7歳編・第27話:帰還 ― 村が迎えた変化
夕日が森の端に沈み始め、リオンたちはようやく村の入り口へ戻ってきた。
鳥たちが巣へ帰り、小さな虫たちが夜の準備を始める——
そんな穏やかな時間帯。
しかし、その静けさとは裏腹に、村の広場には人が集まり、妙な緊張が漂っていた。
アリシアが歩みを止めて眉をひそめる。
「……様子がおかしいわね」
沙月も首を傾げる。
「なんか、ざわざわしてる」
リオンは胸の奥に小さな違和感を覚えながら、フェンを抱き上げて歩き出した。
◆村の騒ぎ
広場に近づくと、村人たちの声が聞こえてきた。
「塔の光はなんだったんだ……?」
「まさか、魔物が暴れ出したのか?」
「いや、あれは……どこか神々しい光だった」
子どもたちは不安で泣きそうになっており、大人たちは武器を手に、周囲を警戒している。
リオンの家の前には、エルナとダリウスの姿があった。
二人とも心配で顔を強張らせていたが、リオンたちの姿を見つけた瞬間——
「リオン!!」
エルナが走り寄り、そのままリオンを抱きしめた。
「心配したのよ……! 塔から光が溢れて……あなたが巻き込まれたんじゃないかって……!」
ダリウスも胸を撫で下ろしながら近づいてくる。
「無事でよかった。本当に心配したんだぞ」
リオンは少し照れながら、しかししっかりと言った。
「ごめんなさい。でも、みんな無事だよ。……それに、新しい友達もできた」
抱えていたフェンが
「キュウ!」と元気に鳴く。
エルナ:「……え? その子、なに……?」
ダリウス:「ま、まさか魔物じゃ……」
アリシアが前に出て説明する。
「大丈夫、この子は魔物じゃありません。聖獣の幼体……“子聖獣”です。リオンに懐いているだけで、危険はありません」
村人たちがざわめいた。
「聖獣だって……?」
「なんでそんな存在が村に……?」
沙月が胸を張って宣言する。
「リオンが“選ばれた”からだよ!」
リオンは慌てて口を押さえる。
「ちょっと沙月!? そんな大げさな……」
だがアリシアは頷く。
「いいえ、あながち間違いじゃないわ。塔が反応したのも、聖獣が現れたのも、すべてリオンの覚醒が関係しているもの」
ダリウスは信じられないという顔で息を呑む。
「…………お前まさか、本当に“覚醒”したのか?」
リオンは一歩進み、素直に答えた。
「うん。塔の奥で……すごく大事なものを見つけた。自分の力の“核”みたいなものを」
エルナは息子を抱きしめたまま、少し震える声で言った。
「……あの塔はね、昔から“選ばれた子どもだけが入れる”って言われてるの。
リオン、あなたは……本当に選ばれたの?」
リオンは静かに頷いた。
「……たぶん、そうなんだと思う」
エルナの瞳に、不安と誇りが混じったような光が揺れる。
◆村長の登場
そのとき——
重々しい足音が近づいてきた。
村長のベルンハルトだ。
屈強な体に豪快な髭を持つ男で、村のまとめ役として頼られる存在。
「……話は聞かせてもらったぞ」
村人たちのざわめきがやむ。
ベルンハルトはリオンの前に立ち、真剣な眼差しを向けた。
「リオン、お前……塔で何を見た?」
リオンは迷いながらも、できる範囲で正直に話した。
塔に入ったこと
内部の変化
試練のこと
そして覚醒した“創造の核”の気配——
ただし“未来の知識”や“創造神の記憶”などは当然伏せている。
ベルンハルト:「……ほう。塔は、お前の覚醒に呼応して変化したと?」
アリシア:「はい。嘘ではありません。私が証人になります」
沙月も両手を上げて元気よく言う。
「ぼくも証人です!」
フェン:「キュウ!」
ベルンハルトは長い沈黙ののち、重く頷いた。
「……リオン。
お前は確かに“選ばれた者”だ。
この村にとって、いや、この森全体にとって重要な存在だろう」
村人たちの間にさらにざわめきが走る。
「す、すごい子だったのか……」
「今まで普通に畑で走り回ってたのに……」
「これから村はどうなるんだ……?」
ベルンハルトは手を挙げて静かにさせると、朗々と言った。
「——だが。
リオンはまだ“七歳の子ども”だ。
必要以上に騒ぎ立ててはならん。
守るべきは……この子の平穏だろう」
その言葉に、村の空気が変わる。
エルナは涙を浮かべ、ダリウスは深く頭を下げた。
「ありがとうございます……村長さん……」
ベルンハルトはリオンの頭を大きな手でぐしゃぐしゃと撫でた。
「よし、リオン。お前が何者であろうと、ワシらはお前の味方だ。それだけは忘れるな」
リオンは胸が温かくなるのを感じた。
(……よかった。“覚醒したから疎まれる”みたいな未来じゃなくて)
沙月がにっこり笑う。
「リオン、よかったね!」
アリシアも柔らかな眼差しで言う。
「あなたは……もう一人じゃないわ」
リオンはみんなの顔を見渡し、自然と笑みがこぼれた。
「うん。ありがとう、みんな」
◆そして夜へ
騒ぎがおさまり、村人たちが家へ戻っていく。
リオンの家では夕食の支度が進んでいた。
暖かな灯り、
楽しい匂い、
久しぶりの“普通の夜”。
フェンはテーブルの下で丸くなり、沙月はその毛を撫でて喜んでいる。
アリシアは暖炉に火を入れながら言う。
「……明日から、忙しくなるわよ。リオンの覚醒が村に影響したのは事実だもの」
リオンは水を飲みながら答える。
「うん、わかってる。でも、やるよ。俺……みんなを守りたい」
エルナとダリウスは微笑み合い、息子の成長を感じていた。
その夜。
リオンは久々にぐっすり眠り、創造核の光に包まれながら
新たな一歩を踏み出す準備を整えていった。
『村の異変と“見えない影”』
塔の覚醒と同時に、村の周辺に奇妙な現象が発生。
そして、リオンたちは知らぬところで
“ある者”が動き始めていた。




