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5歳編・第1話:ドジな少年と失われた記憶

眩しい光が差し込む。

どこか懐かしいような温かさに包まれながら、リオン・レインフォードは目を覚ました。

ふわふわとした柔らかい布団の感触。

遠くから、優しい女性の声が聞こえる。


「リオン、起きなさい。朝ですよ。」


目の前に立っていたのは、栗色の髪を結った若い女性――母のエルナだった。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥に何かがざわめいた。

知らないはずの人なのに、涙が出そうになる。


「……おはよう、かあさま」

舌足らずな声が自然に出る。

自分が幼い子供になっていることに、リオンはまだ気づいていなかった。


朝食のテーブルには、粗末ながらも温かい食事が並んでいる。

焼いた黒パン、豆のスープ、そして塩気の強い干し肉。

木製の食器から立ち上る湯気。

どれも素朴なのに、不思議な幸福感に満たされた。


「リオン、お祈りを忘れてるわよ」

父のダリウスが笑う。

大柄で無骨な男だが、目元は優しい。

「……おお、すっかり忘れてた」

両手を組み、ぎこちなく祈りの言葉を唱える。


そのとき、テーブルの端に揺れる小さな手が目に入った。

生まれたばかりの妹、リリィ。

赤ん坊の頬は桃のように柔らかく、寝息が小さく響いていた。


――ああ、これが「家族」か。


リオンは心の奥で、初めてその言葉の重みを感じた。

食卓の温かさ。

父の笑い声。

母の優しい叱り声。

そして妹の小さな寝息。

その全てが、前世では得られなかった光景だった。


***


日が高くなると、村の子供たちが遊びに誘いに来る。

リオンも外に出て、広場の草原を駆け回った。

年は同じ五歳前後。

裸足で走り、転び、笑う。


「リオン、こっちこっち!」

「待ってよ、そんなに速く走れないって!」


村の子供たちは元気だ。

土の上を駆け抜けると、草の香りが鼻をくすぐる。

小川の近くでかくれんぼを始めようとしたその瞬間――


リオンは足を滑らせた。


「うわっ!」


派手に転び、頭を石にぶつける。

鈍い音と共に、視界が白く染まった。


子供たちの悲鳴。

遠くで母の声がする。

「リオン! リオン、しっかりして!」


意識が沈む。

その中で、断片的な映像が流れ始めた。


蛍光灯の光。

パソコンの画面。

キーボードを叩く音。

そして、雨の夜の横断歩道。


――俺は……誰だ?


“藤堂亮介”という名前が、一瞬だけ脳裏をよぎる。

だが、すぐに闇に飲まれた。


“お前は……リオン。リオン・レインフォードとして生きろ。”


誰かの声が響いた。

それは、あの白い光の中で聞いた“神”の声だった。


リオンの体がびくりと震え、再び目を開ける。

母の涙が頬に落ちる。

「よかった……本当によかった……!」

その温もりに包まれながら、リオンは小さくつぶやいた。


「……おれ、死んだんじゃ……ないのか?」


母は聞き取れなかったのか、ただ頭を撫でる。

「もう大丈夫よ、リオン」


リオンはその腕の中で、ぼんやりと天井を見つめた。

混乱と安堵が入り混じる中、頭の奥で、何かがはっきりと形を持ち始めていた。


――俺は、前の世界で何かを作っていた。

――たくさんの“もの”を……。


けれど、それが何なのか思い出せない。

頭の奥にモヤがかかったように、記憶が歪んでいる。


「……また、ドジしたな」

苦笑しながら呟くと、父が笑って肩を叩いた。

「元気になった証拠だな。リオンは本当にドジだ」


村の笑い声が遠くで響く。

リオンは静かに目を閉じた。


――でも、今度の人生は違う。

――この温かさを、絶対に手放さない。


その決意と共に、彼の新しい日々が始まった。


***

一度死んだ男は、再び「家族」を得た。

しかしその心の奥では、まだ消えない記憶の影が揺れていた。

――リオン・レインフォード、覚醒の序章。

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