6歳編・第7話:風を呼ぶドジ少年
カインが村を去ってから数週間。
リオンの心には、重たい霧がかかったままだった。
(あの人……絶対に諦めてない)
それは確信だった。
だからこそ、今できることをやろうと思った。
――この村を、自分の手で“自立できる村”にする。
そんなある日、彼は畑の片隅で父の作業を眺めていた。
父ダリウスは風に額の汗を拭いながら、重そうに鍬を振るっている。
「父さん、風がないと、やっぱり乾燥が進むね」
「あぁ。風が少ないと湿気も抜けねぇ。作物も根腐れしちまう」
リオンは顎に手を当てて考え込む。
(風……風を“作る”ことはできないかな?)
頭の中で、前世の知識が動き出す。
パソコンのファン、送風機、風車発電。
「回すことで風を作る」――その仕組みを思い出した。
リオンはぱっと顔を上げた。
「そうだ、風車を作ろう!」
父が首をかしげる。
「風車?」
「うん、風を生み出す機械! 木と布があれば作れるよ!」
◆1.最初の挑戦
材料を集めるのに半日。
リオンは父の納屋から使われていない木の棒と古布を引っ張り出した。
「リリィ、ちょっと手伝って!」
「うん! なにするの?」
「これを、こうやって……結んで、くるくる回すと風が出るんだ」
リリィはきょとんとした顔で布を持つ。
「これで風がふくの? まほうじゃないの?」
「ううん、魔法じゃなくて、“仕組み”だよ」
――この瞬間、リオンの目は輝いていた。
“創る”ことへの情熱。
それは前世で失いかけていたものだった。
彼は木の棒を削り、交差させ、布を張り、支柱を立てる。
村の子どもたちが集まってきて、興味津々に見守る。
「リオン、なにそれ?」
「風を呼ぶやつ!」
「すげー! 回るの?」
「うん! これを回すと風が――」
ガタン。
「うわああああぁぁっ!!」
風車の支柱が折れ、見事にリオンの頭に直撃した。
そのまま転がって泥の中にダイブ。
「リオンおにいちゃんが、どじったー!!」
子どもたちの笑い声が村中に響く。
リオンは泥まみれになりながら、頭の上のピィを見上げる。
「ぴぃ……(やっぱり)」
「……笑うなぁぁぁっ!」
◆2.風車、再び
失敗のあとも、リオンは諦めなかった。
「このままじゃ終われない!」
倒れた支柱を拾い上げ、再設計を始める。
地面に木の枝で線を引きながら、真剣な顔でつぶやく。
「支点の位置を下げて、翼を斜めに……。
回転軸に力を分散させて、バランスをとる……。
うん、これでいける!」
まるでエンジニアが設計図を書くように、彼は組み立てていく。
今度は創造魔法で部品の接合を安定させた。
「創造魔法!」
淡い光が木の隙間に走り、結合部が強化される。
「よし、完成!」
リリィが拍手する。
「おにいちゃん、すごーい!」
リオンは風車を高く掲げ、丘の上に設置する。
その瞬間――
「……回った!」
ゆっくりと、羽が風を受けて回り始めた。
次第に速く、滑らかに、そして音を立てて。
「見て! 風が吹いてる!」
「ほんとだ、畑の葉っぱが揺れてる!」
子どもたちは歓声を上げ、リオンは泥のついた頬で笑った。
◆3.ドジの後の奇跡
その夜、父ダリウスは丘の上の風車を眺めながら呟いた。
「まさか、こんなもんで風が起きるとはな……」
「風車の回転が空気を動かして、風が流れを作るんだ」
「お前、どうしてそんなことを思いつくんだ?」
リオンは少し考えて、笑った。
「……わかんない。でも、知ってた気がするんだ」
(前世の知識が、少しずつ思い出されてるのかもしれない)
風が吹くたび、風車の影が畑の上に流れていく。
作物たちが気持ちよさそうに揺れ、夜の空気が生き生きと動く。
(生きてる……世界が、息をしてる)
その静けさの中で、リオンの胸には確信が芽生えた。
「父さん、これをもっとたくさん作ろう。風を使えば、畑の湿気も減るし、水も動かせる!」
ダリウスは笑って頷く。
「お前、本当に止まらねぇな」
「うん、止まらないよ。だって、風がある限り、ぼくたちは進めるんだ!」
◆4.風と約束の夜
夜。
リリィが眠る隣で、リオンは風車の音を聞いていた。
カラカラ……カララ……
心地よい回転音が、子守唄のように響く。
ピィが小さく鳴いた。
「ぴぃ……(いい音)」
「うん、いい音だね。風がぼくたちを見守ってるみたいだ」
月が雲間から顔を出し、風車の影が窓を横切る。
その影が、まるで翼のように見えた。
(風は、自由。
誰にも縛られず、ただ流れ、巡っていく――)
リオンの瞼が静かに落ちていく。
その夢の中では、青空の下で風車がいくつも回り、笑顔の村人たちが風に吹かれながら笑っていた。
それが、彼の“未来図”の最初の一枚だった。
風車の成功は、村の人々を驚かせた。
だが同時に、リオンの中で“ある不思議”が目覚め始める。
創造魔法を使うたび、彼の頭に浮かぶ奇妙な“設計パネル”。
それは、神が遺した“現世との接続点”だった――。
次回、「創造パネルの目覚め」。
少年の世界が、静かに広がり始める。




