7歳編・第3話:ふたりの約束、はじまりの村
森を抜け、村の輪郭が見えてきた。
柔らかな朝の光が、木々の隙間から差し込み、二人の影を長く伸ばす。
リオンは振り返って、泥だらけの少女――沙月を見た。
「もう少しで村だよ。人のいるところまでは安全だから」
沙月はおずおずと頷いた。
「……リオンくん、私……本当に、行っていいの?」
「もちろん。君を森に置いていくなんてできないよ」
リオンは迷いなく言った。
その言葉に、沙月は小さく微笑む。
その笑顔は、怯えの中にも少しの希望を取り戻したようだった。
◆1.村人の反応
だが、村の門をくぐった瞬間。
人々の視線が二人に集まった。
農具を持った男たち、洗濯物を干していた女たち。
誰もが沙月の姿を見て眉をひそめた。
「おいリオン、そいつは誰だ?」
「見たことねえ子だな。森の中にでもいたのか?」
リオンは一歩前に出る。
「森で倒れてたんだ。怪我もしてたし、放っておけなくて」
村人たちの間にざわめきが走る。
「森の子だと? まさか魔物の子じゃ……」
「やめとけ、変な病気でも持ってたらどうする」
沙月の顔が青ざめる。
リオンは彼女の前に立ちはだかった。
「この子は“人間”だ! ちゃんと話もできるし、僕が保証する!」
だが、村人の不安は簡単には消えなかった。
それどころか、恐怖が不信を呼び、彼らの視線はより冷たくなる。
◆2.家族との対話
そのとき――
「リオン!」
母リーナが駆け寄ってきた。
リオンの姿を見つけるやいなや、彼を抱きしめる。
「もう! どこに行ってたの、心配したのよ!」
「ごめん、でも聞いて。森でこの子を見つけたんだ」
リオンは沙月を指差した。
リーナは一瞬驚いた表情を浮かべ、少女を見つめた。
「まぁ……まぁ、なんてこと……」
彼女はしゃがみ込み、優しい声で沙月に話しかけた。
「大丈夫? 怖かったでしょう。お腹、すいてない?」
沙月の瞳が揺れる。
「……はい……」
その瞬間、リオンの胸の中で温かいものが広がった。
(やっぱり母さんは、優しい)
リーナは村人たちを振り返る。
「この子は、リオンが助けた子です。私たちの家で預かります。
異を唱える人は、まずこの子の目を見なさい」
村人たちは顔を見合わせ、黙り込む。
その沈黙が、了承の証だった。
◆3.新しい日常の始まり
その日の夕方、家の囲炉裏の火が温かく燃えていた。
沙月は簡易の布団に包まりながら、久々の安心感に身を委ねていた。
リリィが好奇心いっぱいの目で覗き込む。
「おねえちゃん、森の中に住んでたの?」
「ううん……ちょっと迷っちゃっただけ」
「じゃあ、リオンに助けてもらったんだね!」
リリィは嬉しそうに笑う。
「そうだよ、リオンくんがすごかったの!」
沙月は笑顔でそう言った。
リオンは照れくさそうに後頭部をかく。
「いや、運がよかっただけだよ。ほんとに危なかったんだ」
母リーナは鍋をかき混ぜながら、にこやかに言った。
「うちに来たのも何かの縁ね。落ち着くまでここにいなさい」
沙月の目に涙が浮かぶ。
「……ありがとうございます……」
◆4.夜の告白
夜。
家族が眠りについたあと、リオンは囲炉裏の火のそばでノートを開いていた。
そこには、今日の出来事と、沙月との出会いが記されている。
沙月がそっとやって来る。
「眠れないの?」
「うん、色々考えててね」
彼女は火の明かりに照らされたリオンを見つめる。
「ねえ、リオンくん。ひとつだけ、聞いてもいい?」
「うん」
「……“現世”のこと、後悔してる?」
リオンは少しだけ目を伏せた。
「後悔……してるよ。でも、もう戻れないし、戻っちゃいけないと思ってる」
「なんで?」
「僕は、神様に頼んだんだ。“生きていた証を全部消してください”って」
沙月は息をのむ。
「……そんなこと、どうして」
「子供を助けるために死んだんだ。
その子が僕のせいでトラウマを持たないようにと思って……
でも、神様が間違えて、僕の作ったシステムまで全部消しちゃったらしい」
沙月は言葉を失った。
静かな夜に、薪のはぜる音だけが響く。
リオンは微笑む。
「でもね、今はもう“別の世界”でやり直せる。
今度は誰かのためにじゃなく、“みんなと一緒に生きる”ために」
その言葉に、沙月の目が熱くなった。
「……私も、ここで頑張る。リオンくんの隣で」
リオンは頷いた。
「じゃあ、約束だ」
二人は拳を合わせる。
――それが、彼らの最初の“誓い”だった。
◆5.夜明けと希望
翌朝。
村の空は快晴だった。
リオンは庭に出て、畑の隅に小さな木箱を置いた。
中には、創造魔法で作った“土壌改良剤”の試作品が入っている。
「これを試せば、もっといい作物ができるかも」
沙月が隣で首を傾げる。
「まるで研究者みたいだね」
「うん。僕たち、ちょっとした“技術者コンビ”ってことで」
二人は笑い合う。
村の子供たちが近くを走り抜け、リリィの笑い声が響く。
――温かい、居場所がある。
それは、リオンが前世でどれだけ求めても得られなかった“家族の時間”だった。
彼の胸の中で、静かに言葉がこだまする。
(もう二度と、ひとりにはならない)
村のための実験が、予想外の結果を生む。
小さな奇跡が、やがて“神々の干渉”を呼び寄せる――。
次回――7歳:創造の暴走




