7歳編・第20話:氷界塔・第三層 奥― 心臓部の扉 ― 創造核の鼓動
アリシアの影を乗り越えた三人は、塔の奥底へと続く白銀の回廊を進んでいた。
足元の床は氷のように透明で、歩くたびに淡い光が波紋のように広がる。
沙月は辺りをきょろきょろと見回した。
「なんか……ここって、生きてるみたい」
リオンはうなずく。
「塔そのものが“意思”を持ってるんだと思う。
入る者を試し、合格した者だけを心臓部に導く――
そんな仕組みなんだろうね」
アリシアが前を歩きながら言う。
「凍界塔は、大昔に“精霊王”が造ったといわれているわ。
世界の歪みを抑えるための装置……
でも、実際は誰も核心を知らないの」
(……世界の歪み)
リオンの胸がざわついた。
胸の奥、心臓の奥深くで――
“何か”が、微かに脈打つ。
トン……
トン……
普通の鼓動とは違う。
金属と光が響くような、不思議な感覚。
(まただ……最近ときどき感じる……俺の“創造核”が反応してる……)
沙月が心配そうに覗き込む。
「リオン? 大丈夫?」
リオンは微笑んでみせる。
「うん。ちょっと胸が……熱いだけ」
アリシアが歩みを止めた。
「それ、多分――“共鳴”よ」
「共鳴……?」
「この先にある“塔の心臓部”には、世界に三つしか存在しない“核”の一つがある。あなたの内側にある核が、それに反応してるの」
リオンの顔が強張る。
(……やっぱり俺の中の“創造核”は……特別なものなんだ)
アリシアは続ける。
「でも、共鳴が起こるってことは── “あなたはここに来ることが定められていた”ってことよ」
リオンはゆっくり息を吸った。
(俺が……ここに来ることが、運命だった?)
胸の奥で、創造核が“トン”と強く脈打つ。
◆巨大な扉
白銀の回廊が終わると、そこには――
**“神殿のように巨大な扉”**がそびえ立っていた。
高さ20メートルはある氷の門。
表面には無数の紋様が浮かび上がり、それぞれが淡く輝いている。
沙月が圧倒されながら言う。
「これ……どうやって開けるの……?」
アリシアが扉に手を当てた。
「この扉は、普通の魔力じゃ開かないわ。“核”の力を持つ者だけが開くことができる」
リオンの胸がドクンと鳴った。
(……俺しかいないってこと?)
アリシアはリオンの方を向く。
「リオン。扉に触れてみて」
リオンは緊張で手が震えた。
けれど、後ろを見ると――
沙月が、アリシアが、見守ってくれている。
(大丈夫……一人じゃない)
リオンはゆっくり扉に手を当てた。
その瞬間――
ゴオオッ……!
胸の奥が強烈に熱くなる。
(う……っ!)
視界に白い光が溢れた。
扉の紋様が一斉に輝きだし、床にまで光の波が広がっていく。
沙月が叫ぶ。
「リオン!!」
アリシアも険しい顔になる。
「創造核の“完全共鳴”……!? そんな……こんな規模……!」
リオンは耐えながら感じた。
(扉が……俺に何かを伝えようとしてる……!)
耳の奥に声が響いた。
《――ようやく、戻ってきたのですね》
(え……?)
《あなたの核は、本来ここにあるべきでした》
リオンの心臓が跳ねる。
(俺の核……? 俺は……“ここに属している”……?)
声は続く。
《歓迎します、創造主の欠片》
(創造主……? 欠片……?)
理解が追いつかない。
(俺……“創造主の断片”なのか……? だから俺はこの世界に……?)
アリシアが驚愕の声をあげた。
「創造主……!? リオン……あなた……」
沙月は泣きそうな顔でリオンに駆け寄る。
「リオン! 離れて!!」
しかし――
バァン!!
扉が白い衝撃波を放ち、沙月もアリシアも弾き飛ばされた。
リオンの体だけが光に包まれ、扉がゆっくりと開いていく。
リオンの頭に響く声。
《心臓部へ。あなたの“記憶”を返しましょう》
(記憶……? 俺の……?)
リオンの意識は遠のき、体がゆっくりと扉の中へ吸い込まれていく。
沙月が絶叫した。
「りおおおおおん!!」
アリシアも手を伸ばす。
「リオン!!」
しかし、二人が触れるより早く――
扉はリオンを飲み込み、ゆっくりと閉じた。
ドォン――
響き渡る音と共に、扉の紋様が静かに消えていく。
アリシアは扉に拳を叩きつけた。
「くっ……開かない……!」
沙月は床に崩れ落ち、震える声で叫ぶ。
「リオン…… 置いてかないで……!」
扉の向こう。
リオンは一人、闇の中に落ちていった。
最後に聞こえた声は――
《ようこそ、創造主の遺産へ――》
『創造主の遺産 ― 失われた記憶』
扉の向こうでリオンが見たものは、
“自分がなぜこの世界にいるのか”という真実だった。
沙月とアリシアは、閉じた扉の前で
リオンを取り戻す方法を探り始める――。




