7歳編・第34話:三方向制御 ― 杖が示す“限界”
前日の暴走を乗り越え、二方向制御を成功させた翌日。
リオンは少し緊張しながら、創造杖を握って森の訓練場に立っていた。
アリシアも真剣な表情で見守っている。
フェンは足元で尻尾を揺らしていたが、昨日の暴走を思い出すのか、少し警戒気味だ。
「今日は“三方向制御”に挑むわ」
アリシアの言葉に、リオンはゴクリと唾を飲む。
「……三方向って、そんなに難しい?」
「難しいわ。普通の創造魔法師は、生涯で二方向が限界。三方向操れる魔法師は、歴史に名が残るレベルよ」
「……そ、そんな……」
アリシアはやわらかく微笑む。
「でもあなたなら、必ずできる。無理に魔力を込めるんじゃなくて、“流れの方向”だけを変えるイメージよ」
リオンはゆっくり息を吸った。
(大丈夫……大丈夫……昨日はできたんだ……)
◆三方向への分岐
まず一本の川のように魔素を流す。
それを二本へ。
これはもう昨日経験している。
問題はここから――
二本に分けた流れをさらに三つ目に分岐させる。
(えぇと……水路を三本にする感じ……)
魔素が胸から腕へ流れるイメージをしながら、意識を三点へ向ける。
一本が二本に裂け、その先からさらに枝分かれするように――
「……あ、できてる……!」
微弱ではあるが、確かに流れは三方向へと分かれた。
アリシアの目が大きく見開かれる。
「信じられない……本当に……七歳で……」
リオンは少し得意げに笑おうとした。
――その瞬間。
杖が鳴った。
ピシィィィィッ……!
「えっ!? なんの音!?」
創造杖の木の部分――
その内部に埋め込まれている青い魔石が震え始めた。
アリシアが息を呑み、叫ぶ。
「リオン、魔力を止めて!! 三方向制御に杖が耐えられてない!!」
(やばっ!!)
あわてて魔素の流れを止めようとする――
が、創造杖は意思を持つように、逆に魔力を引き込んでくる。
ゴゴゴゴッ……!
「止まらない……!? なんで勝手に魔力吸ってるのっ!?」
アリシアが顔を青ざめさせる。
「そんな……杖が“反応段階”に入ったの……? この杖はただの古い杖じゃないの……?」
リオンは必死で杖を押さえる。
しかし、杖先が勝手に動き、地面へ向けて魔法陣を描き出した。
◆謎の“三重構造魔方陣”
地面に走る光の線が、渦を巻きながら交差していく。
第一層――青い魔法陣。
第二層――白い魔法陣。
第三層――紋様の刻まれた金色の魔法陣。
アリシアは絶句した。
「三重構造魔方陣……!? これ……王国記録にも残ってないクラスよ……!」
「お、俺どうなるの!? また暴走!? 死ぬの!?」
「わからない……! だけど魔方陣の“性質”からすると…… 攻撃系じゃなくて、補助系……!」
光が杖を通じてリオンの身体へ流れ込む。
ズドォッ……!
足元から全身を貫く震え。
魔素が細胞の隅々へまで染み込んでいく。
リオンは悲鳴を上げそうになったが、不思議なことに痛くはなかった。
ただ、身体が勝手に魔力の流れを記憶していく感覚があった。
(これ……なんだ……? まるで杖が……俺に何か教えてるみたい……)
アリシアが恐る恐る近づき、背中に手を当てる。
「リオン、大丈夫? 痛くない? 苦しくない?」
「う、うん…… なんか……頭の中に……“ライン”が見える……」
「ライン?」
「魔力の流れる道筋…… たぶん……“三方向制御の正しい形”を……杖が教えてくれてる……!」
アリシアは完全に言葉を失った。
「まさか……杖自体に“継承機能”があるなんて…… 創造杖があなたを“本来の使い手”だと認めた……?」
リオンの周囲で三つの魔法陣が重なり、最後に大きく光り――
パァァァァァッ!!
光が静かに収まると、魔方陣は跡形もなく消えていた。
リオンは息を荒げながらも、しっかりと立っていた。
「アリシア…… たぶん……使えると思う……」
「まさか…… もう“三方向制御”を……?」
リオンは創造杖を構え、魔素を流す。
一本が二本に、
二本が三本に。
今度は雑音も揺れもない。
まるで自然な呼吸のように流れていく。
アリシアは震える声で言った。
「すごい……リオン…… “杖があなたに合わせて進化した”んだわ…… 本当に……伝説級の適性……」
リオンは照れくさそうに笑う。
「えへへ……でも、昨日よりは全然楽だよ。 三本って言われても、どうしてか自然にわかる……」
アリシアは深く息をついた。
「よかった……本当に……よかった……」
フェンがリオンに飛びつき、嬉しそうに吠えた。
「ワフワフ!!」
「あはは、フェン、くすぐったいよ!」
その姿にアリシアもようやく笑みを見せた。
「リオン。
三方向制御ができるのなら……
創造魔法の幅は一気に三倍。
もう村の改良どころか……
国の構造すら変えられる可能性があるわ」
リオンは首をかしげる。
「そんな大げさな……」
アリシアは真剣に言った。
「あなたは……そういう存在なのよ。 それを今日、杖が証明したわ」
創造杖が、ふっと微かに光った。
まるで誇らしげに。
『創造杖の“正体” ― 王家が追い求めた遺物』
三方向制御を習得したリオン。
アリシアは杖の異常反応を解析するため、
古い文献を調べ始める。
そこで判明したのは――
「創造杖は、かつて王家が喉から手が出るほど欲した“遺物”」
なぜ村にあったのか?
誰が封印したのか?
杖の歴史が明かされる。




