7歳編・第12話:雷の遺跡 ― 運命の電撃 ―
◆1.雷鳴の谷へ
風の遺跡を出てから三日後。
リオンと沙月は雲の多い山岳地帯へと入っていた。
空は常にどんよりと暗く、遠くで雷鳴が轟き続けている。
「雷、ずっと鳴ってるね……」
沙月が肩をすくめた。
「ここは“雷の谷”。 遺跡に近づくほど雷が強くなるらしい」
リオンは周囲の魔力を感知しながら答える。
雨こそ降っていないものの、空気にはピリピリするほど高い魔力が満ちていた。
「雷の遺跡の守人って……どんな人なんだろ?」
沙月が不安げにつぶやく。
「わからない。でも、風の時より厳しいのは確かだ」
二人は前へと進む。
山道は険しく、空気は冷たい。
雷が落ちる度、足元の岩が震えた。
やがて谷の奥に――
巨大な“紫色の柱”が見えてくる。
それは雷そのものを固めたような、異様な存在感を放つ遺跡の入り口だった。
リオンが息を呑む。
「……あれが、雷の遺跡」
沙月はごくりと喉を鳴らした。
「なんか、怖いね……」
「大丈夫。俺がいるから」
小さく手を握り、二人は雷の遺跡へ向かった。
◆2.雷の門が開く
入口には巨大な石扉があり、表面には鋭い稲妻の紋章が刻まれていた。
リオンが手を近づけると――
バチッ!
強烈な雷が走り、思わず手を引く。
「うわっ……! いきなり!?」
沙月がポンと跳ねた。
「試験前のあいさつってやつか……」
リオンは苦笑しながら、“風・水・土”の鍵を取り出す。
「さあ、行くよ」
鍵が光り、扉は雷鳴とともにゆっくりと開いていった。
その奥には――
紫電が飛び交う巨大な空間が広がっていた。
壁も床も浮遊する岩も、全て雷の力で形を保っている。
そしてその中心に――
“ひとりの少年”が立っていた。
銀色の髪。
鋭く光る金の瞳。
肩には青白い雷が走っている。
「待っていたぞ、リオン・レインフォード」
沙月が息を飲む。
リオンは静かに名を問う。
「君が……雷の守人?」
少年は一切笑わず、静かに名乗った。
「第四守人――ゼクス」
◆3.ゼクスの宣告
ゼクスは静かな声で言った。
「必要な説明はすべて省く。 俺の役割はひとつ――」
紫電が走る。
「お前の“運命”を確かめることだ」
リオンの眉が動く。
「運命……?」
ゼクスが一歩前に進む度、雷の床がビリビリと震える。
「風の守人に“自由”を問われたな?」
リオンは驚くが、頷く。
「だがな。 自由よりも先に、お前には避けられぬものがある」
ゼクスはリオンを鋭い眼で射抜いた。
「――“β版”。 世界にとって、お前は“未完成の欠陥核”」
沙月の顔が怒りで赤く染まる。
「欠陥なんて言わせない! リオンは……!」
だがゼクスは一切動じない。
「事実だ。 本来の“創造核”がこの世界には存在する」
リオンと沙月が同時に息を呑む。
ゼクスは淡々と続けた。
「それは――
お前ではない“本物”が別にいるということだ」
雷が走り、空気が裂ける。
沙月が震える声で問う。
「ほ、本物……?」
ゼクスは冷たく頷いた。
「そうだ。
この世界を設計した“原初の創造者”は、
本来別の魂を受け入れるはずだった。
だが――なぜか、お前が選ばれた」
リオンの心臓が激しく脈打つ。
“自分は選ばれたのではない。間違って紛れ込んだだけ――?”
ゼクスは低く告げる。
「お前は“本物の代用品”。
だからこそ試される。
本当にこの世界の“核”として存在できるのかを」
その言葉は、リオンに確実に突き刺さった。
◆4.試練 ― 雷の荒野
ゼクスが雷を纏い、遺跡全体が震え始めた。
「リオン・レインフォード。 最終試練――開始する」
沙月が叫ぶ。
「待って! リオンはまだ――!」
ゼクスは一瞬だけ沙月を見た。
「黙れ。 “核”の試練に他者は干渉できない」
その瞬間、
地面が砕け――
リオンとゼクスの周囲に
“雷の荒野”が形成された。
空は黒く、無数の稲妻が降り注ぐ世界。
ゼクスの声が響く。
「立て、β版。 “代用品”に世界を任せるわけにはいかん」
リオンは震えた拳を握り、一歩前に出る。
「代用品でも構わない……
俺はこの世界で生きてる。
家族も、仲間も、守りたいって心も……
全部本物だ!!」
ゼクスの瞳がわずかに揺れた。
「なら証明しろ。
“存在価値”を――
雷を越えて」
雷が走る。
二人の戦いが始まった。
◆5.雷撃が迫る
ゼクスは宙に浮き、雷を纏った槍を形成する。
「雷槍・穿ッ!!」
稲妻が一直線にリオンへ飛ぶ。
リオンは咄嗟に地面を蹴り、土魔法で盾を作った。
だが――
ドォォォン!!
盾は一瞬で砕ける。
「くっ……!」
風魔法で体を軽くし、横へ飛んで回避する。
ゼクスは無表情で言った。
「防御が薄い。 “創造核”のくせにその程度か」
リオンが歯を食いしばる。
「俺は核じゃなくていい…… 守りたいだけだ!」
手を突き出し、水魔法と風魔法を組み合わせる。
「水流――加速ッ!」
水が矢のようになって飛ぶ。
しかしゼクスは雷で蒸発させる。
「弱い」
雷を纏った拳がリオンの腹に入る。
「ぐっ……!!」
吹き飛ばされ、地面に転がる。
ゼクスが近づき、冷たく告げる。
「β版よ。
お前の“願い”では世界を動かせない。
創造核は、常に“本物”でなければならない」
リオンは地面を握りしめ、歯をかみしめた。
「本物か偽物かなんて……関係ない!! 俺は……俺は――」
リオンの視界に、沙月の姿がよぎる。
泣きそうな顔。
自分を信じ続ける眼。
(……守りたい。それだけは絶対に揺らがないんだ)
リオンはゆっくり立ち上がる。
◆6.雷を越えろ
リオンの両手に、三つの鍵が光り始める。
風。
水。
土。
ゼクスが驚く。
「……鍵が共鳴している……? まさか、β版がここまで……!」
リオンは叫ぶ。
「鍵は俺を認めてくれた!
だったら――
俺は俺の力で前に進む!!」
三つの魔法が一斉に放たれ、
風が雷をそらし、
水が雷を伝って逆流し、
土が地面の衝撃を緩和する。
ゼクスの雷が押し返される。
紫電が裂け、ゼクスが初めて大きく目を見開いた。
「――なに……?」
リオンは前へ踏み込み、拳を構えた。
「代用品でも、未完成でも――
“生きてる俺”はここにいる!!」
拳がゼクスの胸に届く。
雷が散り、ゼクスは後方に吹き飛んだ。
◆7.ゼクスの認定
荒野が消え、遺跡の内部に戻る。
ゼクスは膝をつき、だがその目はどこか清々しさを帯びていた。
「……認める。
お前は“β版”だ。
だが――未完成だからこそ、
“先へ進む力”を持っている」
立ち上がり、紫の雷をリオンへ向ける。
「第四の鍵、“雷鍵”――授与する」
雷の球がリオンの胸へ吸い込まれ、新たな魔力が宿る。
ゼクスは微笑みさえ浮かべて言った。
「俺は、お前を侮っていた。すまなかった……リオン」
リオンは首を横に振る。
「謝らなくていいよ。俺も強くなるから」
沙月がリオンに飛びつく。
「もう! ほんとに心配させないでよ!! 死ぬかと思ったんだから!」
リオンは照れくさく笑った。
ゼクスは静かに空を見上げる。
「……この先、お前を待つ守人は、さらに厳しい。覚悟していけ」
「うん。ありがとう、ゼクス」
雷が消え、遺跡の光が静かに収束した。
雷の遺跡の裏で、
“現世”では大きな歪みが起きていた。
――ひとりの少年の“存在の欠落”。
その影響がついに、
国家レベルで表面化しはじめる。
次回――幕間:現世 ― 消えた少年の痕跡




