7歳編・第21話:創造主の遺産 ― 失われた記憶
光が消え、世界が一瞬だけ静止した。
リオンは、深い水の底へ沈むような感覚に包まれた。
(……ここは……?)
足元には何もなく、ただ柔らかな光がゆらめいている。
自分が空気の中にいるのか、水中にいるのか、それすらも曖昧だった。
すると――
ザァァァ……
周囲の光がゆっくりとかたちを成しはじめた。
あらわれたのは、巨大な書庫のような空間だった。
天井は見えないほど高く、壁一面に光の本が並んでいる。
しかしページは風にめくられるようにひとりでに動き、どれも文字ではなく“光の粒子”でできていた。
(ここは……図書館……? いや……もっと違う……)
次の瞬間、声が響く。
《記憶保管領域へようこそ》
振り返ると、そこには“光の人影”が立っていた。
体の境界が揺らめき、性別すら曖昧な存在。
だが、声はどこか穏やかで、優しい。
「君は……誰?」
リオンが問うと、光の人影は答えた。
《私は、この塔の“守護知性体”。 創造主が残した記憶の管理者》
(創造主……またその言葉……)
「創造主って……誰のこと?」
光の人影は静かにリオンへ近づいた。
《あなたの“前の世界”の言葉で言えば―― “神の一部”》
(か、神……!?)
思考が止まりかけたが、守護知性体はさらに言葉を重ねる。
《創造主は、万物を生み出す力を持つ存在。
その力は、世界を造り、世界を壊す。均衡の中心となる力》
そして、
《あなたの体内には、その“欠片”が宿っている》
リオンの胸が熱く跳ねた。
(俺が……創造主の欠片……?)
「でも……俺は普通の人間だったはず。ただの……会社員で……」
守護知性体は首を横に振る。
《あなたが前世で持っていた“創造の才”――
プログラムを組み、システムを構築し、世界の基盤を作るその能力》
《それは偶然ではありません》
《あなたは前世でも、“創造核の断片”を持っていた》
リオンの目が見開かれた。
(じゃあ……もしかして……俺が作ったシステムが消えたのも……)
守護知性体はうなずいた。
《あなたの死と同時に、現世であなたが“触れたもの”が反応しました。
あなたの願い――“自分の存在を消す”という願いに従い、
創造核が世界からあなたの軌跡を消し去ったのです》
(……全部……俺のせい……)
胸が締めつけられた。
家族のため。
子供を守るため。
ただそれだけを願ったはずなのに――
(現世に……どれだけ迷惑をかけたんだ……俺……)
守護知性体は淡く光った。
《悔やむ必要はありません。
あなたの選択は、この世界に“恩恵”として届いています》
「恩恵……?」
《あなたの創造核がこちらの世界に転移したことで、この世界は“滅びの未来”から外れたのです》
(滅び……?)
守護知性体は空間に手を向けた。
すると――
光の本棚が揺れ、巨大な映像が現れた。
それは、崩れていく大地。
飲み込まれる空。
黒い渦に覆われた世界。
「な……に……これ……!」
《本来の未来。魔素の暴走により、この世界は百年以内に消滅する》
リオンは喉が乾いたように息を飲んだ。
《しかし、あなたの“核”がこの世界に来たことで、均衡が保たれた。
滅びの未来は数百年、いえ……あなたの行動次第では“消滅”します》
(消滅……つまり俺が動けば……この世界は救える……?)
胸の奥の創造核が強く脈打った。
トンッ……
トンッ……!!
守護知性体が言う。
《あなたは、創造主の力を完全に受け継ぐことはできません。
ですが――
“創造主の意思を継ぐ可能性”を持っています》
リオンは拳を握った。
(俺に……そんな力があるのなら……
前世でできなかった“誰かを救う”を……
この世界で……)
すると光の書が一冊、リオンの前に降りてきた。
守護知性体が静かに告げる。
《これより――あなたの記憶をひとつ返します》
「記憶……?」
ページが開かれる――
その瞬間、リオンの頭に激痛が走った。
「う、ぐ……っ……!」
《耐えてください。これはあなたが“封じた”記憶》
映像が脳裏に流れ込む。
黒い雨の降る街。
夜の道路。
泣きながら助けを求める子供。
そして――
自分がその子を突き飛ばし、迫り来るトラックの前に立つ姿。
(……あの日……!)
バキンッ!
胸の奥で何かが砕ける音がした。
守護知性体の声が静かに響く。
《あなたの勇気が、一つの命を救った。創造主の欠片は、その行動を“正しき選択”と判断した》
リオンの目に涙があふれた。
「でも……俺は……消えたかっただけで……勇気なんて……!」
《いいえ。あなたは誰かを救うために、自分を差し出した》
光の人影は優しくリオンの肩に触れる。
《その魂の在り方こそ――創造主の“欠片”にふさわしい》
リオンは涙を拭った。
(……俺は……この世界で……自分にできることをやりたい……この世界を守りたい……!)
守護知性体は大きく光った。
《あなたの意志、確認しました。では――次の扉へ進みなさい》
空間の奥に、白く輝く扉が開いた。
《そこは“継承の間”。あなたが本当の力を手に入れる場所》
リオンは深く息を吸い、涙をぬぐい、次の扉へ歩き始めた。
『継承の間 ― 目覚める創造核』
リオンがついに“本来の力”の片鱗を手にする回。
沙月とアリシアは扉の前でリオンの帰還を待ち続ける――。




