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7歳編・第5話:封印の紋章 ― 静かなる呪い ―

朝の陽光が差し込む台所で、リオンはパンのような焼き菓子をかじっていた。

昨日の暴走事件から一晩。村はようやく落ち着きを取り戻していた。


だが、リオンの胸の奥では、まだ不穏な波が渦を巻いていた。

神の声。代償。魂を縛る契約。

それらは夢ではなく、確かな“記録”として彼の中に残っている。


◆1.刻まれた紋章


「リオン、腕、どうしたの?」


朝食を運んできたエルナが心配そうに尋ねた。

リオンは慌てて袖を下げる。


だが、その瞬間。

袖の隙間から、淡く青く輝く紋様が見えた。


それは蔓草のような模様が手首から肘にかけて這い上がるように広がり、まるで生きているように微かに脈打っている。


「……なんでもないよ。昨日ちょっと転んで、傷が残っちゃっただけ」


エルナは眉をひそめたが、深くは追及しなかった。

だが、沙月はその光を見逃さなかった。


朝食後、彼女は小声でリオンに囁く。

「ねぇ……その腕、見せて」


リオンはため息をつき、静かに袖をまくる。

青白い光が、空気の粒を震わせた。


「これ……呪印だね」


沙月の声が震えていた。

「神に触れた者や、禁忌の魔法を使った者にだけ刻まれるって……

 この世界じゃ、“封印の紋章”って呼ばれてる」


「……やっぱり、そうか」

リオンは苦笑する。

「創造魔法を使ったときに、何か入れられた気がしたんだ。多分、これが“代償”なんだろうね」


沙月は拳を握る。

「そんなの……酷いよ。せっかく村を助けただけなのに」


リオンは静かに首を振った。

「神様にとって、僕みたいな存在は“エラー”なんだ。

 世界の法則を乱すコードは、修正される。

 そういう仕組みなんだよ」


◆2.奇妙な異常現象


その日の午後、村では小さな異常がいくつも起きた。


水汲み場の桶が突然浮かび上がる。

畑の作物が一斉に風もないのに揺れる。

井戸の水面に、青白い光の輪が浮かび上がる。


「またリオンの魔法か?」

「いや、違う……リオンくん、今日は畑にも出てないぞ」


村人たちはざわつく。


リオンはすぐに駆けつけ、井戸の前で魔力の波を感じ取った。

(……この波動、僕のものに似てる)


彼の右腕がわずかに疼く。

紋章が青く光り、脈動を始める。


「っ……!」

痛みが走るたび、井戸の水が激しく揺れた。


「リオン! やめて!」

沙月が叫ぶ。


彼は必死に制御しようとするが、魔力は紋章から逆流してくる。

(まるで……この世界の魔素と僕の魔力が、繋がってるみたいだ)


頭の中に声が響く。


『創造者よ――制御を手放せ。世界は均衡を求める。お前の存在が歪みを生む。』


「うるさい!」

リオンは叫び、地面に手を叩きつけた。


「この世界の均衡なんて知るか! 僕は、誰も傷つけない“創造”がしたいだけなんだ!」


その瞬間、紋章が光を放ち、井戸の周囲に青い紋様が広がった。

地面に幾何学的な魔法陣が描かれ、水は穏やかに静まっていく。


だが、代わりにリオンの体から力が抜けた。


◆3.命を削る魔法


「リオン! しっかりして!」

沙月が抱きかかえる。


リオンの肌は冷たく、呼吸も浅い。

紋章は今も淡く光り続け、まるで“生きた枷”のように彼を締めつけている。


「……また、代償か」

リオンはかすかに笑った。

「この封印、魔力を使えば使うほど……僕の生命力を吸ってるみたいだ」


沙月は涙をこらえながら叫ぶ。

「もう使っちゃダメ! ねえ、お願いだから!」


「でも、僕が止めたら……村が困る。

 せっかくみんなが笑ってくれるようになったのに、それを壊すのは嫌なんだ」


「リオン……」


彼は小さく手を伸ばし、沙月の頬を撫でる。

「僕は、前の世界で“何も守れなかった”。 今度こそ……守りたい。家族も、村も、全部」


その瞳に、決意と哀しみが混じる。


◆4.“封印”の真実


数日後。

リオンは村外れの小屋で、紋章の解析を始めた。


「この構造……“自己増殖型制御式”か。

 なるほど、神の力そのものをプログラム的に封じ込めてるわけだ」


彼の言葉は、この世界の誰も理解できない“前世の専門語”だった。

だが、彼の手の中で光る魔法陣は、確かにコードのように組み上がっていく。


「要するに……この封印は“創造者を暴走させないためのリミッター”だ」


「リミッター?」と沙月が尋ねる。


「うん。簡単に言えば、僕が全力を出すと世界が壊れるかもしれない。

 だから神様は、その暴走を止めるために“命を削る仕組み”を組み込んだ」


「でも、それって……」


「そう、命の燃料を削って使う魔法ってこと。でもね、プログラマーとしての癖が残ってる。“仕様”があるなら、“バグ”もある」


リオンの口元が、少しだけ笑みを浮かべた。


「いつか……この封印を“再構築”してみせる」


◆5.微笑みの夜


その夜。

村は再び静かな日常を取り戻していた。

暖炉の前で、家族が集まっている。


リリィが笑いながらリオンの膝に乗り、ダリウスがワインを飲んでいる。

母エルナは編み物をしており、沙月はその隣でハーブティーを淹れている。


「こうしてると……幸せだね」

沙月が呟く。


リオンは微笑んだ。

「うん。これを守るためなら、どんな封印でも乗り越える」


そして彼は、窓の外の星空を見上げた。

その瞬間、右腕の紋章が微かに光る。


『創造者よ――“均衡”はまだ保たれている。だが、その光が増すとき、世界は再び揺らぐ。』


リオンはその声を聞きながら、静かに目を閉じた。


(……構わない。僕はもう、止まらない)

封印の影響で、村の地下に眠る“魔素の泉”が暴走。

リオンは再び、世界の構造そのものに挑む。

次回――7歳:消えた湖

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