7歳編・第36話:四方向制御 ― 杖が望む成長速度
夜中に創造杖が見せた“青い脈動”は、リオンの体に魔力の流れを刻みつけた。
翌朝。
リオンはベッドに座ったまま、深く息を吐く。
(……四方向制御の“ライン”が分かってしまった……
まだ三方向だって昨日成功したばかりなのに……
これ、絶対に変だよ……)
いままでの成長速度が異常だったことは、リオン自身も理解している。
だが今回の“誘導”は、それを超えていた。
(……まるで杖が“急げ”って言ってるみたいに……)
フェンが布団に潜り込みながら、
「ワフ……?」
と心配そうに見上げてきた。
「大丈夫。ただ……ちょっと嫌な感じがして」
そのとき、ドアが開いた。
「リオン、起きてる? 話があるの」
アリシアだった。
◆初めての“衝突”
リビングに移ると、アリシアは真剣な表情だった。
「リオン……あなた、昨晩“何か”あったでしょう?」
リオンは驚いた。
「なんで分かるの?」
「杖の魔力残滓が家中に残ってるもの。 ……昨日までとは違う波形よ」
アリシアは腕を組み、鋭い瞳で言い放った。
「リオン。 四方向制御に進んじゃダメ」
「え……?」
アリシアの声には、怒りとも恐怖ともつかない震えがあった。
「三方向ができた翌日に四方向?
そんな成長速度、普通じゃない。
……異常よ。
あなたの魔力は“無限”だから、制御が崩れたら村が吹き飛ぶわ」
リオンは思わず言い返す。
「でも……昨夜杖が……“四方向”を刻んできたんだ」
「だからよ。 “杖が勝手にあなたの成長を決めている”の。 危険すぎるわ」
アリシアの声は強かった。
けれど――その奥には“恐れ”があった。
リオンは唇を噛む。
(アリシアは俺を守ろうとしてくれてる…… それは分かる。でも……)
「……でも、アリシア。 止めても……たぶん杖はまた“刻んで”くるよ」
アリシアは目を見開く。
「どういう意味?」
「昨日の夜みたいに。 俺が寝てる間でも、杖は“強制的に”流れを入れてきた。 拒否できなかった……」
アリシアは息を呑んだ。
「じゃあ……杖はあなたを“成長させる”つもりなのね…… 選ばれし継承者として……」
部屋の空気が重く沈む。
リオンも声を落とした。
「アリシア。俺、成長を止められないかもしれない。 だから……一緒に方法を考えてほしい」
アリシアは震える指で額を押さえ、
「……あなたを止めるか、導くか。 そのどちらかしか選べないのね……」
と、小さく呟いた。
そして――
「リオン。 私、あなたを“導く”方を選ぶわ」
と、まっすぐ言った。
リオンは目を見開き、胸が熱くなる。
「アリシア……!」
「だって放っておいたら、もっと危険になる。 だったら私がそばで見て、あなたの魔力を制御するわ。 リオンは私の……大事な友達なんだから」
アリシアは少し照れたように微笑んだ。
(ああ……この子は、本当に優しい……俺のためにここまで言ってくれるんだ……)
リオンは静かに頷いた。
「じゃあアリシア。 四方向制御……付き合ってくれる?」
「もちろんよ。 むしろ、私がいないと危ないわ」
フェンが嬉しそうに跳ねた。
「ワフ!!」
リオンとアリシアは見つめ合い、深く頷き合った。
◆森の奥、四方向制御の訓練開始
その日の午後。
二人はいつもの森へと向かった。
アリシアは魔力測定のための魔石と、安全結界用の符を何枚も持ってきていた。
「リオン、今日は絶対に無茶はしないで。
四方向は三方向の倍以上の複雑さよ。
魔力流路がクロスすると暴発するから」
「うん。慎重にやる」
フェンも緊張した様子で周囲を警戒している。
リオンは深呼吸し、創造杖をゆっくり握る。
(昨夜の流れ……思い出せ……)
杖はすぐに反応した。
青い魔力の粒子が杖先に集まり、リオンの視界に“魔力の道筋”を描き出す。
アリシアが息を呑む。
「やっぱり……杖が完全に“誘導”してる……!」
リオンは、流路の交差点で意識を集中させた。
「いっ……!!」
頭の奥で、鋭い痛みが走る。
アリシアが叫ぶ。
「リオン! 流路が二箇所で逆流してる! 止めて!!」
リオンは必死に魔力を抑え込み、流れを整えていく。
(くそ…… 三方向より格段に難しい…… 流れを四つに分けて、さらに流量を均等に保たないと……!)
だが――
杖が突然、リオンの魔力を“補強”してきた。
アリシアが叫ぶ。
「駄目!! 杖が勝手に魔力を増幅してる!! その速度じゃ身体がもたない!!」
リオンは歯を食いしばる。
(勝手に足すなって!! お前、俺を殺す気なのか!?)
額から汗が流れ、指先が痙攣し始める。
アリシアが結界符を周囲に投げた。
「《安全結界》!!」
青い膜がリオンを包み、魔力暴発を抑える。
同時に、フェンがリオンの足に噛みついて魔力を引いた。
「ワフッ!!」
リオンの暴走魔力が吸われ、流れの均衡が取り戻されていく。
そして――
(……できる……! 四方向が……繋がった!!)
魔力の四つの流れが完全に均等に循環を始めた。
アリシアが信じられないというように呟いた。
「……嘘…… 七歳で……四方向制御を……?」
リオンは杖を掲げたまま、静かに息を吐いた。
(やった……できた……!)
だがその瞬間――
杖が青白い閃光を放つ。
アリシアが叫ぶ。
「リオン!!離して!! それ、“解放段階(フェーズ2)”に入る!!」
杖の魔石が、一瞬だけ黒く点滅した。
まるで“底の底にある別の層”が起動しかけたように。
アリシアは震えながら叫ぶ。
「リオン!! それ以上は危険!! 絶対にその光に触らないで!!!」
リオンは咄嗟に杖を地面に叩きつけた。
光は消え、杖は沈黙した。
リオンは震える息を吐き出す。
(あぶな…… 今の……絶対に普通の魔力じゃなかった…… 深い……暗い……そんな感じがした……)
アリシアは強くリオンを抱きしめた。
「本当に……危なかったのよ…… レガリアの“第二段階”なんて、あなたの体じゃ耐えられない……!」
リオンはその手をそっと握り返し、
「……ごめん。 でも、守ってくれてありがとう」
と、小さく呟いた。
アリシアの手はまだ震えていた。
『レガリアの“第二段階” ― 王家の隠された記録』
四方向制御に成功したが、
創造杖は“第二段階”を起動しようとしていた――
その意味を知るため、アリシアはさらに深い禁書庫へ。
そこで明らかになる
“レガリア継承者の末路”。
王家が隠し続けた恐るべき記録とは……。




