7歳編・第4話:創造の暴走 ― 神々の視線 ―
朝靄が晴れ、村に太陽の光が差し込む。
リオンは庭の片隅で、昨日仕込んだ“土壌改良剤”の効果を確かめていた。
土の上に小さな芽が顔を出している。
それは、昨日まで石のように硬かった地面から生まれた命だった。
「……成功、かな」
リオンは微笑んだ。
隣では沙月が興味深そうに覗き込んでいる。
「でも、普通の種なのに、もう芽が出てるよ? 一晩しか経ってないのに」
「うん……。もしかしたら、創造魔法の“流入率”が高すぎたのかも」
リオンは眉をひそめた。
自分の使う“創造魔法”は、世界の“根源情報”――つまり、この世界の物理法則や生命の設計図を直接書き換える特別な魔法。
神格に近い力であるがゆえに、扱いを誤れば容易に“世界の秩序”に干渉してしまう。
◆1.異変の兆し
昼過ぎ。
村の畑の一角に、異変が起きた。
「おい! 見ろ、あの作物……!」
村人の一人が叫ぶ。
そこには、リオンが撒いた区画から異常なほど成長した植物が生い茂っていた。
まだ三日しか経っていないのに、人の背丈ほどに伸びている。
「な、なんだこれは……!」
「魔法か? 呪いか?」
村人たちはざわつく。
誰もがその異様な光景に、恐れを隠せなかった。
リオンは唇を噛む。
(しまった……やっぱり調整が甘かった)
彼はすぐに魔力を流し、制御を試みた。
だが――
――ヴィィィィィン……
空気が震える。
植物から淡い緑色の光があふれ、周囲の空間が歪み始めた。
「リオン、危ない!」
沙月が叫ぶ。
リオンは即座に詠唱を切り替える。
「制御式第七層、展開――“領域封鎖”!」
青白い結界が畑を覆い、暴走を押し込めた。
しかし、その瞬間。
――ザワ……ザワ……
頭の奥で何かが囁く。
声。いや、意識。
人間ではない、遥か上位の存在の声だ。
◆2.神々の視線
『……誰だ、この世界の情報構造に干渉しているのは……?』
『下界の魂ではない。……転生者か』
リオンは息を呑む。
その声は、直接脳に響いてくる。
神域からの通信。――つまり、“上位存在”が彼に気づいた。
『名を名乗れ、異端の創造者よ』
「……リオン・レインフォード」
自然と名が口をついた。
『レインフォード……聞き覚えはない。
だが、その魂の輝き……“藤堂亮介”か』
リオンの身体が震える。
(なぜ、その名前を……!?)
『貴様は一度、神の干渉領域で“自己消去”を行った。本来なら存在してはならぬ魂だ。なぜ、再び創造を行う?』
リオンは拳を握る。
「僕は……ただ、家族を守りたいだけだ!
この村の人たちを、幸せにしたいんだ!」
沈黙。
やがて、低く響く声が応えた。
『……ならば、試練を与えよう。
創造の力を持つ者には、等しく“代償”が伴う。
それを受け入れられるなら、この世界に留まるがいい』
「代償……?」
その言葉とともに、視界が白く染まった。
◆3.代償の発現
気がつくと、リオンは地面に膝をついていた。
周囲の光は消え、暴走した植物も静かになっている。
沙月が駆け寄り、彼の肩を支える。
「リオン! 大丈夫!?」
「……ああ……でも……」
彼の右腕が、淡く透けていた。
皮膚の下で、魔力の回路がむき出しになっているような感覚。
「な、なにこれ……」
「多分……“代償”。創造魔法を無理に使ったから、身体が分解されてる……」
沙月は泣きそうな顔で叫ぶ。
「もう使っちゃダメ! 命がけの魔法なんて!」
リオンは苦笑した。
「ごめん。でも、もう止まらなかったんだ」
彼は両手を地面に当て、再び詠唱する。
「――“再構成”」
淡い光が腕を包み、ゆっくりと元に戻っていく。
だが、その途中で神の声が再び響いた。
『覚えておけ、創造者。“命を創る”ことは、“死を招く”ことでもある。
世界は均衡を望む。お前が与えるなら、何かが奪われる。』
声は消えた。
リオンは沈黙の中で拳を握る。
(……神々に、見つかったか)
◆4.選択と誓い
その夜。
リオンは囲炉裏の前で、沙月と向き合っていた。
「……僕、やっぱり怖い。
この力を使えば、誰かを救えるかもしれない。
でも、また同じように失うかもしれない」
沙月は静かに彼の手を握る。
「それでも、あなたが“守りたい”って思うなら、その気持ちは本物だよ」
「……沙月」
「神がなんて言おうと、リオンくんはリオンくん。この世界で、ちゃんと生きてる」
その言葉に、リオンの胸が熱くなる。
彼は小さく笑った。
「ありがとう。じゃあ……僕は、もう一度この世界を信じてみるよ」
「うん。私も一緒にいるから」
◆5.夜明け、芽吹き
翌朝。
畑に出ると、昨日の暴走で枯れかけていた植物が、静かに芽吹いていた。
異常な光は消え、穏やかな生命の息吹だけが残る。
リオンは膝をつき、指でその葉をなでた。
「……大丈夫。今度は、ちゃんと成長してる」
沙月が微笑む。
「ねえ、見て。太陽、すごく綺麗」
二人の背後で、村の人々もその光景を見守っていた。
昨日の恐れは消え、代わりに感謝と驚きが広がる。
「リオン、すごいな……この畑、助かったよ」
「やっぱり、あの子は神に選ばれたんだ」
リオンは首を振る。
「神様なんて関係ない。ただ、僕たちが生きるためにやっただけ」
そう言って笑う彼の瞳は、確かに“創造者”のそれだった。
神々が残した“刻印”が、リオンの身体に現れる。
創造の代償、それは――運命を縛る“呪”のはじまり。
次回――7歳:封印の紋章




