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7歳編・第13話:雪原の街と“氷の魔女”

第四遺跡を越え、北へ北へ。

リオンと沙月が辿り着いたのは――

まるで世界の端のような、果てしない雪原だった。


白。

風の唸り。

視界を奪う粉雪。


「さ、寒い……っ」


沙月が震えながらリオンの手を握った。

リオンは自分のコートを引き寄せ、沙月の肩にかける。


「無理しないで。すぐ近くに街があるはずだから」


彼の声は落ち着いていたが、その瞳の奥には緊張があった。


(――ここは“魔力が凍る領域”。普通の魔法は通用しない)


地図に記された文字が脳裏をよぎる。


《凍界ニヴェルヘイム》


この地は、冬の精霊の力が強すぎるため、魔力の流れが常に結晶化し、魔法を使えば逆に身体が凍りつくという。


(父さんの残したメモ…… “この場所は必ず通れ”って…… 本当に何があるんだろう)


***


風の壁を抜けた瞬間。


広大な雪の中に、突然、光が広がった。


「……街?」


「見て、あれ。氷の壁で囲まれてる」


雪原の真ん中に、巨大な氷の半球が街全体を覆っていた。

まるで守り神の手で包まれたような、透明のドーム。


中には温かそうな町並みが見える。


「きれい……!」


沙月が目を輝かせる。

その表情にリオンが微笑んだ。


「とりあえず、入ってみよっか」


二人が氷のドームに近づいたとき――


バキィンッ!


空気が裂けるような音とともに、透明な壁が突然ひび割れ、そこから霜の鎖が伸びてきた。


「リオンっ!!」

「下がって!」


だが鎖は、彼の足元へ吸い寄せられるように伸び――


ガシィッ


足首を掴んだ瞬間、リオンの魔力が一気に吸われ、体温が急激に奪われる。


(この感覚…… 魔力凍結!?)


足元から白い氷が広がっていく。


沙月が叫ぶ。


「やめてっ!!」


その時――

氷のドームの上部がぱぁっと光り、一人の女性が降りてきた。


白銀の髪。

淡い青の瞳。

肩までの外套は氷の羽織のよう。

年齢は二十代前半ほどだが、その雰囲気は冷ややかで、威圧感すらある。


女性は空中で立ち止まり、短く言う。


「侵入者ね。それも……異質な魔力」


リオンは歯を食いしばった。


「俺たちは敵じゃない。街に行きたかっただけで――」


「魔力を持つ者は、ここには入れないわ」


その声音はとても静か。


しかし、拒絶は絶対。


沙月は涙声で叫んだ。


「お願い! リオンを離して!」


女性は、沙月を一瞥した。


「あなた……魔力がほとんどないのね」

「だからお願い……リオンの魔力、全部凍っちゃう……!」


女性は一瞬だけ目を細めた。


そして、ため息をつくように右手を振る。


カランッ


氷の鎖がぱきんと砕け、リオンはその場に倒れ込んだ。


「リオン!!」


沙月が抱き起こす。

彼は呼吸が白くなり、唇も青く染まっていたが、意識はある。


「だ、大丈夫……」


女性はゆっくりと降り立つ。


「わたしは――

 “氷の魔女”アリシア・グラスロード」


リオンは驚きに目を見開く。


(……グラスロード? 父さんが昔話してた“北の守護者一族”……)


アリシアは、二人をじっと見据えた。


「あなたたち、危険よ。 ……特にそっちの少年」

「俺?」


「ええ。“普通の魔力”じゃない。あなたの魔力、まるで――存在を削って作られたものみたい」


リオンの心臓が一瞬止まる。


(存在……?)


アリシアは続けた。


「あなたの魔力は流れ方が異常。本来の世界線で持っていたエネルギーを“別の世界に移植された時点で、欠損している”」


(……っ)


彼女の瞳は、氷のように冷たく透き通っている。


「そんな状態で“凍界”に入ったら、あなた自身が世界に拒絶されて死ぬわ」


沙月の顔が真っ青になる。


「じゃあ……リオン、このままじゃ……」


アリシアは頷く。


「ええ。だから助けてあげる。――ただし、条件がある」


風が止まり、世界が静かになった。

リオンは、氷の魔女の瞳を正面から見た。


「条件……?」


アリシアの言葉は、雪のように静かで、それでいて重かった。


「わたしの“呪い”を解いて」


沙月が息を呑む。


「呪い……?」


「この街を覆う氷の結界。わたしは守るために張ったつもりだった。

 でも――いまは逆。

 街の人たちは外に出られず、私は街から一歩も離れられない」


リオンの胸がざわつく。


(……閉じ込められてる?)


アリシアの声は震えていた。


「このままじゃ……街はじきに“世界から切り離されて”しまう。わたしの力が暴走してるの。止められるのは……“異界人”だけ」


リオンと沙月は息を呑んだ。

アリシアはリオンをまっすぐ見つめる。


「あなたには、その力がある。 ……わたしを、助けて」


雪が舞う。

その中で、リオンは静かに頷いた。


「わかった。俺たちで、その呪いを解くよ」


アリシアは初めて、わずかに微笑んだ。


「ありがとう。では――“凍界の心臓部”へ案内するわ」


こうして二人は、美しくも危険な雪の街ニヴェルヘイムを救うため、氷の魔女アリシアと行動を共にすることになった。


だが――

その裏で、アリシアはひとつだけ隠していた。


“リオンの魔力を解析した結果、彼の存在そのものが“世界の矛盾”を生んでいる”


それを告げるのは、もっと先になる。

アリシアの街はどこかおかしい。

人が少なすぎる……いや、“少ないどころではない”。

そしてリオンは、氷の底で“見てはいけないもの”を見る。

次回――7歳:氷の街の秘密と“消えた住民”


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