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5歳編・第3話:村の子供たちと“はじめて”の友情

冬が終わり、村に春が訪れた。

雪解け水が小川を満たし、畑の土は湿り気を取り戻している。

木々の芽が膨らみ、どこか柔らかい陽射しが差し込む季節。


リオン・レインフォード、五歳。

妹リリィの世話も板につき、母エルナを手伝う日々を送っていた。

だが、家の中で過ごすだけでは満足できない。

最近は外の世界が気になって仕方なかった。


「リオン、今日は外で遊んできていいわよ。ただし、川には近づかないでね。」

母の言葉を背に、リオンは勢いよく家を飛び出した。


村は小さい。

五十人ほどが暮らす集落で、家々は木と土でできている。

遠くの丘には畑が広がり、手掘りの井戸が一つ。

水は貴重だが、村人たちは笑顔で助け合いながら暮らしていた。


「おーい、リオン! 一緒に遊ぼうぜ!」


声をかけてきたのは、金髪の少年カイル。

村長の息子で、やんちゃな性格だ。

その隣には双子の少女、メルとミナ。

村で一番活発な三人組だ。


リオンは少し照れながらも笑顔で手を振った。

「うん、いいよ! 今日は何して遊ぶの?」


「木の上の巣を取りに行こうぜ!」

「やめなよカイル、それは危ないって!」


前世の知識が一瞬頭をよぎる。

――危険行為の典型例だ。

だが、子供の体は言うことを聞かない。

好奇心と冒険心が勝ってしまう。


「じゃあ、おれが取ってくる!」


木登りは得意なはずだった。

だが、途中で足を滑らせ、

「うわっ!」という叫びと共に、見事に落下。


ドサッ!


「リオンー!? だ、大丈夫!?」


尻餅をついたリオンは、顔を真っ赤にして立ち上がる。

「だ、だいじょうぶ……! ちょっと痛いだけ!」

しかし次の瞬間、頭の上から“ポトリ”と何かが落ちてきた。

鳥の巣だった。


「……お?」


中には、小さな白い卵が二つ。

ひび割れずに、彼の膝の上で揺れている。

カイルたちは目を丸くして叫んだ。


「すっげぇ! リオン、奇跡だ!」

「ほんとに落ちたの!? リオン、天才かも!」


(天才というより、ただのドジだと思うけど……)

心の中で苦笑しながらも、初めて“誰かに褒められた”感覚に胸が温かくなる。


それから数日間、リオンたちは卵を育てる遊びを始めた。

小さな木箱に藁を敷き、暖め続ける。

リオンは母に教わりながら、毎日面倒を見た。

やがて一つの卵がピキピキと音を立てて割れ、小さなヒナが顔を出す。


「うわぁ……生きてる!」

「おれたちが、育てたんだ!」


カイルが歓声を上げ、メルとミナが拍手する。

リオンはその光景を見つめながら、心の奥にふと痛みを感じた。


――前の世界では、こんな笑い方、もう忘れてたな。


オフィスで誰かと笑い合うことも、成果を誰かと喜び合うこともなかった。

だが今は、胸の底から楽しいと思える。


「リオン、お前、友達な!」

カイルが笑顔で手を差し出した。


リオンは一瞬戸惑い――そして、その手を握る。

「……うん、友達!」


その言葉を口にした瞬間、何かが自分の中で“カチリ”と音を立てて動いた気がした。

それは、孤独に凍りついていた心の歯車。

ようやく動き出した、小さな温もりの記憶だった。


***


夕暮れ、村に帰る途中。

リオンはカイルたちに別れを告げ、妹の寝顔を見に行く。

リリィの寝息を聞きながら、そっとつぶやいた。


「……友達ができたよ、リリィ」


その小さな呟きに、赤ん坊は微かに笑ったように見えた。

リオンはその笑顔に、再び決意を固める。


――この村を、もっと良くしたい。

――この家族と、仲間たちを守りたい。


まだその思いがどれほど大きな未来を動かすか、彼自身は知らなかった。


***

家族に続き、友を得た少年。

世界は少しずつ色を取り戻していく。

――だが、その裏で、崩れ始めた“現世”はまだ気づかれぬまま。

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