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7歳編・第9話:水の遺跡 ― 深淵の記憶 ―

◆1.湖へ


炎の遺跡を後にして二日後。

リオンと沙月は、カルナ山脈の反対側に広がる巨大湖――

**《ルナ・レイク》**へと到着した。


湖は驚くほど静かで、空の雲や太陽を鏡のように映している。


「……ここに“水の遺跡”が?」

沙月が湖面を覗き込みながら言う。


リオンは水の鍵(青い羽根)を手に取り、魔力を流した。

すると、湖の中央が微かに光り、円形の水紋が広がる。


――《水の遺跡》入口、認証。


湖面が割れ、水が渦を巻いて下降していく。

まるで海底への階段を開くように、静かな水の道が作られていく。


「行こう」

リオンは深呼吸し、階段へと足を踏み入れた。


◆2.水の墓所


水の遺跡内部は、外とは別世界だった。

青い光が天井から降り注ぎ、壁は透明な水晶でできている。


水が静かに流れ、音はとても穏やかだ。

炎の遺跡のような圧迫感はない。


「綺麗……ここ、本当に遺跡なの?」

沙月は見惚れながら歩く。


リオンは鑑定眼で周囲を読んだ。

「……精神系の魔力が濃い。

 ここは“心を映す場所”だ」


そのとき――

透明な水面に“影”が立った。


背中まで届く長い青髪。

しずくのような瞳。

ひどく儚い雰囲気を纏う女性だった。


「う……わ……」

沙月が声を失う。


女性は静かに微笑んだ。


「初めまして、リオン。

私は《ミリュア》。

水の遺跡を護る守人です」


リオンは自然と背筋を伸ばした。

「ここに来た理由を、知っているんですか?」


ミリュアはゆっくりとうなずいた。

「ええ。そして…… あなたが“β版”であることも」


リオンは息を呑む。

炎の遺跡で出会った“α版”。

完全版として生まれた自分のもう一人――


ミリュアは優しく言った。


「この遺跡では、あなた自身の“心の深淵”を見てもらいます。

創造核の本質を理解しないと、水の鍵は渡せません」


沙月が不安そうにリオンを見る。

「大丈夫……?」


リオンは微笑み、頷いた。

「やらなきゃいけないことだから」


◆3.深淵への降下


ミリュアに導かれ、遺跡の最深部――巨大な“水の鏡”の前に着いた。


「ここに、あなたの内側が映ります」


ミリュアが杖を振ると、鏡面が広がり、静かな水の世界が開かれる。


「リオン、気をつけてね……」

沙月が袖を握る。


リオンは一歩、鏡の中へ――


水が視界を包み、世界が音を失った。


◆4.過去の記憶の海


目を開けると、そこは――


会社のデスク。

夜のオフィス。

白い蛍光灯の下で、数字を打ち続ける自分。


「……ここは」

胸が苦しくなる。

前世の記憶だ。


上司の怒鳴り声。

「お前は替えがきくんだよ!」

データのミスを責められ、何度謝っても誰も救ってくれない。


(やめろ……もう見たくない)


足が勝手に前へ進む。

次に映ったのは、真夜中の自室。

机の上には未開封の食品。

壁にもたれ、虚ろな目で携帯を見つめる自分。


――「生きる意味なんて、あるのか」


その声が、リオン自身から聞こえる。


「……俺、こんな顔してたのか」

胸が締めつけられるようだった。


その時――

水面から“もう一つの影”が現れた。


赤い瞳。

炎の遺跡で出会った“α版”だ。


「お前が耐えてきた苦しみ。 その全部を俺は知っている」


リオンは歯を食いしばる。

「……知っててどうするんだよ」


α版は静かに言う。


「β版。 お前は“神に捨てられた試作品”だと思っているだろ」


リオンは反射的に言い返した。

「思ってない!」


しかし、胸の奥が痛む。

図星だった。


α版は水の中に沈む影を指差した。

「見ろよ。 あれがお前の“本当の恐怖”だ」


そこには――

目を閉じて沈んでいく前世の自分が映っていた。

泡のように消えていく影。


――“もう誰にも必要とされない”


その声が、水の底から響く。


「……やめろ……やめてくれ……」

リオンの声が震える。


α版は微笑んだ。

「安心しろ。 お前は“β版”でも、“失敗作”でもない」


リオンは顔を上げる。

「じゃあ……俺は何なんだ?」


α版はそっと手を伸ばした。


「お前は――

**“自分の意思で生きるために選ばれた存在”**だよ」


リオンはその言葉を理解できないまま、胸の奥で何かがほどけていくのを感じた。


水の世界に光が差し、前世の自分の影が静かに消えていく。


◆5.目覚め、そして“水の鍵”


現実の遺跡へ戻ると、ミリュアが優しく微笑んでいた。


「……リオン、終わった?」

沙月が駆け寄る。


リオンは小さく頷いた。

「うん。 たぶん俺……前より少し強くなった気がする」


ミリュアが両手を広げる。

水流が渦を巻き、ひとつの羽根を形作る。


――“水の鍵” 授与。


青い光の羽根が、ふわりとリオンの手に落ちた。


ミリュアは寂しそうに微笑む。

「次に向かうのは―― “土の遺跡”。大地の底よ」


リオンは息を呑む。

「……まだ試練は続くんですね」


ミリュアは頷いて言った。


「あなたが“創造核”として生まれた理由。その答えは、土の遺跡の先にあるでしょう」


湖の出口へ向かいながら、沙月がリオンの袖を少し引っ張った。


「リオン…… さっきの顔、ちょっと泣きそうだった」


リオンは少しだけ照れたように笑う。

「……でも、泣かなくていいって思えたよ。 もう、昔の俺じゃないから」


沙月は安心したように笑った。


その背後で、ミリュアの声が静かに響く。


「――彼は、“創造主”を超えるかもしれない」


湖面が閉じ、水の遺跡は再び静寂へ沈んだ。

大地の底で待つのは、

“創造核の誕生”に関わった最初の守人。

そこで明かされるのは、

リオンの存在意義に関わる《禁忌の真実》だった――。

次回――7歳:土の遺跡 ― 大地の胎動 ―

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