7歳編・第42話:村に異変 ― 迫り来る魔獣の影
夜明け前。
まだ空が藍色の気配を残す静かな時間帯。
リオンは、胸の奥の“微かなざわつき”で目を覚ました。
――【魔素濃度……上昇】
――【外周部に異常反応】
(また……? 昨日と同じ、創造核の反応……?)
体を起こした瞬間、胸の奥で小さな脈打つ光がフッと揺れた。
「……嫌な感じがする」
リオンは小さくつぶやいた。
すると、部屋の外からバタバタと急いだ足音が聞こえる。
――コンコン!
「リオン、起きてる!?」
アリシアの声だ。
ただ事ではない緊張を含んでいた。
「う、うん……今起きた」
扉が勢いよく開く。
アリシアは寝間着のまま、魔力探知器を手にしていた。
「外周の魔傾向が急激に高まってる……
こんな上昇、十年に一度あるかないかよ」
「……魔獣?」
アリシアは眉を寄せて、深く頷いた。
「おそらく。しかも複数体…… 村に向かってきてるんだと思う」
補助AIの声が重なる。
――【危険度レベル3】
――【魔獣群の接近を検知】
――【推奨行動:避難または後衛待機】
(やっぱり……)
アリシアはリオンの肩を掴み、目を覗き込む。
「リオン。外は危険だから……絶対に出てはダメよ?」
リオンはうなずいた。
でも心はざわつく。
(もし……俺の中の“核”が呼び寄せたなら……俺のせいで村が危ないってことになる)
アリシアはリオンの頬に手を添え、柔らかい声で言った。
「大丈夫。守るのは私たち大人の役目よ。 あなたは……安全でいてくれるだけでいい」
リオンの胸が熱くなった。
「……わかった」
アリシアはもう一度頭を撫でて、外へ走り去っていった。
アリシアが去ったあと、リオンは窓から外の様子をのぞいた。
村の大人たちが集まり、武器や防護装備を手にして外周へ向かっていく。
こんな緊迫感、前世でも味わったことはない。
――【魔素密度……12%上昇】
――【魔獣の種類特定……一部は大型】
(大型……!?)
胸の奥がずきりと疼く。
不安が一気に広がる。
(俺のせいなのか……? 昨日“核”を使ったせいで…… 魔獣が反応したのか……?)
補助AIが淡々と答える。
――【確度40%】
――【否定はできない】
(くそ……)
リオンは拳を握りしめた。
でも、アリシアとの約束もある。
(外に出ちゃいけない…… 絶対に)
そう決めて、ベッドの端に座り、深呼吸を繰り返した。
でも。
時間が経つにつれ、外の気配はどんどん不穏になっていく。
怒号。
剣の音。
魔力衝撃の炸裂音。
そして――悲鳴。
リオンは耐えられず立ち上がった。
(やばい…… 村の人がやられる……!)
それでも外へ飛び出そうとした瞬間、
――【待機を推奨】
――【あなたが行けば魔獣の標的になる可能性】
――【戦況を悪化させる危険性】
(でも!)
リオンは歯を食いしばった。
「俺は……守りたいんだ!」
その叫びに、補助AIが一瞬黙る。
そして。
――【……意志確認】
(?)
――【“保護モード”へ移行します】
――【あなたが外に出ても、暴走しないよう制御補助を行います】
(俺を……助けてくれるのか?)
――【……はい】
その返事は、以前より少しだけ柔らかく感じた。
リオンは扉に手をかけ、村の外周へ向かって走りだした。
外に出ると、冷たい風が頬を刺した。
空はまだ薄暗く、森の方向から黒い影が揺れ動いている。
――ガアァァァッ!!
巨大な咆哮。
空気が震え、鳥たちが一斉に飛び立つ。
その影の正体が、夜明けの光に照らされて露わになる。
全長4メートルを超える
灰色の狼型魔獣——ガルム。
その後ろには、中型の魔獣が十数体。
(こんなの……普通じゃない…… やっぱり……昨日の“核”の反応のせいだ)
アリシアが魔力障壁を張りながら叫ぶ。
「リオン!? ダメって言ったじゃない!!」
「ご、ごめん!! でも……俺、何もしないでなんて……!」
アリシアは歯を食いしばった。
怒りというより、心配の色が濃かった。
「……もう。あなたは本当に……」
その瞬間——
ガルムたちが一斉にこちらへ走り出す。
「アリシアさん!!」
アリシアは杖を構え、魔力陣を展開する。
しかし大型のガルムが障壁を叩き割るように突進してくる。
(やばい!!)
リオンの中の創造核が反応した。
――【魔力出力……補助します】
胸の奥が熱く光り、手のひらに光が集まる。
(また……!)
――【大丈夫。制御します】
光は暴走せず、形を保った。
アリシアが驚愕の瞳でリオンを見た。
「その光……まさか……!」
リオンはアリシアの前に立ち、光を放つ。
「うあああああっ!!」
光は細い軌跡を描きながら放たれ、突進してきたガルムの動きを一瞬だけ止めた。
完全に倒したわけじゃない。
でも、アリシアが反撃する時間を生んだ。
「ありがとう、リオン!! ここからは……私が守る!」
アリシアは杖を振り抜き、火属性の高魔力弾をガルムへ叩きつける。
爆炎が巻き起こり、森が揺れる。
リオンは胸を押さえながら、深く息をついた。
(俺……戦っちゃった…… でも…… これしかなかったんだ)
補助AIが告げる。
――【出力制限……成功】
――【暴走率……0%】
(……ありがとう。 本当に……助かった)
――【……あなたの意思が、私を動かしている】
リオンはその言葉を聞きながら、戦場の光景を見つめた。
まだ終わらない。
村の危機は続いている。
でもリオンは、決して逃げないと決めた。
自分自身と向き合うために。
そして——
守りたい人を守るために。
『ガルム討伐戦 ― リオンの中で目覚める“新たな感覚”』
大型魔獣ガルムを中心とする魔獣群との戦闘は激化。
アリシアと村の戦力が押され始める中、
リオンの創造核に“未知の帯域”が突然出現する。
補助AIはそれを「未承認機能」と警告するが――
リオンは不思議なほど恐怖を感じなかった。
その感覚の正体とは。




