7歳編・第22話:継承の間 ― 目覚める創造核
白い扉を抜けた瞬間、リオンの視界はまぶしい光に包まれた。
風が吹きぬける。
だが、それは氷の冷たさでも、炎の熱でもなく――
**“存在そのものを揺さぶる風”**だった。
(ここは……?)
目を開くと、そこには――
どこまでも広がる真っ白な空間があった。
上下の感覚も曖昧で、地面らしき場所も、天井もない。
ただ、淡い光の粒子が舞い続けている。
《ここが“継承の間”です》
守護知性体の声が四方から響いた。
その姿は見えないが、声は確かにリオンを包んでいる。
「継承……。 何を継ぐんだ?」
《あなたの内にある“創造核”を本来の状態に近づけるための儀式です》
リオンは胸に手を当てた。
トン……トン……
そこには確かに“鼓動”がある。
心臓とは別の、光の核のような響き。
(俺が……創造主の欠片……ほんの一部でも、そんな力があるなら……ちゃんと向き合わないと)
リオンは深く息を吸った。
「儀式って……痛いとか、そういうやつ?」
《痛みは伴います。しかし、失われた自分を取り戻すためのもの》
「……やるよ。前に進むためなら」
その時だった。
世界が震えた。
白い空間が歪み、床のような場所に巨大な“円環の陣”が浮かび上がる。
直径は数十メートル。
複雑な紋様が刻まれ、それがゆっくりと回転している。
《中央へ進んでください》
リオンは歩き出した。
一歩。
また一歩。
歩くたびに、陣が共鳴して光が強まる。
(不思議……怖さはあるけど……でも、どこか懐かしい……)
ついに中央にたどり着いた。
その瞬間――
ガァァン!!
光が爆ぜ、リオンの体が宙に浮いた。
「う……っ!」
胸の奥が焼けるように熱い。
《創造核、覚醒工程開始……》
冷静な声が響く。
《欠片の共鳴度、上昇。記憶結合率、12%……20%……》
(記憶……? まだ返ってくるのか……?)
頭が割れそうな痛みが走る。
視界が白と黒で乱れ、前世の断片が一気に押し寄せてきた。
夜中のオフィス。
光らないモニター。
エラーの嵐。
鳴り止まない電話。
止まらない残業。
机に突っ伏して眠る自分。
家族連れの幸せそうな笑顔を眺めて
ふと胸が痛んだ日の記憶。
そして――
子供をかばって走り出す最後の瞬間。
(ああ……俺は……孤独だったんだ……)
涙が一筋こぼれた。
《記憶結合率、40%……60%……》
胸の奥で光が炸裂する。
ドクンッ!!
ドクンッ!!
「ぐ……っ! あああああ!!」
叫んでも痛みは止まらない。
脳が焼けるような感覚。
心臓とは別の鼓動が暴れだす。
《創造核が完全覚醒を拒否しています》
守護知性体の声に焦りが混じる。
《原因……“自己否定”……!》
リオンは崩れ落ちるように体を丸めた。
(俺は…… 俺なんかが…… そんな力、持っていいのか……?)
自分の存在を消したいと思っていた過去。
前世で誰にも必要とされなかった時間。
それらが胸を刺す。
《創造核は、持ち主の心を映します。
あなたが自分を否定する限り……
力は暴走し、あなたを蝕む》
光が暴れ、円環がひび割れる。
「うっ……あああああ!!」
白い世界が崩れ始めた。
《リオン!! 聞こえますか!?》
声がした。
この空間では聞こえないはずの――
沙月の声。
『りおん!! 戻ってきて!! おねがいっ……! ひとりにしないで……!』
次に、アリシアの声。
『あなたはもう“ひとり”じゃない! 私たちがいる! だから……戻ってきなさい!!』
リオンの視界に二人の姿が映った気がした。
扉の前で必死に叫ぶ姿が。
胸が熱くなる。
(……俺は……もう……独りじゃない……)
涙がこぼれた。
(俺を待ってくれる人がいる。必要としてくれる人がいる…… だったら……!)
リオンは空に向かって叫んだ。
「俺は……生きたい!!
この世界で……誰かを救いたい!!
前世でできなかったことを……
全部やり直したい!!
だから……!!」
胸に手を当てる。
「創造核!! 俺の力になれえぇぇぇぇ!!」
その瞬間。
世界が――静かに止まった。
胸の奥で光が爆ぜる。
《自己否定、解消。創造核、安定化》
静かな声が告げる。
《継承工程、再開》
白い空間が一気に輝き、リオンの全身に柔らかな光が満ちた。
痛みは消え、代わりに“温かい感覚”が胸に広がる。
光が収まり、リオンはゆっくりと地に降り立った。
胸の奥で、静かに新しい鼓動が響く。
トン……トン……
日常の鼓動ではない。
けれど、心地よく、温かく、強い。
これは――
“創造主の欠片”としての鼓動。
守護知性体が姿を現した。
《おめでとうございます。あなたの創造核は安定しました》
「……俺、どうなったんだ?」
《あなたは創造主にはなれません。
しかし――
創造主の“意思と力のごく一部”を受け継ぎました》
リオンは胸に手を置いた。
(これが……俺の力……)
守護知性体は続ける。
《あなたには、“構築”“保護”“再生”の力が備わっています》
「……難しいけど……つまり?」
《あなたは“世界を修復する力”を手に入れたのです》
リオンの目が輝いた。
(世界を……守る……俺にもそんなことが……)
守護知性体は微笑む。
《さあ、戻りなさい。あなたを待つ者がいます》
白い空間に扉が現れた。
リオンは深く息を吸い、扉へ歩き出した。
(沙月……アリシア……
待ってて。
もう迷わない。
もう自分を否定しない。
俺はこの世界で……生きる)
光の扉が開き、リオンは現実へと戻っていった。
『再会 ― 扉の向こうの約束』
扉が開き、戻ってきたリオン。
その姿を誰よりも先に抱きしめたのは――。




