7歳編・第31話:浮かぶ試練 ― 新生の種子が示すもの
森の浄化を終えて家に戻った夜。
リオンは布団に入りながら、手の中の“光の種子”を見つめていた。
昼間と変わらず淡く光ってはいるが——
どこか落ち着かない脈動を繰り返している。
沙月は隣の布団で眠りにつきながら、目をこすりつつ呟いた。
「……リオン……その光……まだドキドキしてる……?」
「うん。でも……怖くはないよ。」
本当は少し怖かった。
だけど——
胸の奥にある創造核も、種子と同じリズムで脈打つ。
(まるで、何かを“待ってる”みたいだ)
そのとき。
種子がふっと明るさを増し、リオンの手の上で浮かび上がった。
「っ……!」
小さな星のように、部屋全体を照らす柔らかな光。
沙月が半分寝ぼけながら目を丸くする。
「わぁ……きれい……」
だが次の瞬間——
光が線になって伸び、窓の外へすーっと消えていった。
まるで“案内する”かのように。
リオンは起き上がり、そっと窓辺へ歩み寄る。
外を見ると——
光の線が森の奥へ続いていた。
リオンにだけ見える“光の道”。
(……また森へ?)
沙月が心配そうに袖を掴んだ。
「……行っちゃうの……?」
「大丈夫。すぐ戻るよ。」
沙月の頭を優しく撫で、リオンは小さな声で言った。
「あの種子、俺に“示してる”んだ。……行かなきゃダメな気がする。」
沙月はぎゅっと布団を握りしめながらも微かに頷いた。
「……気をつけて……」
そしてリオンはフェンを連れて静かに家を出た。
◆森の中に浮かぶ“光の道”
夜の森は本来なら真っ暗だ。
しかしこの夜は違った。
光の道が一本、地表すれすれを走り、森の奥へと続いている。
リオンが歩くたびに、道が優しく脈動し、導くように輝く。
フェンは耳を立てながらリオンの横を歩いた。
「……フェンも見えてる?」
フェンは短く鳴いて頷くように尻尾を振った。
(フェンにも見えてる……シエラの言った“守護種”だからか……)
光の道は森の深部へと伸び、昼間に浄化した場所とは別の方角へ向いていた。
一定距離を進むと—
森の中心ほどではないが、魔素がわずかに揺れている場所へ着いた。
そこには古い石造りの祠のようなものがあり、中央に丸い“台座”があった。
リオンが近づくと、光の種子が自ら台座の上へ乗った。
そして——
祠全体が淡い光に包まれた。
「……試練を……受けますか……?」
不気味ではなく、暖かく優しい声が頭の中に響いた。
(試練……?)
リオンはごくりと喉を鳴らしながらも言った。
「……受けます。」
祠の光が強まり——
リオンの視界が白に染まった。
◆光の空間 ― 創造核の声
気がつくとリオンは、白い霧の中に立っていた。
足元も、空も、どこまでも白。
ただ、胸の創造核だけが強く脈動している。
「……ここは……?」
すると、空間に“声”が響いた。
『継承者よ。ここは“核界”。創造核と同調するための場所だ』
「……誰?」
『我は創造核の意志の一部。お前の成長を助けるために存在するもの』
声は静かで、落ち着いた響きだった。
(創造核……俺の中の……?)
『リオン。お前は覚醒したが、まだ力を扱えていない。このままでは“世界の敵”には勝てぬ』
シエラの言葉が蘇る。
「……俺、もっと強くならないといけないんだ。みんなを守るために……」
『その意志、確かに受け取った。ならば——“力を引き出す試練”を与えよう』
白い霧が形を成し始める。
霧の奥から、リオンと同じサイズの“影”が姿を現した。
全身が黒い霧でできているが、目だけが赤く光っている。
それは——
まるで“もう一人のリオン”のようだった。
リオンが呟いた。
「……俺……?」
『これは“内なる未熟”の象徴。己の弱さに勝てぬ者に創造はできぬ』
影のリオンが杖を構えた。
その瞬間、影の周囲の魔素が揺れた。
(魔法……使ってくる……!)
フェンが吠える。
本来なら入れないはずの核界に、フェンの意志がリオンと共鳴して入り込んだのだ。
影のリオンが魔素を凝縮し、鋭い風刃を飛ばしてきた。
「——っ!」
リオンとフェンは同時に飛び退く。
(すごい力……! 俺と同じ……いや、俺以上……!?)
影のリオンの動きは俊敏で、魔法の制御も完璧だ。
リオンが焦る間にも、次の風刃が幾つも飛んでくる。
フェンがリオンを庇うように前に出た。
「フェン!危ない!」
風刃がフェンの体をかすめ、青い光が散る。
フェンは痛みに唸りながらも立ち上がった。
(フェン……! 守ってくれて……)
影のリオンは静かに言う。
「弱いままでは……守れない」
その声は、リオン自身の“心の声”のようだった。
胸の創造核が強く脈打った。
——守るために強くなりたい。
——誰も傷つけたくない。
リオンは拳を握り、自分に言い聞かせる。
「……逃げない。 俺は……強くなるんだ」
創造核が光り、リオンの周囲に薄い膜のようなものが広がる。
影のリオンが再び風刃を構えるが——
今度はリオンが前へ踏み込んだ。
「うおおおおっ!!」
影と風刃がぶつかった瞬間、光が弾けた。
◆試練の終わりと“新しい力”
気がつくと、白い霧は晴れ、影のリオンは溶けるように崩れていた。
声が再び響く。
『よく耐えた、継承者。未熟に打ち勝ったわけではないが、“向き合う意志”を示した』
リオンは息を整えながら頷いた。
「……これで、俺……強くなれたの?」
『力の一端を解放しよう』
胸の創造核が眩く光り、リオンの体を優しい温もりが包む。
光が収まると——
リオンの手には見慣れた杖があったが、先端に“白い宝珠”が加わっていた。
アリシアの杖とも、通常の魔法杖とも違う。
『“創造杖”。 創造核を持つ者だけが使える杖だ』
リオンは目を大きく開いた。
(俺だけの……杖……!)
『これで、今までよりも魔素を正しく扱える。
ただし——決して驕るな。
試練はまだ序章にすぎぬ』
そして声は消え、視界は再び白に包まれ——
リオンは祠の前に戻っていた。
手には、確かに“創造杖”が握られている。
フェンが嬉しそうに跳びついてきた。
「ただいま、フェン。 ……俺、少しは強くなれたよな?」
フェンは大きく頷くように鳴いた。
リオンは夜空を見上げる。
(シエラが言ってた“世界の敵”……その時が来ても、絶対守れるように……もっと強くならないと)
夜風が静かに吹き、祠の光はゆっくりと消えていった。
新しい力と覚悟を胸に、リオンは家へと戻っていった。
『創造杖の力 ― 初めての制御訓練』
リオンが持ち帰った創造杖に、アリシアと家族は驚愕する。
そして翌日、アリシアが“魔力制御訓練”を提案。
しかし創造核の影響で、
リオンの魔法は“普通では扱えない”ことが判明し——?




