6歳編・第11話:生命のコード
春の息吹が、森の奥からそっと流れ込む頃。
雪はすっかり溶け、村の畑には芽吹いた緑が並んでいた。
リオンは小川のほとりに座り、掌に光を灯す。
「創造魔法……発動」
淡い青光が、手のひらから水面に広がる。
そこに泳ぐ小魚たちの体が透け、細かな線や文字のような模様が浮かび上がった。
『生命情報:形態構造・流動パターン・循環エネルギー……解析中』
リオンの目に、薄いパネルが現れる。
そこには数字や紋様が並び、まるで生命の設計図のようだった。
「……これが、“生命のコード”か」
風が頬を撫でる。
小さな魚が水面に跳ね、光の粒が弾けた。
◆1.新しい魔法体系の発見
リオンは創造魔法を独学で研究してきた。
石・水・木――すべて“素材”として扱えるようになった。
だが、この“生命”は、まるで別次元だった。
「素材を再構築するだけじゃない……エネルギーの循環そのものを模倣する……」
指先でパネルをなぞると、数字が微かに動き、魚の泳ぎ方が変わった。
「反応した……!?」
彼は息をのむ。
それは、まるでプログラムを書き換えるような感覚。
一つの数字、一つの文様が、生き物の動きを左右する。
(まるで、生命そのものが“創造データ”の一部みたいだ)
そして気づく。
創造魔法は、単なる“物質変化”ではない。
世界の情報を再編する力――それが本質だった。
◆2.禁忌の匂い
「ぴぃ……」(それ、ちょっと危ないかも)
ピィが木の枝から降りてくる。
「どうして?」
「ぴぃ。命を“書き換える”のは、神様の領分だって、昔から言われてる」
「……でも、もし苦しむ命を助けられるなら?」
ピィは目を細めた。
「……ぴぃ。そういうとき、お前はいつも“優しすぎる”」
リオンは苦笑した。
確かに、そうかもしれない。
だが――この世界には、病やケガで苦しむ人も多い。
創造の力で少しでも救えるなら、それは意味のあることだと信じていた。
◆3.“命”を創るということ
翌日。
森の奥で、リオンは再び実験を行った。
倒れた小鳥。
翼が折れ、息も絶え絶えだ。
「大丈夫……怖くないよ」
両手をかざし、魔法陣を描く。
「創造融合式」
青い光が小鳥を包む。
折れた骨が滑らかに繋がり、羽がゆっくりと動き始める。
「……っ」
リオンの視界に、新たな文字が浮かんだ。
【命の修復 成功】
【創造ポイント:不明(エネルギー循環型)】
小鳥が目を開け、震えるように鳴いた。
「チィ……チィ!」
その瞬間――リオンの中に、奇妙な感覚が走る。
心臓が、同じリズムで鼓動しているような。
(まるで……ぼくと“命”が繋がったみたいだ)
小鳥は空へ舞い上がり、森の向こうへ飛んでいった。
その姿を見送りながら、リオンは静かに息をついた。
◆4.神の声
その夜。
夢の中に、再び“あの声”が響いた。
『リオン・レインフォード。お前はまた一歩、踏み越えた。』
光の中に立つ神の影が、静かに語る。
『創造とは、命を与える行為。
だが、それは同時に“死を選ぶ権利”をも意味する。』
「死を……選ぶ?」
『命を創る者は、命を奪う者にもなる。
それが“創造主”の宿命だ。』
リオンは首を振る。
「ぼくは、そんなこと……!」
『いつか選ばねばならぬ時が来る。
その時、お前は“壊さない創造”を貫けるか?』
光が消え、闇が広がる。
遠くで小鳥の声が聞こえた。
◆5.決意と一輪の花
朝。
目を覚ましたリオンは、家の裏庭に出た。
そこに――昨夜の小鳥がいた。
羽を休め、土の上に何かを落としている。
一輪の花。
「これ……」
雪の残る土に、淡い桃色の花が咲いていた。
生命のコードに刻まれた、“感謝”の記録。
「ありがとう、ってことなのかな」
リオンは花をそっと手に取り、胸に当てた。
「ぼくは――創ることで、誰かを救いたい」
ピィが小さく羽ばたいた。
「ぴぃ……それが、お前の道なら、止めない」
リオンは空を見上げた。
春の風が頬を撫で、遠くで小鳥が鳴く。
――創造の力は、命をも形づくる。
その重みを知った少年は、今、真の“創造者”への道を歩き始めた。
村に春が訪れ、リオンは初めて外の世界へと出る。
父の荷車を手伝い、街道を越えたその先で――“同年代の少年少女”と出会う。
才能を持つ少年たちとの邂逅が、彼の運命を大きく動かしていく。
次回、「旅立ちの道と、出会いの街」。




