7歳編・第26話:塔を出る三人 ― 再び村へ
塔の最深部での覚醒が終わり、白銀の光が落ち着きを取り戻すと、三人はゆっくりと来た道を戻り始めた。
だが、塔の内部は来たときと全く違っていた。
壁に刻まれた紋様は柔らかく揺らぎ、三人が通るたびに淡い光が足元を照らす。
「……こんなに明るかったっけ?」
沙月が目を丸くする。
アリシアは壁に手を触れ、その感触の変化に気づいた。
「変わったのよ。リオンの覚醒に合わせて、塔そのものが再構築されたんだわ」
リオンは胸に手を当てる。
(塔が……俺に呼応している……まるで生きているみたいだ)
創造核が完全に覚醒したことで、塔は“創造主の加護が復活した聖域”に戻ったのだ。
◆塔の出口
回廊を進んでいくうちに、風の匂いが混じるようになった。
「出口だ……!」
光の扉がゆっくりと開き、三人は外の光景へと踏み出す。
外は夕暮れだった。
帰ってきた時間は、出発した時からほとんど変わっていない。
だが――空気が違っていた。
鳥の鳴き声、草木の揺れる音、森の魔素の流れまで……
すべてが以前より澄んでいる。
アリシアは周囲の気配に眉を上げた。
「……魔素が安定してる。塔の再構築が森にも影響したのね」
リオンは空を見上げた。
胸の奥で創造核が静かに脈打つ。
(俺が覚醒したことで、この世界は少しだけ良くなった……?)
沙月はにこっと笑う。
「リオン、世界を変えちゃったね!」
「いやいや、そんな……大げさだよ」
リオンは耳まで赤くなって、慌てて否定した。
アリシアは微笑んで、そっとリオンの背中を押す。
「でも……本当のことよ。 あなたの力は、この森にも、村にも、もっともっと影響を与えるわ」
リオンは頬を掻きながら、前世の自分とは違う“照れくささ”に戸惑った。
(誰かに褒められて……素直に嬉しいなんて……前世じゃ考えられなかったな)
◆塔の外の異変
塔から離れてしばらく歩くと、アリシアが立ち止まった。
「……何かいる」
沙月も耳を澄ます。
「気配……するね。でも、怖くはない気がする」
リオンはゆっくりと目を閉じた。
覚醒した創造核は、森の魔物の気配までも“色”として感じ取れる。
そこにあったのは――
攻撃性のない、柔らかい気配。
「……来るよ」
茂みが揺れた。
影がひとつ、まるで子犬のように跳ねながら飛び出す。
「――キュウッ!」
淡い青い毛並み、透き通った瞳、背中に小さな角。
アリシアが驚く。
「まさか……聖獣の子供……?」
沙月は目を輝かせる。
「かわいいっ!!」
子聖獣はまっすぐリオンに向かって駆け寄り、服の裾をくいっと噛んだ。
リオンの体から発せられる創造核の気配に反応し、まるで“親”を見つけたかのように懐いている。
「え、あの……ちょっと……?」
「リオン、その子……あなたを気に入ってるみたいね」
アリシアが微笑むと、子聖獣はリオンの足元にぺたんと座った。
(そういえば……16歳で森の聖獣と友達になるはずだったけど……これは前倒しってこと?)
リオンの戸惑いをよそに、子聖獣は尻尾をぱたぱた揺らし続ける。
沙月は興奮しながら言った。
「ねぇねぇ、名前つけようよ!」
「ええぇ!? そんな急に!?」
アリシアも笑いながら提案する。
「ふふ、覚醒の証としてちょうどいいんじゃない?」
三人に見つめられて、リオンは観念したようにしゃがみ込み、子聖獣の頭にそっと手を置いた。
「……じゃあ……“フェン”って名前はどうかな」
「キュウッ!!」
フェンは嬉しそうに跳ねる。
沙月が歓声をあげる。
「いい名前だよリオン! フェン、かわいい〜!」
アリシアも頷く。
「うん、しっくりくるわ」
リオンは苦笑した。
(……なんだか……本当に家族が増えたみたいだな)
◆村へ向けて
一段と日が傾き始め、オレンジ色の光が森を染めていく。
そろそろ村へ戻らないと、母エルナと父ダリウスが心配する時間だ。
「よし、そろそろ戻ろう。フェン、ついておいで」
「キュウ!」
フェンはうれしそうにリオンの後をついてくる。
アリシアが言う。
「村の人たち、驚くでしょうね。
塔に入っただけでも珍しいのに……
まさか“覚醒”して帰ってくるとは思わないわ」
沙月も笑う。
「リオンはすごいからね!」
リオンは思わず照れながらも、前を向いて歩いた。
(帰ったら……
あのごはん食べながら家族で笑い合って……
明日からの村の生活も、また変わっていくんだろうな)
胸の奥で創造核の鼓動が、穏やかな心地よさを残している。
風も、森の音も、すべてが柔らかく聞こえた。
――こうして三人と一匹は、塔での試練を終えて、新たな力と共に村への道を歩き始めた。
そして、彼らを遠くから見つめる“影”があったことに、まだ誰も気づいていなかった。
『帰還 ― 村が迎えた変化』
覚醒したリオンが村へ戻る。
家族の反応、村の変化、
そして……外から迫る新たな気配。




