6歳編・第8話:創造パネルの目覚め
リオンが風車を作ってから、一週間が過ぎた。
丘の上で回り続けるその羽は、村の子どもたちの遊び場にもなっていた。
「ねえリオンおにいちゃん、これ、魔法で動いてるの?」
「ちがうよ、風の力で動いてるんだ」
「ふしぎー!」
笑い声が広がる中、リオンは静かに風を感じていた。
しかし――その胸の奥に、奇妙な違和感が生まれていた。
(……この感覚、なんだ?)
風が吹くたび、頭の中に“光の線”が走る。
目を閉じると、まるで設計図のようなものが浮かんでくる。
――【設計:風流制御陣】
――【素材:風石・導管】
リオンは息を呑んだ。
(なに、これ……頭の中に、図面がある?)
前世でも、こんな感覚はなかった。
まるで脳内に3Dのホログラムが浮かんでいるように、部品の位置や構造が“見える”のだ。
「ピィ……(どうした?)」
「ピィ、ぼく、見えるんだ。風を操る“仕組み”が」
ピィは羽を震わせ、神妙に鳴く。
「……ぴぃ(それ、創造神の祝福)」
「創造神……?」
「ぴぃ。リオン、あんた、“創造パネル”が目覚めた」
◆1.創造パネルとは
ピィは小さな体で宙を漂いながら、淡く光を放つ。
「創造パネルは、神がこの世界を作る時に使った“設計の力”」
「設計……」
「そう。人が“思い描いたもの”を、魔力を通して現実化するための中枢。
けど普通の人間は持ってない。リオン、あんただけ」
リオンは息をのんだ。
「ぼくだけ……? どうして?」
「たぶん――あんたの魂が、他の世界から来たから」
風が止まり、世界が静まり返る。
(転生者だから……?)
確かに、自分はこの世界の生まれではない。
だが、“前世の知識”と“創造パネル”が結びつくなら――
これは、神が与えた第二のチャンスかもしれない。
「……使えるかな、これ」
「ぴぃ、うまく使えば“創造魔法”の次元が変わる」
リオンは膝をつき、地面に指を当てた。
◆2.実験:風の流れを視る
「創造パネル、起動」
声に出した瞬間、視界の前に淡い青のパネルが浮かぶ。
そこには風の流れが線となって現れ、数字が踊る。
【風速:2.3】
【圧力:低】
【渦流発生:微弱】
(……まるで、シミュレーションソフトだ)
前世で使っていた設計ツールを思い出す。
風の流れ、抵抗、エネルギー分布。
その全てがリアルタイムで可視化されている。
リオンは唇を噛み、心の底から興奮した。
(これがあれば、“理想の構造物”が作れる……!)
「創造魔法!」
風車の周囲に魔法陣が展開され、風の流れが再構築される。
回転速度が一定化し、羽の軋みが止まった。
「やった……! 安定した!」
リオンは拳を握る。
ピィがくるくると舞う。
「ぴぃ!(成功!)」
◆3.神の声
その瞬間。
リオンの頭の奥で、声が響いた。
『よくぞ、使いこなしたな……創造の子よ』
「だ、誰!?」
『我は“創造神アールグレイス”。
この世界を築きし者にして、すべての始まり』
リオンは目を見開く。
体が震え、風がざわめく。
『お前の魂は、滅びの世界から流れ着いた。
だが、創造の記憶を持つ者――
お前は、私の“後継”たり得る』
「ぼくが……?」
『この力を恐れるな。ただ、心のままに“創れ”。世界は、創る者によって形を変える』
声は消え、風だけが残った。
だがその言葉は、確かに胸の奥に刻まれた。
◆4.未来への布石
夜。
丘の上で、リオンは再び風車を見上げる。
月光を受けて回る羽根。
その下で、彼はそっと手を掲げた。
「創造パネル、設計モード――起動」
【新設計案:風魔力変換機構】
【目的:風力→魔力変換/小型発電装置】
リオンの瞳に、光が宿る。
(これを完成させれば、風を“エネルギー”に変えられる……)
(電気じゃなく、魔力を蓄える“風魔導機”。)
彼は小さく笑った。
「……父さん、きっと驚くよ」
風が頬を撫で、遠くでピィが鳴いた。
「ぴぃ……(創造の風、吹き始めたね)」
「うん。これはきっと、“始まり”の風だよ」
リオンの小さな手の中で、青いパネルが光を灯した。
――それは、後に“世界を動かす技術”の原型となる最初の創造だった。
創造パネルを得たリオンは、次なる挑戦へと進む。
それは「風を溜め、使う」こと――風魔導機の完成。
しかし、村に忍び寄る“黒い霧”が、穏やかな日々を侵食していく。
次回、「霧の中の影」。
少年の創造は、初めて“破壊”と出会う。




