7歳編・第32話:創造杖の力 ― はじめての制御訓練
夜明け前、森から戻ったリオンは、そっと戸を開けて家に入った。
寝ているはずの家族を起こさないよう、慎重に歩を進めた――つもりだったが。
ゴンッ!
「いたっ!!」
暗闇でタンスの角に足の小指をぶつけ、悶絶するリオン。
(……なんで俺は毎回こうなんだよ……)
すると起きていた母エルナが台所から顔を出す。
「リオン? なんでこんな時間に外へ……って、何その光る杖!?」
しまった、と思った時には遅かった。
創造杖は白く淡い光を放ちながら、リオンの手でまぶしく揺れている。
父ダリウスも起きてきて目を丸くした。
「なんだその杖は……!? こんなもの、村じゃ見たこともないぞ!」
「えっと……これは……その……」
誤魔化す前に、リリィが寝起きでフラフラしながらやってきた。
「おにーちゃん……ひかってる……すごーい……」
リオンは頭をかきながら説明した。
「昨日、森で……なんか試練みたいなのがあって…… この杖をもらったんだ」
両親は一瞬黙り込み、次いで同時に叫んだ。
「試練!?」「森で!?」「夜に!?」「危ないでしょ!!」
そして――
家族総出で説教が始まった。
リオンは頭を下げながら、どうにか“試練”の部分だけは誤魔化した。
創造核のことも、世界の敵のことも言えない。
エルナは大きくため息をつく。
「はぁ……もう少し大きくなるまで夜の森は禁止よ」
「ごめん……」
ダリウスは杖を見つめて言った。
「その杖……どう見てもただの魔道具じゃないな。 アリシアさんにも見てもらったほうが良いかもしれない」
リオンは頷いた。
(そうだ……アリシアならきっとわかる)
◆翌朝 ― アリシアの驚愕
アリシアは杖をまじまじと見つめていた。
表情は“驚愕”を通り越して、完全に固まっていた。
「……リオン……これ、本当に……自分で?」
「う、うん……」
アリシアは額に手を当て小さく呟く。
「信じられない……これ、魔術学院の教師でも一生に一度見るかどうかの…… “創造杖”よ……」
「えっ、これそんなにすごいの?」
「すごいなんてもんじゃないわ。
魔素を無限に吸収・変換して保持する“創造核”を持つ者だけが扱える……
伝説クラスの魔具よ。
七歳の子が持つものじゃない……!」
アリシアの動揺は隠せなかった。
そして、表情を引き締めながら言った。
「リオン。今日からしばらく、“魔力の制御訓練”をしましょう。 あなた……今のままだと危険すぎるわ」
「危険……?」
アリシアは深いため息をついた。
「昨日の焼却跡を見たの。 あなた、完全に魔素を暴発させてたわ」
「あ……あれは……っ」
「言い訳しない!」
リオンが肩を落としていると、フェンが慰めるように頭を擦りつけてきた。
アリシアは苦笑しつつも、優しい声で言った。
「怒ってるわけじゃないの。
ただ……あなたの魔力量は桁違いなのよ。
制御できなければ、いずれ自分が傷つくわ」
(そうだ……昨日の影との戦いでも、危なかった……)
リオンは真剣な表情で頷いた。
「……わかった。やるよ。 ちゃんと制御できるようになりたい」
アリシアは満足げに微笑んだ。
「よし、それじゃあ始めましょう」
◆魔力制御訓練 ― まずは“魔素視”
訓練場となった野原で、アリシアはリオンに向き直る。
「まず最初に教えるのは“魔素視”。 自分の魔力と外の魔素がどう流れているか“視る”訓練よ」
「見るの……?」
「正確には“感じ取る”に近いわ。 目を閉じて、自分の中の魔素がどんな形で動いているか意識してごらん」
リオンは深呼吸して目を閉じる。
胸の創造核が温かく脈を打ち、全身に魔素が巡る感覚が広がる。
(……なんだろう、いつもより……はっきり流れがわかる……)
核から生まれた光が、身体の中心を通り、手足へと流れていく。
アリシアがそっと問いかける。
「どう? 流れは感じられる?」
「うん……すごくよく見える。 体の中に光の川が流れてるみたい」
アリシアの眉がわずかに上がる。
「やっぱり……常人とは違うわね」
◆創造杖の“本当の意味”
アリシアは杖を指さした。
「次はその杖を使って“魔力の出口”を整えるわ」
「出口……?」
「魔法っていうのは、魔素を体の中で循環させて、外へ出すことで発動するの。
でもあなたの場合、魔素の量が多すぎて……
出口が全部“洪水状態”なのよ」
リオンは少しだけ青ざめた。
「……昨日の爆発って……」
「ええ。言ってしまえば、“魔素が勝手にあふれて暴発した”だけ」
(ただの暴発であんな威力……!?)
アリシアは真剣に言う。
「創造杖はね、“魔力の出口を整え、形を与える道具”なの。
あなたの場合、杖がないと魔素が制御できずに暴走する可能性が高いわ」
「そ、そんなに?」
「あなたの魔素量は…… 大人の上級魔術師の百倍以上よ」
リオンは完全に固まった。
フェンまで驚いた顔でリオンを見た。
(え、俺そんなに危ないの……!?)
アリシアは柔らかく微笑んで言った。
「でも心配しないで。 杖があればちゃんと制御できる。 一緒に練習しましょう」
リオンは気を引き締め、杖を構えた。
◆初めての“制御成功”
アリシアは言った。
「まずは、魔力を少しだけ杖に流して。 “光球”を作るの」
リオンは集中し、魔素を少しだけ……のつもりで流した。
しかし杖先が突然――
ボゥッ!!!
巨大な光球が現れ、頭上へポーンと跳ね上がった。
アリシアが叫ぶ。
「リオン!流しすぎ!!」
「うわあああっ止まってぇぇぇ!!」
光球は空中で暴れ回り、フェンが慌てて飛び退く。
リオンは必死に魔力を絞るようにして、光球を小さくしようとする。
「おさまれ……おさまれぇぇ!!」
光球はふよふよと震え、
そして——
しゅん。
ピンポン玉ほどの大きさになって杖先に戻った。
アリシアが目を見開く。
「……成功した……!? あれだけ暴れた光を抑え込んで…… 七歳で……?」
リオンは膝に手をつき、息を整えた。
「はぁ……はぁ…… できた……かな……?」
フェンが尻尾を振って近づき、小さな光球をつつくようにして鳴いた。
(よかった……少しは成長できた……)
アリシアは誇らしげに微笑む。
「……おめでとう、リオン。 あなた、ちゃんと制御できてるわ。 これが——第一歩よ」
リオンは胸の創造核の温かさを感じながら頷いた。
(もっと強くなる…… 誰も傷つけないように、みんなを守れるように……)
その決意は、小さな光球と同じ優しい光を宿していた。
『魔素の流れ ― 杖と核の“共鳴”』
創造杖を得たリオンは、
次の段階として“魔素の流れを複数に分ける技術”
《多重制御》に挑むことに。
しかし創造核の影響で、
流れを分けた瞬間、
リオンの魔力は“常識外れの現象”を引き起こしてしまい——?




