7歳編・第7話:風の遺跡 ― 記録されし“RION_SYSTEM_01” ―
森の奥に、奇妙な風の音が響いていた。
ざわざわと葉を鳴らすそれは、まるで誰かが言葉を紡いでいるような、不思議な“旋律”を持っていた。
「……この風、普通じゃないな」
リオンは足を止めた。
沙月が首をかしげる。
「音が……声みたいに聞こえる」
風は、まるで彼らを誘うかのように吹き抜けていく。
その先――
森の木々の間に、人工的な石造りの遺跡が姿を現した。
◆1.封じられた入口
それは、自然の中には明らかに不釣り合いな建造物だった。
円形の広場に、複数の柱が立ち並び、中央には巨大な石扉がそびえ立つ。
その扉には、古代語でこう刻まれていた。
【RION_SYSTEM_01 風の記録層】
「……システム?」
沙月が呆然とつぶやいた。
リオンの心臓が、どくん、と跳ねた。
“RION”。
それはこの世界での彼の名――だが同時に、前世の亮介が作った人工知能プログラムの名称でもあった。
(まさか……俺の開発してたシステムと、同じ名前?)
冷たい汗が背中を伝う。
ここが、ただの古代遺跡ではないことを、本能が告げていた。
◆2.目覚める声
石扉に手を触れると、淡い光が走った。
刻印が反応し、空気が震える。
――アクセスコード、認証完了。
――管理者識別:“藤堂亮介”。
「ッ!? なんで俺の……!」
沙月が驚愕してリオンを見る。
「藤堂……って、前の世界の……?」
リオンは唇をかみしめた。
この遺跡は、明らかに彼の前世の情報にアクセスしている。
「……入るしかない」
彼は扉に魔力を流し込み、重い音とともに石扉が開いた。
中は暗闇。だがその奥で、青いホログラムのような光がゆらめいている。
「――おかえりなさい、マスター」
澄んだ女性の声が洞窟内に響いた。
その姿が、ゆっくりと光の中に現れる。
銀色の髪、無表情な顔、そして瞳に宿る青の光。
それは、リオンがかつて自分のAIに組み込んだ人格モデルそのものだった。
「私の名は《イリス》。あなたが設計した補助思考体です」
◆3.創造主の記録
イリスの背後に、いくつもの光のパネルが浮かび上がる。
そこには、かつて亮介が開発していた“仮想空間創造アルゴリズム”の設計図が並んでいた。
「これ……俺の研究データだ」
リオンが息を呑む。
イリスが静かにうなずく。
「マスターの世界の技術は、この世界の“創造神”に転用されました。
神はあなたの記憶を“原型”として、この世界の構造を構築したのです」
「……つまり、この世界は俺のプログラムをベースにして作られたってことか」
「はい。そしてあなたは“創造核”の断片として、この世界に転生させられた」
リオンの心臓が痛む。
神のミス。
あの日、転生の瞬間に感じた“バグ”のような違和感。
それが、これで繋がった。
沙月が不安げに尋ねる。
「それって……リオンが、この世界の一部ってこと?」
イリスが答える。
「正確には、“管理者権限”の保持者。あなたが死ねば、この世界の基幹が不安定化します」
「……なんてこった」
◆4.試練のコード
イリスが一歩前に出る。
「マスター。この施設には、神が遺した試練が存在します。それを乗り越えた者に、次の“鍵”が与えられる」
「鍵?」
「創造システムを制御するための、“風の鍵”です。あなたが望むなら、試練を起動します」
リオンはしばらく沈黙した後、うなずいた。
「やるよ。……逃げたくない」
「試練開始――」
床が光り、足元に魔法陣が浮かぶ。
周囲の空気が渦を巻き、突風が吹き荒れる。
沙月の姿が霞み、視界が白く染まった。
◆5.風の試練
風の中、リオンは無数の幻影に囲まれていた。
それは過去の自分――
研究室で孤独に過ごす藤堂亮介の姿だった。
「お前は何を作った?」
「自分を神にでもしたつもりか?」
「救いたい? 結局、誰も救えなかったくせに」
幻影の言葉が、刃のように胸に突き刺さる。
(違う……俺は、ただ“誰かの役に立ちたかった”だけだ)
リオンは拳を握りしめ、叫んだ。
「確かに俺は過去を悔やんでる!
でも今は――この世界で、みんなを守るために生きてるんだ!!」
その瞬間、風が一瞬で止まった。
幻影が崩れ去り、光が彼を包み込む。
――試練、完了。
イリスの声が再び響く。
彼の手の中には、銀色の小さな羽根が現れていた。
「それが“風の鍵”。次の施設――“炎の遺跡”への道を開くものです」
リオンは深く息をつき、静かにそれを握りしめた。
◆6.封印されし真実
外へ出ると、夕陽が森を金色に染めていた。
沙月が駆け寄る。
「リオン! 大丈夫だった?」
「うん……少し、思い出したよ」
「思い出した?」
リオンは空を見上げながらつぶやいた。
「この世界を作ったのは、神じゃない。
……“人間”だ」
沙月が息をのむ。
風が二人の間を抜けていった。
それはまるで、誰かが笑っているような音だった。
“風の鍵”を手にしたリオンと沙月。
次に向かうは、山脈の奥深くに眠る“炎の試練”。
だがその地で、彼らを待っていたのは――
神に創られた“もう一人の自分”だった。
次回――7歳:炎の遺跡 ― 灯るは原罪の火 ―




