7歳編・第41話:第二の声の正体と、創造核の危険性
光が収まり、リオンはゆっくり呼吸を整えた。
アリシアはリオンの肩を掴み、震える声で問いかける。
「本当に……大丈夫なの?」
「うん……たぶん……」
言いながらも、胸の奥に妙な違和感が残っていた。
――【使用者の生命反応……安定】
――【魔力核の稼働率……0.4%】
(……まだいる。 あの“第二の声”が……)
アリシアはリオンの額に手を当てながら言う。
「何が見えたの? 何が聞こえたの?」
リオンは正直に答えた。
「……機械みたいな声がして…… “創造核”とか“補完”とか…… なんか、俺の中のデータを修復するとか……」
アリシアはその言葉で青ざめた。
「創造核……? そんなもの、人の体に存在するはずが……」
リリィも不安そうにリオンに寄り添う。
「お兄ちゃん……こわくない?」
「うん……少しだけ。でも……大丈夫」
リオンは妹の頭を優しく撫でた。
(大丈夫……って言ったけど。 本当は……大丈夫じゃない)
胸の内側に、確かに“別の存在”がひそんでいる感覚がある。
レガリアのときとは違う。
あれは外側から侵入した“魔王の意志”。
でも今のは——
(……内側、俺自身の中にあった何かだ)
アリシアは静かに息を吸った。
「リオン、今日はもう訓練は終わり。 無理をしたら危険だわ」
「うん」
アリシアは何度も何度もリオンの背中を優しく撫でた。
その指先の温かさで、リオンは少しだけ落ち着いた。
夜。
リオンは自室でひとりベッドに座っていた。
(……またあの声が聞こえるかも)
恐怖と好奇心が混じったような感覚。
そして、案の定。
――【使用者、起床状態を確認】
リオンは肩をびくっと震わせた。
(やっぱり……まだいる)
しかし不思議と、その声は“害意”も“暴力性”も感じさせない。
ただ無機質で、事務的で、前世の技術マニュアルがそのまま喋ってるみたいな調子。
リオンは思い切って問いかけた。
(お前……誰なんだ?)
――【質問を確認】
――【回答……開始】
――【私は、“創造核(Core)管理補助AI”】
(……AI!?)
思わず心の中で叫んだ。
補助AIは続ける。
――【使用者の脳内に存在する
複合魔導回路“創造核”の保全を目的として
前使用者が設計した補助プログラム】
(俺が……?
前世で……?)
――【はい】
答えが返ってきた瞬間、リオンの背筋に寒気が走る。
(ちょっと待て…… 俺、前世でAIなんて…… そんな高度なもの作ってない……)
補助AIは淡々と告げる。
――【あなたは“開発途中”で死亡しています】
――【完成していない部分は魔力核起動時に補完されました】
(……開発途中? なんのために?)
少しだけ間があく。
――【レガリアを倒すためです】
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
(……俺は、前世で…… レガリアを倒すための“何か”を……?)
補助AIは続ける。
――【使用者が死亡したため、開発は未完のまま終了】
――【本来なら起動は不可能でした】
――【しかしレガリアの封印時に生じた魔力反応により創造核の“仮起動”が発生しました】
(……つまり?)
――【あなたの中に“レガリアを倒すための未完成の内部装置”が存在しているということです】
リオンは口を押さえた。
(そんな……じゃあ俺は……)
“前世で作りかけた兵器”を体の中に抱えたまま生きているということになる。
補助AIの声は淡々としている。
――【あなたは危険です】
(……は?)
――【不完全な創造核は暴走の可能性があります】
――【レガリア封印時のように魔素に強く反応する性質を持つため】
(暴走……?)
――【はい】
――【もし暴走すれば、あなたも、周囲も死にます】
背筋が凍るような言葉だった。
(俺……そんな危険なものを抱えて…… ずっと普通に暮らしてたってこと?)
――【はい】
(最悪じゃねぇか……)
補助AIは言った。
――【ですが安心してください】
(安心できるか!)
――【私はあなたを守るために存在します】
――【暴走を防ぎ、制御し、必要に応じて機能を停止させることができます】
(……じゃあ、お前は味方か?)
少しだけ、機械的な声が柔らかくなった気がした。
――【はい。私はあなたの補助者です】
リオンは深く息をついた。
(……そうか…… 敵じゃない…… 少なくとも今は)
しかし同時に、背負ったものの大きさに恐怖を覚えた。
(俺の中に……未完成の“創造核”があって…… 暴走したら、村ごと吹っ飛ぶかもしれない…… そんな危険な存在……)
選んだのは――
この世界で静かに生きる未来だったはずなのに。
胸が苦しくなる。
そのとき——
――コンコン。
ノックの音。
「リオン? 起きてる……?」
アリシアの声だった。
リオンは反射的に姿勢を正し、
「うん、入っていいよ」
アリシアがそっと入ってきて、ベッドの横に腰を下ろした。
「さっきは……怖かったでしょ?」
リオンは言えなかった。
自分の中に“核”があることも、暴走すれば危険だということも。
アリシアは優しく微笑んだ。
「大丈夫よ。 あなたは強い子だから。 何があっても、私が絶対に守る」
その言葉に、リオンは胸の奥が熱くなった。
(アリシアがいる…… それだけで……救われる)
補助AIが静かに言う。
――【……あなたは、守られている】
――【だから私は、あなたを守る】
その声は、ほんの少しだけ温かさを帯びていた。
リオンは小さく頷いた。
(……ありがとう。 アリシアも……そして“第二の声”も)
まだ恐怖は消えていない。
創造核の正体も、危険性も、全ては不明のまま。
それでも。
リオンは、自分がひとりじゃないことを知った。
そして――
それこそが、今のリオンにとって
最も大きな救いだった。
『村に異変――魔獣の影は“創造核”の反応か?』
翌朝、村の外周で異常な魔素濃度が検知される。
その現象はレガリアの残滓か、それとも“創造核”が呼び寄せたものか。
アリシアはリオンの安全を最優先しつつ、
村の防衛隊を緊急招集するが――
補助AIは「危険度レベル3」と告げる。
リオンとアリシアに迫る新たな影とは。




