7歳編・第11話:風の遺跡 ― 空の境界を越えて ―
◆1.空へ続く道
土の遺跡を後にしてから数日後。
リオンと沙月は、乾いた荒野を抜け、緑豊かな丘陵地帯へと戻ってきた。
そこには涼しい風が吹き抜け、遠くの空に、白い雲がゆっくり流れている。
「次は“風の遺跡”……だよね」
沙月が風に髪を揺らしながらつぶやく。
「うん。でも、場所が問題なんだよな」
リオンは広げた地図を見ながら眉をひそめた。
風の遺跡の位置には――
ただ一言。
《空の上》
「……空の上ってどういうこと?」
沙月が口をあんぐり開ける。
「わからない。でも、地図の魔力痕跡は確かに“上空”を示してるんだ」
鑑定眼で見ても、空の一部だけ魔力が濃密になっている場所がある。
「行ってみるしかないね」
沙月がリオンの腕を軽く叩く。
リオンは深呼吸し、空へ視線を向けた。
◆2.風の祭壇
二人は丘を越え、雲が近く見えるほど標高の高い“風の祭壇”を目指した。
そこには古代の石柱が並び、中央に羽根を象った祭壇があった。
リオンは“水の鍵”と“土の鍵”を祭壇に置き、魔力を流し込む。
すると――
空気が震え、風が竜巻のように渦を巻き始めた。
沙月が慌ててリオンにしがみつく。
「ちょ、ちょっと!? 飛ばされる!!」
「大丈夫、離れないで!」
風が祭壇の中心へ収束し、空中に“透明な階段”が形づくられた。
それは雲の上に続く――
まさしく“空の道”だった。
「これ……歩いていいのかな?」
「歩くしかない」
リオンは強く頷く。
沙月の手を握り、二人は空への階段を踏み出した。
◆3.空の神殿
雲を抜けると――
そこは現実とは思えない光景が広がっていた。
青い空に浮かぶ巨大な島。
草原が広がり、白い石造りの神殿がそびえ立つ。
「うわぁ……すご……」
沙月が完全に言葉を失う。
風の匂いに混じって、どこか甘い香りが漂っている。
「ここが“風の遺跡”……
まるで異国の空」
リオンは胸の奥で、ひどく懐かしい感覚を覚えた。
――前世の通勤途中、
空を見上げて「飛べたらな」と思った日々。
ここはその“夢”が具現化したような場所だ。
神殿の前へ進むと――
突然、風が渦を巻き、少女が現れた。
白銀の髪が空中で揺れ、大きな翼のような風の羽が広がる。
「……やっと来たんだね」
その少女は、どこか寂しそうだった。
◆4.風の守人 “フィーネ”
少女はふわりと地面に降り立った。
「私はフィーネ。
風の遺跡の守人であり――
《第三守人》」
沙月が驚いた声をあげる。
「三人目ってことは……」
「はい。炎の遺跡の“イグナ”、 水の遺跡の“ミリュア”。 そして私が風担当です」
フィーネは微笑んだが、どこか影が落ちているように見える。
リオンが口を開く。
「ここに来た理由……知っていますか?」
フィーネは頷く。
「全部知ってるよ。 あなたが“β版”として作られたことも」
沙月が不安そうにリオンの袖を握る。
フィーネはリオンの目をじっと見つめた。
虹色の光が瞳に宿っている。
「あなたがここに来たのは―― “自由”を試されるため」
「自由……?」
フィーネが指を鳴らすと、風が渦を巻き、世界が白く染まった。
◆5.風の世界へ引き込まれる
空が割れ、二人は“風の世界”へ引き込まれた。
そこは透明な大地、
浮かぶ島々、
遠くに見える巨大な鳥の影――
まるで夢の中のような場所だった。
「ここは……?」
リオンが振り返る。
フィーネの声が風に乗って響いた。
「この世界は“あなたの自由を映す鏡”。
あなたが望む未来が、そのまま形になる世界」
リオンが歩くと、足元に光の道ができる。
その先に――
“リオンの願う未来”が映し出される。
家族が笑い、村が発展し、空を自由に舞う自分。
「これ……全部、俺が望んだ?」
リオンの声が震える。
フィーネが姿を現し、静かに頷く。
「あなたは“自由に生きる力”を持っている。だけど……その力は時に“破壊”にもつながる」
風が突然荒れ始める。
リオンの足元の大地が砕け、村が崩れ、家族が消えていく映像が現れる。
「なっ……!? これは俺じゃない! 俺のせいじゃ――!」
フィーネが叫ぶ。
「違う! “自由”とは責任でもあるの! 自由に創造できるあなたは、いつでも“世界を作り変えられる”」
風が渦を巻き、リオン自身が巨大な影になって世界を飲み込む映像が現れる。
沙月が涙目で叫ぶ。
「やめて! リオンはそんなことしないよ!!」
フィーネの目が痛みを帯びる。
「それでも……
あなたが“創造核”であることは変わらない。
自由である限り、その影はつきまとう」
リオンは震える拳を握る。
「自由に……責任……
でも、俺は……」
リオンは深呼吸し、決意を込めて叫んだ。
「俺は……誰かを幸せにするために自由でいたい!
守るために力を使う!
それが俺の答えだ!!」
風が一瞬で静まり返り、世界に光が満ちていく。
フィーネは目を見開き、やがて静かに微笑んだ。
「……その答えを待っていた」
風がリオンの手の前に集まり、緑色の羽根が形づくられる。
――“風の鍵” 授与。
フィーネは泣きそうな顔で言った。
「あなたは……私がずっと会いたかった“自由そのもの”。
だから――
どうか、あなた自身を嫌わないで」
リオンは優しく笑う。
「大丈夫。 俺は俺のままで生きるよ」
風が舞う。
フィーネはその場で小さく頭を下げ、遺跡の奥へと消えていった。
◆6.遺跡を出る二人
現実の空へ戻ると、沙月は大きく息を吐き、リオンの手を握った。
「……怖かったけど、 リオンが自由をちゃんと選んだの、かっこよかったよ」
リオンは少し照れたように笑う。
「ありがとう。 でも……自由って、思ってた以上に重いんだな」
沙月は優しく言った。
「でも、リオンは絶対大丈夫。 私がついてるから」
二人は雲の上の道を戻り、
次の遺跡――“雷の遺跡”へ向かう準備を始めた。
空の上で吹く風は、まるで二人の旅を祝福するかのように柔らかく吹いていた。
雷鳴轟く天空の渓谷。
そこで待つのは、最も苛烈で、
最も残酷な試練を与える守人――。
リオンの“本当の運命”がついに明かされる。
次回――7歳:雷の遺跡 ― 運命の電撃 ―




