表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/147

幕間(第3幕) :現世 ― 消えた少年の痕跡

藤堂亮介という“存在ごと消えた男”の余波が、いよいよ日本全土へ広がり始める――。


◆1.霞が関・異常報告会議


「……では次。内閣サイバー庁から」


薄暗い会議室に重苦しい空気が漂う。

モニターには“緊急:全国基幹システム障害”の文字。


担当者は震える手で資料をめくった。


「原因は依然として不明ですが――

 “rion_xxx”というタグ名のシステムが全国で同時に消失しています」


「消失……? バックアップは?」


「すべて、空の箱になっています。コードもデータも、完全に……跡形もなく」


会議室がざわついた。


「そんなことがあるか! 誰かが同時にハッキングしたのか?」


「いいえ。ログにアクセス履歴がありません。“触られた形跡そのものが消えている”状態で……」


沈黙。

室内には、冷房の音だけが響く。


「“rion”…? 藤堂亮介……?」

ある官僚がぼそりと言った。


「その名前……最近やたらと報告書に出るな」


「実在する人物なのか?」


「それが……戸籍にも社会保険にも、痕跡がありません。どうやら“もともと存在しなかった人物”らしく……」


再びどよめき。


「だが、彼が作った“はずの”システムは全国にある。どう説明するんだ?」


官僚は言いよどむ。

「……説明できません」


◆2.ブラック企業の崩壊


都内某所、かつて藤堂亮介が働いていた会社――

アストレア・システムズ。


社員たちが青ざめながら、巨大なエラー画面を見つめていた。


“システム起動不可。開発者が存在しません。”


部長が怒鳴る。


「どういうことだ!! 誰が消したんだ!? また新人か!?」


新人が泣きそうな声を出す。


「ち、違います! 私たち、何も触ってません!」


別の社員が震えながら言う。


「部長……“rion_xxx”って…… あの、藤堂さんがつけてた名前じゃ……」

「藤堂? 誰だそれ」

「え……? 3年前まで……」

「ああ!? 新人か? うちにそんなやついないだろ!」


社員たちは言葉を失う。


(……みんな、藤堂さんを覚えてない……?)


だが、確かにそこにいた。

優しく、怒らず、深夜まで仕事して、あの無茶苦茶なプロジェクトを一手に支えた人。


名前を呼べば笑ってくれた。


「なぜ……消えてる……?」


会社全体が異様な沈黙に包まれた。


そして翌日、この会社は全基幹システムが消滅したことで取引を失い、倒産する。


“藤堂亮介”に最後まで寄りかかっていた代償だった。


◆3.反対に、救われた企業


一方で、かつて藤堂が趣味で助言していた小さな工務店。

老夫婦だけで切り盛りしていたその会社のパソコンには――


re:rion_001

re:rion_002

re:rion_003


謎のファイルが自動復元されていた。


老主人が首をかしげる。


「ばあさん……これ、ワシらがずっと作れなかった施工図じゃないか?」


「それどころか……予算計算も見積りも、全部自動で……」


「おかしいな…… あの時助けてくれた“冴えない若いエンジニア”に名前聞いておけばよかった……」


二人は顔を見合わせ、自然と笑顔になる。


「まあ、ええか。助かったわい」


彼らは知らない。

それを作ったのは、“存在を消された男の優しさの残滓”だったことを――。


◆4.家庭という“空白”


東京都内のあるマンション。

一人暮らしの女性がアルバムを広げていた。


(……あれ?)


古い写真。

旅行。

飲み会。

レストラン。


そのどれにも、“ひとり分の空白”がある。


「なんで……? なんでいつも三人で行動してたはずなのに…… 一人、写ってないの……?」


女は震える。


(確かにいた。優しすぎるくらい優しい人だった)


(でも……名前が、出てこない)


アルバムの最後に、一枚の白紙だけが残っていた。


――何も写っていない写真。


女性はそれを見つめながら涙をこぼした。


「どうして…… どうして、忘れちゃったんだろう……」


誰も答えられない。


藤堂亮介は、“人の心の中の記憶”からも消されてしまったのだから。


◆5.世界の綻び


霞が関の最高機密会議。

内閣府の分析官が重い声で報告する。


「現在確認されている“rion_xxxシステムの消失”は全国で493件。

 医療・金融・物流・行政にも影響が発生し、

 一部では社会インフラが停止しかけています」


「原因は?」


分析官は、しばらく沈黙した後に言った。


「……“存在してはいけない人物の存在消失”が原因だと考えられます」


会議室がざわめく。


「誰だ? その人物は?」


分析官は首を振った。


「わかりません。しかし……その人物が“いなかったこと”が原因で社会が不安定化しているのは事実です」


「そんな馬鹿な……!」


だが――

この時点での現世の混乱は、まだ序章にすぎなかった。


◆6.唯一の“記録”


同じ頃、古びたレンタル倉庫。

毎月使用料だけが自動引き落とされ、誰も開けたことがない部屋。


そこで、ひとつのパソコンが突然起動した。


黒い画面に文字が浮かぶ。


「Backup_rion.exe を実行しますか?」


数秒の沈黙。


YES


自動で選択される。


大量のログが流れ始める。


“藤堂亮介:存在情報欠落”

“矛盾検出:本来あるべき人物個体の不在”

“原世界に不可逆の異常が発生しています”


最後の行。


“――あなたは誰ですか?”


モニターの前には誰もいない。

だがその言葉は、まるで“消えた彼自身”が残した問いのようだった。


そして――

画面は自動的に閉じる。


藤堂亮介に関する記録は、これをもってすべて消失した。


◆7.世界は知らないままに


世界は知らない。

ひとりの男が、家族を守るために“自分の存在そのもの”を捨てたことを。


その代償として、社会に“誰も説明できない穴”だけが残された。


藤堂亮介を覚えている者は、もう誰もいない。


だが――

異世界では、その男の魂が“リオン”として歩いている。


彼は知らない。

自分が現世に遺した余波が、今も国家レベルの謎として騒ぎになっていることを。


現世の混乱は、これからさらに広がっていく。


そしてついに――

“本物の創造核”に関わる存在が、現世で動き始めるのはもう少し先の話だ。

ついにリオンと沙月は第四遺跡を越え、

北方の雪の街へ。

そこで待ち受けるのは、

“魔力を凍らせる女”との邂逅。

次回――8歳:雪原の街と“氷の魔女”


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ