7歳編・第16話:氷界塔・第二層 ― 深氷回廊と“君だけの未来”
第一層を抜けた三人は、青い霧に包まれた階段をゆっくりと降りていった。
アリシアの表情は、先ほどの影の少女と向き合ったことで、どこかスッキリとしている。
沙月は言う。
「アリシアさん、ちょっと軽くなった顔してるね」
「……そうかもしれないわ。でも油断はできない。第二層は“精神と未来”に干渉してくる」
リオンの眉がぴくりと動く。
「未来……?」
「ええ。 未来視、幻覚、記憶の改竄。 見たくない未来ほど見せてくる層よ」
沙月の顔が青ざめた。
「見たくない未来…… そういうの苦手なんだけど……」
アリシアは小さく笑った。
「大丈夫よ。 幻でも、あなた達が望まなければ現実にはならない」
その言葉に、リオンも少しリラックスする。
階段を降りきると、そこは巨大な氷の回廊が広がっていた。
◆1.第二層――《深氷回廊》
「……広い」
リオンの呟きどおり、第二層はまるで氷の大聖堂だった。
天井は高く、氷の柱が左右に並び、奥へ続く一本道が薄い霧に覆われている。
だが――
「……なんか、気持ち悪い」
沙月が腕を抱えた。
胸の奥にモヤッとした違和感があり、誰かに見られているような感覚。
アリシアは前に手を伸ばす。
「ここから先は、 “未来の影”が干渉してくるエリアよ。 気をつけて」
そう言って一歩前へ踏み出した瞬間――
カチン……!
床の氷にアリシアの影が映り、その影が勝手に動き出した。
沙月は叫ぶ。
「影が動いた!!」
アリシアの影はゆっくり立ち上がり、氷の壁のほうへ歩いていく。
そして壁を触れた瞬間――
氷が透け、映像が浮かび上がった。
リオンと沙月は思わず息を呑む。
映し出されたのは――
剣を持ち、傷だらけのアリシア。
そして彼女の前に倒れているのは、
リオン。
倒れ、動かない。
アリシアは泣き叫び、剣を振り上げ――
「う、うそ……」
沙月が顔を青ざめさせる。
リオンは拳を握った。
(これ……未来の幻?)
アリシア自身が最も見たくない未来。
だがアリシアはすぐに氷を割り、砕いた。
「こんなの……わたしが望む未来じゃないわ!」
氷の映像は消える。
アリシアは震える声で言った。
「塔は……自分の弱い未来を見せてくる。でも全部“可能性”のひとつにすぎない」
リオンは小さく笑った。
「大丈夫。俺は死なないよ」
「……根拠は?」
「なんとなく?」
アリシアは呆れたように、しかし優しい目で微笑んだ。
「あなたの“なんとなく”は、わりと当たるから怖いわ……」
少し空気が和んだ、そのとき。
沙月がふいに立ち止まった。
「……あれ?」
アリシアが振り返る。
「どうしたの?」
沙月は困惑した表情で胸に手を当てていた。
「なんか……変な感じ。頭の奥が、ギュッて……」
次の瞬間――
ばちんッ!!
沙月の足元の氷が光り、彼女の影が急速に深く沈み込む。
「えっ……なにこれ……!」
アリシアが叫ぶ。
「沙月、離れて!!」
だが間に合わなかった。
影が弾け、沙月の目に白い光が流れ込む。
リオンが駆け寄る。
「沙月!! 大丈夫!?」
沙月は震えながら、ゆっくり目を開けた。
そして――
ぽろぽろと涙を流し始めた。
「リオン……アリシアさん……わたし、見ちゃった……」
リオンの胸がざわつく。
「何を……?」
沙月は震える声で言った。
「アリシアさんが…… リオンを置いて、ひとりで塔の最深部に行く未来……」
アリシアは目を見開く。
「そんな未来、わたしは――」
しかし沙月は続ける。
「違う……“望んで”じゃないの。 リオンを守るために行くの。 でも……」
明らかに言葉を詰まらせる。
リオンがそっと肩に手を置いた。
「……でも?」
沙月は、泣きながら言った。
「その未来の中で…… アリシアさん、 ――帰ってこなかった……」
空気が完全に凍りついた。
アリシアは動けない。
リオンも言葉を失った。
沙月の涙がぽたぽたと落ちる。
「嫌だよ……そんな未来…… だって…… アリシアさんがいなくなるなんて…… 絶対いや……!」
アリシアは唇を噛みしめる。
「……塔が見せた未来よ。 本当に起きるとは限らない」
沙月は叫んだ。
「でもすごく“リアル”だった……! アリシアさんの手、すごく冷たくて…… 光に消えていって……!」
アリシアは沙月を抱きしめる。
「大丈夫。 そんな未来にはしない。 わたしは絶対に、あなた達を置いて行かない」
沙月はアリシアの背中を掴んで泣いた。
リオンは胸の奥で、何かがじくじくと熱を持つのを感じていた。
(未来を見せて揺さぶる…… この階層は、精神を揺らして迷わせるためのもの)
だがその時、
ズン……ッ!!!
氷の回廊そのものが大きく揺れた。
アリシアが目をあげる。
「あれは……!」
霧の奥から、巨大な人型の影がゆっくり姿を現した。
身長は三階建ての建物ほど。
全身が深い青い氷でできている。
リオンが構える。
「また影か……!?」
アリシアは首を振る。
「違う……
あれは第二層の守護者――
《未来喰らい(フューチャー・イーター)》!」
沙月は涙を拭い、短剣を構えた。
「来るなら来なよ……! 未来なんて……わたし達が決める!」
リオンは剣を握る。
アリシアも手を前に出す。
三人は同時に前へ踏み出した。
そして心の中で願う。
――絶対に、誰も失わない。
その願いが、塔の深層に、小さな波紋を生み始めていた。
第二層の守護者“未来喰らい”との戦闘が開始。
しかし戦いの最中、
リオンの胸の奥に眠る“創造核”が異常反応を起こし、
塔の呪いそのものを吸収し始める――!
次回――7歳:氷界塔・第二層 ― 未来喰らい ― 揺れる心と“創造核”の覚醒




