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7歳編・第8話:炎の遺跡 ― 灯るは原罪の火 ―

風の遺跡から戻って数日。

リオンは毎晩、奇妙な夢を見ていた。


暗闇の中で、誰かがこちらを見つめている。

それは自分と同じ顔、同じ声。

ただひとつ違うのは――その瞳に宿る光が、赤く燃えていることだった。


「……誰なんだ、お前は」

夢の中で問いかけても、そいつは決して答えない。

ただ、赤い瞳のまま静かに笑う。


――“鍵を集めろ”

――“来い、炎の遺跡へ”


低く響く声とともに、夢は消える。


朝、目を覚ますたび、胸の奥に焦げついたような違和感だけが残った。


◆1.山脈への道


風の遺跡の情報をもとに、リオンと沙月は北側にそびえる「カルナ山脈」の東へ向かっていた。


村からは三日ほどの道のり。

周囲の木々は次第に針葉樹に変わり、空気は冷たく澄んでいく。


「ここ、本当に山の入口なの? なんだか……空気が重い感じがする」

沙月は肩を抱いて周囲を見回す。


リオンは魔力感知で空気の流れを読む。

「魔素が濃い。

 でも、風の遺跡みたいな自然の流れじゃない。

 ……もっと“人工的”だ」


山を覆う雲は赤みを帯び、どこか焦げ臭い匂いが混じっていた。


その時、地面が、わずかに震えた。

「……今の、地震?」


リオンは首を振る。

「違う。山の中で何かが動いてる」

「魔物?」

「いや……これは、もっと大きい」


山脈全体が“何かの意志”を持っているかのようだった。


◆2.隠された入口


三日目の夕方。

巨大な岩壁の前に到達したときだった。


「ここ……風の遺跡の鍵が反応してる」

リオンの手のひらで、銀色の羽根が淡く光る。


その光に呼応するように、岩壁の紋様が浮かび上がり、赤い光の線が走った。


――炎の遺跡、入口認証。


重厚な岩が、ゆっくりと左右に割れ、赤い光に満ちた“地下への階段”が現れた。


「……うわ」

沙月が一歩後ずさる。

「なんか、思ったよりホラーな入口だね」


リオンは深呼吸し、階段へ足を踏み入れた。


◆3.灼熱の試練場


中は、まるで巨大な火山の内部だった。

赤い溶岩流が壁を照らし、炎の柱がゆっくりと揺れている。


「すご……こんな場所、どうやって作ったの?」

沙月は熱気に圧倒されながらも、目を輝かせた。


リオンは壁に触れ、鑑定眼を起動する。

「……やっぱり。これも人工的な構造だ。

 魔力の流れを人工的に循環させて、熱を制御してる。

 前世の“熱制御プログラム”に似すぎてる……」


その時、奥から声が響いた。


「――よく来たね、リオン」


リオンは反射的に振り返った。

沙月が息を飲む。


炎の揺らめく中に、ひとりの少年が立っていた。


リオンと同じ顔。

同じ身長。

同じ声。


ただ――その瞳だけが燃えるような赤だった。


◆4.“もう一人の自分”


少年はゆっくりと歩み寄ってくる。

その足音が、溶岩の熱で空気を歪ませながら響く。


「……誰だ。お前は」

リオンは無意識に構えた。


少年は笑う。

「言っただろ? “お前のもう一人”だよ」


沙月がリオンの袖をつかむ。

「リオン……この人、どういうこと?」


少年は胸に手を当て、堂々と言い放つ。


「俺は《RION_CORE-α》 神が設計した“創造核の完全版”だ」


リオンは顔をしかめる。

「俺の……後継モデルか何かのつもりか?」


「違う。お前は“β版”だ」

「β……?」


少年は赤い瞳を細め、熱のこもった微笑みを浮かべた。


「神は失敗を恐れた。

だからまず、お前――“β版”を世界に放った。

そしてここで、完成版の俺が“最終検証”を行うはずだった」


胸が大きく脈打つ。

沙月が震えながら言う。

「じゃあ……あなたは、リオンと戦うために作られたってこと?」


少年は笑った。

「ただの戦いじゃない。

 “β版”を破壊し、世界の管理権限を俺に統合させる。

 本来、それがこの遺跡の役割だ」


リオンは拳を握りしめた。

「ふざけるな」


赤い瞳の少年は一瞬だけ哀しそうな顔をした。

「……でも、仕方ないだろ。俺たちは“神のプログラム”なんだから」


◆5.試練の炎


遺跡全体が赤く光り始めた。

天井から炎の柱が降り注ぎ、床の紋様が燃え上がる。


――炎の試練、起動。

――条件:創造核の優劣判定。


「リオン!!」

沙月が後ろへ下がる。


リオンは一歩前に出た。

目の前には、自分と同じ顔をした“完全版”。

力の差は歴然だった。


「さあ、始めようか」

少年が炎を手に集める。


ゴォォォォォ――ッ!!


その炎は、生物の形をとり、巨大な“炎の獅子”となってリオンへ襲いかかった。


リオンは後退しながら叫ぶ。

「創造魔法・冷却! 解析式・氷結!」


空中に複数の魔法陣が浮かび、冷気の矢が炎の獅子めがけて降り注ぐ。


だが――


「無駄だよ。俺は“炎の遺跡”に最適化されている」


獅子の炎はさらに勢いを増し、リオンの氷を瞬時に蒸発させた。


リオンの背中を冷たい汗が伝う。

焦げた臭いが鼻を刺す。

このままでは負ける。

だが――


その時、沙月の声が飛んだ。


「リオン! あなたは“β”でも、この世界で“生きてきた”リオンなんだよ!」


その言葉に、胸の奥が強く震えた。


(そうだ……俺は、ただのプログラムなんかじゃない)

(家族がいて、仲間がいて……この世界で生きてきた)


リオンは大きく息を吸い込む。


「なら――俺は俺で勝つ!」


◆6.β版の反撃


リオンは魔法パネルを一気に展開した。

風の遺跡で得た“風の鍵”が青白く光る。


「創造魔法――合成式!」


風の魔力が渦巻き、

一瞬で巨大な“冷気の竜巻”となって炎の獅子にぶつかった。


轟音!

火と氷がぶつかり合い、赤と青の光が爆発する。


炎の獅子の勢いが少しだけ弱まった。

しかし、それでも消えない。


赤い瞳の少年が笑う。

「悪くない。でも――“完全版”には届かない」


再び炎を生み出そうとした瞬間、リオンが叫ぶ。


「届かなくていい。俺は誰かの完成版になるために生まれたんじゃない!」


彼は地面に手をつき、ありったけの魔力を魔法陣に流し込んだ。


「創造魔法――“冷風嵐陣レイ・ストーム!”」


竜巻が溶岩を巻き上げ、遺跡が揺れるほどの冷気を解き放つ。


炎の獅子が悲鳴をあげ――

ついに、光の粒となって霧散した。


◆7.完全版の涙


赤い瞳の少年は、静かに手を下ろした。

やがて、かすかに震える声でつぶやいた。


「……すごいな、β版」


その目にうっすらと涙が浮かんでいた。


「俺には……なかった。 “誰かの声に応える力”が。 “誰かのために戦う理由”が」


リオンは歩み寄り、手を差し伸べた。

「お前は俺だろ。なら、これから探せばいい」


少年はしばらく黙っていたが――

やがて静かにその手を握った。


「……ありがとう、リオン」


遺跡の天井が光り、試練の完了を告げる紋様が輝き出す。


――炎の鍵、授与。


手のひらに、赤い炎の羽根が現れた。

リオンはそっと握りしめた。


赤い瞳の少年は、薄れゆく光の中で微笑む。


「次は……“水の遺跡”だよ。 気をつけて……β版」


光は完全に消え、遺跡は再び静寂に包まれた。


沙月がそっとリオンの腕に寄りかかる。

「……リオン、大丈夫?」


リオンはゆっくりとうなずいた。

「うん。でも――この先が本当の始まりだ」


炎の鍵が、手の中で熱く脈打っていた。

炎の鍵を手にしたリオンと沙月が次に向かうのは、

巨大な湖の底に眠る“水の遺跡”。

そこで待っていたのは、静かで優しい声――

しかしその声は、リオンの心を揺らす“ある真実”を告げる。

次回――7歳:水の遺跡 ― 深淵の記憶 ―

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