとした。
が、AIが即座に制止する。
――【接近は危険】
――【しかし……あなたの魔力は現在、“極めて高い共振状態”にあります】
(共振? それって……)
――【新しい“創造帯域”が開こうとしています】
――【危険ですが、使い方次第で……】
その瞬間。
リオンの視界の端で光がほとばしった。
胸の中心、創造核のあたりがまるで呼吸するように膨らみ、波紋のような光が彼の全身を満たしていく。
(これ……なんだ!?)
――【未承認帯域:“位相シフト補助”】
――【周囲の物質・魔素の“状態”を一時的に書き換える機能】
(そんな……そんなもの、知らない……!)
――【本来は開かないはずの帯域です】
――【あなたの“強い保護欲求”が封印を弱めました】
(俺の……気持ちが?)
アリシアの悲鳴が響く。
「リオン!! 下がって!!」
ガルムの巨体が再び迫る。
大地が裂け、魔獣の影がリオンの小さな身体を覆い尽くす。
「あ……」
怖い。
でも――逃げたくない。
アリシアの背中、村の人たちの震えた足。
守るべきものはここにある。
だから。
リオンは叫んだ。
「やめろぉぉぉぉッ!!」
その声に呼応するように、創造核の光が衝撃波のように膨れ上がった。
――【位相シフト発動:限定範囲】
空気が歪む。
世界がわずかに震える。
ガルムは一瞬だけ動きを止めた。
(止まった……!?)
魔獣の動きが、まるで“硬化”したように鈍化している。
アリシアが目を見開いた。
「リオン……あなた、何を……?」
リオンは自分にも理解できていなかった。
ただ、胸が熱く、指先が光を帯びている。
――【状態変化:魔獣の筋肉密度を一時的に“重化”】
――【行動速度を低下】
(そんなことまで……俺、できるの?)
――【本来は不可能です】
――【ですがあなたの創造核は“規格外”】
ガルムは咆哮し、その重い動きを無理矢理振りほどくように再び暴れ出した。
地面が抉れ、村人たちが後退する。
アリシアが叫ぶ。
「リオン! 離れて!!」
リオンは首を横に振った。
「いやだ! 俺も……守りたい!!」
アリシアはリオンを見て震えた。
怒りでも、恐怖でもない。
――誇り。
「……わかったわ。 一緒に戦いましょう」
リオンの胸がじんと熱くなる。
その瞬間、創造核の光が彼の手のひらへと集まった。
(もう一度……状態を変える!)
――【補助します】
ガルムが再度飛びかかる。
リオンは光を前へ突き出した。
「止まれッ!!」
空気が再び歪む。
――【位相シフト:衝撃吸収】
ガルムの巨体が、見えない膜にぶつかったように減速し、アリシアの魔法陣圏内へと落ちてくる。
アリシアの杖が光る。
「仕留めるわよ!!」
炎が奔り、ガルムの喉元へ突き刺さった。
咆哮が途切れ、魔獣は大地に崩れ落ちた。
静寂。
そして、誰かの息を飲む音。
村人たちはリオンを見つめた。
その眼差しには恐れも混じるが、それ以上に感謝が大きかった。
アリシアはひざまずいて、リオンの肩に手を置いた。
「リオン……ありがとう。 あなたがいたから、皆が助かった」
リオンは胸を抑え、呼吸を荒げながら笑う。
「……よかった。 守れた……」
補助AIが静かに告げた。
――【未承認帯域の使用……終了】
――【あなたの精神負荷が高いため、一時的に閉じられます】
(うん……わかった……)
リオンはそのまま、アリシアの胸へ倒れ込むように寄りかかった。
アリシアは優しく抱きしめた。
「……大丈夫よ。 よく頑張ったわ。もう安全だから」
温かい腕の中で、リオンはゆっくりと意識を手放した。
しかしその背後では、倒れたガルムの体から黒い霧が漏れ出し、森の奥へと吸い込まれていった。
それは、
まだ見ぬ“次なる異変”の前触れだった。
『戦いの余波 ― 村人たちの眼差しと、胸の奥の違和感』
ガルム撃退後、村には安堵と共に緊張が残る。
リオンの“異常な力”を見た大人たちは、
恐れと尊敬の入り混じった視線を向け始める。
一方、創造核の奥では、まだ未解明の機能が
わずかに脈動を続けていた。
そして森の奥では、さらに巨大な影が動き出す――。




