6歳編・第10話:リリィの笑顔と、冬の初雪
霧の異変が収まってから数週間が過ぎた。
村は平穏を取り戻し、風車は今日も軽やかに回っている。
空は透き通るように青く、冷たい風が木々を揺らした。
季節は冬。
リオンがこの世界で二度目の冬を迎えようとしていた。
◆1.妹の笑顔
「おにいちゃん! 見て!」
リリィが両手を広げ、庭の雪を蹴り上げた。
真っ白な粒が舞い、朝日を反射してきらきらと光る。
リオンは思わず笑った。
「すごいね、リリィ。雪、好き?」
「うん! つめたいけど、きれい!」
その無邪気な声に、リオンの胸がじんと温かくなる。
前世では――そんな声を聞くことが、夢のようだった。
(……家族って、こういうことなんだな)
ブラック企業で、昼も夜もなく働き続けていたあの頃。
人のぬくもりを感じる暇もなかった。
ただ数字と納期に追われ、気づけば年齢だけが重なっていた。
今、小さな妹の笑顔を見るたびに、“あの頃の空白”が、少しずつ埋まっていく気がした。
◆2.雪の創造遊び
「おにいちゃん、これ、なに?」
リリィが指差したのは、リオンが雪の上に描いた円。
その中に複雑な模様が刻まれている。
「魔法陣だよ。雪を溶かさずに、形を変える魔法」
「へぇ〜!」
リリィが目を輝かせる。
「創造魔法!」
青い光が走り、雪がふわりと浮かぶ。
それが徐々に丸みを帯び――白いウサギの形になった。
「わぁ! ウサギさんだ!」
「ふふっ、ほら、こっちにも」
もう一つ魔法陣を描くと、雪が滑らかに形を変え、リリィの顔を模した雪像ができた。
「これ、リリィ?」
「うん、似てるでしょ?」
「にてるー!」
リリィは自分の分身に抱きついて、笑い転げた。
ピィがその肩に止まり、小さく囁く。
「ぴぃ(リオン、やさしいね)」
「……ぴぃ。ぼく、これがしたかったんだ」
ピィは首を傾げる。
「ぴぃ?」
「“誰かのために創る”。 それが、一番楽しい」
風が雪を運び、ウサギとリリィの雪像がゆっくり揺れた。
それはまるで、幸せそのものの光景だった。
◆3.父の手、母の言葉
昼下がり。
父ダリウスが薪を抱えて戻ってきた。
「おーい、二人とも、風邪をひくぞー」
「うわー! 父さん、薪いっぱい!」
「当たり前だ。冬に備えねばな」
ダリウスは笑い、雪像を見て目を丸くした。
「……お前、すげぇな。これ、魔法で作ったのか?」
「うん。創造魔法で、雪の形を固定したの」
「創造魔法……やっぱり、リオンは特別だな」
「え?」
「いや、なんでもない。お前が村にいてくれて、本当に助かってるよ」
その言葉が、胸の奥にあたたかく響いた。
家に戻ると、母エルナが夕食の支度をしていた。
鍋の中では、森で採れたキノコと野菜のスープがぐつぐつと煮えている。
「リオン、火加減を見てくれる?」
「うん!」
リオンは魔法で火力を安定させた。
「創造魔法」
赤い光がかすかに灯り、炎が一定の大きさで燃え続ける。
「まぁ、便利ねぇ……。昔の人たちが見たら驚くわよ」
エルナが笑う。
「母さん、これがあれば焦げないし、燃料の無駄もないよ」
「ほんとに、頼りになる子ね」
その言葉に、リオンは小さく頷いた。
◆4.初雪の夜
夕方。
窓の外では、再び雪が舞っていた。
静かに、しんしんと降り積もる白。
暖炉の前で、家族三人と一羽が寄り添う。
スープの香りと、薪の焦げる音。
リリィは膝の上で眠り、ピィはその髪の上で丸くなっていた。
「……ねえ、父さん」
「ん?」
「ぼく、この村をもっと便利にしたい。冬でも、困らないように」
ダリウスは少し驚いたように笑った。
「お前、本当に村を変えるつもりか?」
「うん。だって、みんなが楽になるなら、いいことだと思う」
「……立派だな」
父はリオンの頭に手を置き、ゆっくり撫でた。
「お前は、俺たちの誇りだ」
リオンはその言葉に、目頭が熱くなった。
「ありがとう……父さん」
その夜、夢を見た。
雪の中に、誰かが立っていた。
白い光をまとった“神の影”。
『お前は、正しく“創っている”。だが忘れるな――創造とは、同時に“破壊”でもある。』
リオンは何も言えず、ただその光を見つめた。
『いずれ選ばねばならぬ。守るために創るか、壊すために創るか――』
夢が消え、目を覚ますと、窓の外には夜明けの雪。
太陽の光を受けて、世界がまばゆく輝いていた。
「……きれいだな」
リリィが寝ぼけ眼で言った。
「おにいちゃん、ゆき、ひかってる」
「うん、世界が笑ってるみたいだね」
リオンはその光を見つめながら、心に誓った。
――ぼくは、“壊さない創造”を選ぶ。
その小さな決意が、彼の未来を形作る礎となることを、まだ誰も知らなかった。
冬が過ぎ、春の兆しが見え始める頃。
リオンは“創造パネル”の新たな機能を発見する。
設計図ではなく、“生き物”の情報――鑑定と創造の融合。
次回、「生命のコード」。
少年は、“命を創る”という禁断の扉に触れる。




